結核性関節炎(読み)けっかくせいかんせつえん(その他表記)Tuberculous arthritis

六訂版 家庭医学大全科 「結核性関節炎」の解説

結核性関節炎
けっかくせいかんせつえん
Tuberculous arthritis
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 肺結核の原因である結核菌によって関節に炎症を引き起こす病気です。結核は以前に比べると少なくなりましたが、現在でもなお毎年2~3万人の人が発症しており、結核性関節炎も今なお注意すべき重要な病気のひとつです。

原因は何か

 結核菌が血液を通して関節に流れ込み、関節炎を引き起こします。関節炎が続くと、次第に関節の表面の軟骨が壊され、さらに骨まで破壊されて、関節がくっついてしまう(強直(きょうちょく))こともあります。この関節炎は、股関節、膝関節仙腸(せんちょう)関節に発症することが多いと報告されています。

 糖尿病悪性腫瘍、薬物の常用(副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤など)などで治療中の人や高齢者は、結核性関節炎にかかりやすく、また治りにくくなる傾向があります。

症状の現れ方

 関節の痛みやはれがみられますが、程度は化膿性(かのうせい)関節炎ほど強くはなく、発赤や熱感もあまりみられません。関節を包む膜が厚くなって、硬いしこりを触れることもあります。進行すると、関節の外にうみが出て、さらに皮膚に孔があき(瘻孔(ろうこう))、うみが出てくることもあります。

 微熱、食欲不振、寝汗などを伴うこともありますが、肺結核の症状がみられない場合も少なくありません。

検査と診断

 血液検査では、赤血球沈降速度の亢進、C反応性蛋白(CRP)の陽性など、炎症性の変化がみられます。

 X線検査では、最初に関節の周囲の骨が薄くなり、進行すると次第に骨の破壊がみられます。病巣の範囲を調べるにはMRIによる画像検査が有用です。

 診断には結核菌を証明することが最も重要です。注射器で関節を穿刺し採取した液を培養して、結核菌の有無を調べます。関節の組織の一部を採取して顕微鏡による検査(病理学的検査)を行うこともあります。また、肺結核に対する検査も必要であり、肺のX線検査、ツベルクリン反応、クォンティフェロン検査、喀痰(かくたん)培養、呼吸機能検査、胃液検査も必要になります。

治療の方法

 結核に対する治療と関節炎に対する治療を並行して行います。

 結核に対しては、安静、食事療法、薬物療法(抗結核薬)が行われます。痰から排菌している場合には、専門施設での隔離が必要になります。

 関節炎を起こしている局所に対しては、ギプス牽引(けんいん)などによる安静、固定を行います。炎症が治まらない場合や瘻孔からうみが出ている場合には、外科的治療が必要になります。手術は関節を切開して、うみや炎症のため傷んでしまった部分を切除します。進行して骨まで傷んでいる場合には、関節を固定する手術を行うこともあります。

病気に気づいたらどうする

 肺結核の既往があって、関節炎の症状があれば、すぐに整形外科を受診してください。肺結核に対する検査や治療も行う必要があるため、内科と共同で行うことになります。

関連項目

 化膿性関節炎脊椎カリエス

田中 浩


結核性関節炎
けっかくせいかんせつえん
Tuberculous arthritis
(感染症)

どんな感染症か

 肺結核の経過中に、病巣から結核菌が血管内に侵入し、血流によって関節に運ばれて発症します。

 結核の初感染後に短期間内で発症するものや、数年後、結核の再燃によるものがあります。手や足の結核性関節炎はほとんどが単関節性であり、最も多いのは(しつ)関節です。

症状の現れ方

 症状は潜行性のため、なかなか気づきません。全身症状である発熱、発汗、疲れなどの症状は明らかでありません。

 発症時には関節に軽い痛みがあり、通常、夜間になると痛みが増し、膝のこわばりが現れます。

 初期の局所所見としては、限局性の圧痛(押すと痛い)、腫脹(しゅちょう)(はれ)、関節内の滲出液(しんしゅつえき)貯留(水がたまる)、患部関節の皮膚温度の上昇がみられます。無治療のまま放置すれば、筋肉の萎縮(いしゅく)や骨の破壊による関節変形が現れるようになります。

 結核菌によって起こる脊椎(せきつい)カリエスの多くは椎間板(ついかんばん)に初発しますが、やがて椎間板が破壊され、椎間腔が狭くなります。さらに病期が進むと、下部胸椎(きょうつい)や上部腰椎(ようつい)の椎体部が破壊され、破壊が高度になると背骨が後方に高度に曲がって後弯(こうわん)(亀背)となります。

検査と診断

 最も正確な診断法は、関節液、関節組織やリンパ節を採取し、細菌検査と病理組織検査を行うことです。これらの検査で、抗酸菌(こうさんきん)(結核菌)を見つけたり、骨病変、滑膜(かつまく)あるいはリンパ節の生検(病理診断)などにより結核性肉芽腫(にくげしゅ)の有無を確認します。

 最近では、結核菌を短時間で検査できるPCRによる遺伝子診断法が実用化されています。

治療の方法

 結核で使用される薬剤は、イソニアジドINH)、リファンピシリン(RFP)、ピラジナミドストレプトマイシンエタンブトールなどです。

 近年、INHやRFPに耐性(たいせい)をもつ多剤耐性結核菌(薬が効かない)が問題になっています。

古田 格

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「結核性関節炎」の解説

けっかくせいかんせつえんかんせつけっかく【結核性関節炎(関節結核) Tuberculous Arthritis】

[どんな病気か]
 肺結核など、ほかの結核病巣から結核菌が血管に入り、関節に流れてきておこる関節炎です。
 肺結核(「肺結核」)が多かった時代にはよくみられた病気で、脊椎(せきつい)カリエス(「脊椎カリエス(結核性脊椎炎)」)とともに、治りにくい病気の1つでした。
 しかし結核は、予防接種の普及、抗生物質の発達、患者さんの入院の徹底、栄養の向上などによって、少なくなってきた病気です。
 とくに、子どもがかかることは非常に減少し、最近では中高年に多い病気となっています。
 ただし、結核はけっして過去の病気となったわけではありません。現在でも発症が続いており、怖い感染症の1つです。
[症状]
 関節の腫(は)れと痛みがおもな症状ですが、化膿性関節炎(かのうせいかんせつえん)(「化膿性関節炎」)と異なり、熱や赤みはあまりなく、激痛もめったにみられません。
 安静によって痛みは軽くなり、動くとまた痛みがおこりますが、動けないほど強いものではありません。
 そのため、診断も遅れがちになり、だんだんと関節の動きが悪くなっていきます。
[検査と診断]
 関節に多量の水がたまる水腫(すいしゅ)型、関節がかたく腫れ、筋肉がやせる肉芽(にくげ)型、関節に膿(うみ)がたまる化膿型という、3つのタイプがあります。
 症状とX線撮影で見当はつきますが、確実に診断するには、関節から抜いた関節液の中から結核菌を見つけ出すか、あるいは関節の組織を少しとって、顕微鏡でそれを詳しく調べて(生検(せいけん))結核菌を見つけるか、または、特徴的な結核腫(けっかくしゅ)という病巣を見つけなければなりません。
[治療]
 入院して、ギプスで固定したり、牽引(けんいん)で関節の安静を確保します。
 できるだけ早く、関節鏡を用いた関節内の洗浄と肉芽の切除を行ない、チューブを挿入して、関節内の洗浄を続けます。それと同時に、抗結核薬を使用します。
 しかし、発見が遅れて病状が進行してしまうと、関節は破壊されてしまいます。こうした場合には、炎症を治すために、関節を固める手術(関節固定術(「関節手術のいろいろ」))が必要となってきます。
 抗結核薬は、炎症が治まっても引き続き、数か月は服用しなければなりません。
 また、関節結核でも、結核予防法に定められた届け出が必要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内の結核性関節炎の言及

【関節炎】より

…なお,化膿性関節炎の起炎菌として近年,真菌によるものもときどきみられる。 結核性関節炎tuberculous arthritisは結核菌によるもので,結核菌が最初関節内の滑膜に付着し結核性滑膜炎として初発する滑膜型と,直接関節を構成する骨に付着し骨を破壊する骨型の2型に分けられる。とくに股関節,膝関節などに多発し,年齢的には若年者に多い。…

※「結核性関節炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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