脊椎における結核性病変をいう。カリエスとは〈骨が腐る〉という意味で,結核性という意味は含まれていないが,〈骨を腐らせる〉のは結核が最も多いところから,骨関節結核を一般にカリエスという。脊椎カリエスは,骨関節結核の一つで,その半数以上を占め頻度は最大である。脊椎のなかでは胸椎に発症するものが最も多く,腰椎がこれに次ぐ。脊椎骨のうち,椎体の侵されるものが大半を占め,脊椎骨の後方部分を形成する横突起,椎弓,関節突起,棘(きよく)突起などは侵されにくいので,脊椎骨全体として前方の椎体のみ圧潰され,そのため罹患椎部は特徴ある限局した後彎(こうわん)を呈し,とがって後方に突出することが多く,角状後彎と呼称される。数多くの脊椎骨が罹患し,角状後彎の上下に全体として後彎を呈すると亀背,いわゆる〈せむし〉となる。
疼痛が初発症状のことが多く,この疼痛のために傍脊椎筋の反射性緊張を起こして脊椎のしなやかさを失い(不撓性),小児などでは脊椎運動によって疼痛を起こすので,脊椎を動かさざるをえない衣服の着脱などをいやがるため,入浴などをいとうようになる。結核菌に破壊された骨は膿瘍を形成する。これらの膿瘍はいわゆる結核性の冷膿瘍であるが,胸椎カリエスでは横隔膜にさえぎられ,周囲は心臓,肺,縦隔などの組織にとり囲まれているために脊椎の周囲に膿が貯留し,X線像では西洋ナシ状の膿瘍陰影を呈し,滞積膿瘍という。腰椎カリエスにおいては膿瘍は重力により組織間隙を伝わって遠隔部に膿瘍を形成し,これを流注膿瘍という。腰椎カリエスの腸骨窩(か)膿瘍,大腿筋膿瘍,膝窩部膿瘍などがその典型である。膿瘍は一たび瘻孔(ろうこう)をつくるとなかなか閉鎖しない。また,椎体の骨破壊により膿瘍や病的肉芽組織が脊椎管内に出て脊髄を圧迫し,圧迫性脊髄炎を起こし,両下肢の運動・知覚障害や膀胱直腸障害を生ずるにいたる。
治療は結核全般の全身療法と共通である。従来は抗結核剤とギプスベッド安静による保存的療法が主流を占めていたが,現在では手術的療法により大幅にその病臥期間が短縮されている。抗結核剤としては,ストレプトマイシン(SM),パラアミノサリチル酸(PAS(パス)),イソニコチン酸ヒドラジド(INAH),カナマイシン(KM),リファンピシン(RFP),エタンブトール(EB)などが用いられる。手術的療法は,抗結核剤投与下に,胸椎では胸膜外から,または開胸により,腰椎では腹膜外から,または開腹により,病巣に到達し,徹底的に病巣を摘出し,骨移植により椎体固定を行う。また昔は膿瘍の切開は〈死の門戸を開く〉といわれ,危険なものとされたが,現在では積極的にメスが加えられている。圧迫性脊髄炎に対しては,下肢牽引などの保存的療法が効を奏しない場合には,前方から病巣を搔爬(そうは)して除圧をはかる方法がとられている。圧迫性脊髄炎とともに亀背を矯正するときはハロー骨盤牽引halo-pelvic tractionなどが除圧手術と併用され,しだいに亀背を矯正し,最終的に後方固定術が行われる。
→結核
執筆者:河路 渡
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
結核性脊椎炎tuberculous spondylitisのことをわが国では一般に脊椎カリエスと呼び習わしている。肺などの他の結核病巣から血行性に脊椎へ転移して発病した二次感染による結核が脊椎カリエスで、椎体に入った結核菌が骨内に空洞を形成すると、椎体は体重によって圧縮されくさび状となり、外見上も亀背(きはい)が目だってくる。疼痛(とうつう)を主症状とし、胸椎カリエスでは背痛、肋間(ろっかん)神経痛を、腰椎カリエスでは腰痛、坐骨神経痛をきたす。かつては多い疾患であったが、肺結核が減少するに伴い少なくなっている。結核に対する全身的療法とギプスベッドやコルセットによる局所の免荷と安静保持が行われる。局所に対する根治的手術も行われる。かつては不治の病として恐れられていたが、治療法の進歩によって現在は生命的予後はよい。
なお、カリエスはラテン語で骨が腐るといった意味をもち、歯科で齲蝕(うしょく)dental cariesや齲歯(むし歯)carious toothというように用いられている。
[永井 隆]
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