日本大百科全書(ニッポニカ) 「総漁獲可能量」の意味・わかりやすい解説
総漁獲可能量
そうぎょかくかのうりょう
total allowable catch
水産資源を維持・管理・回復するため、魚種ごとに漁獲できる総量を制限すること、または魚種ごとに定めた漁獲上限値。略称TAC。1994年に発効した国連海洋法条約に基づき設定される。日本は同条約を1996年(平成8)に批准し「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」(TAC法)を成立させ、1997年からTAC制度を導入した。生物学的許容漁獲量(ABC:allowable biological catch)などの科学的データを基に漁業者の経営状況などを勘案して毎年設定される。TAC管理は、沿岸国がその排他的経済水域(EEZ)内で導入する場合と、国際漁業管理機関がそれぞれの国際漁場で実施する場合がある。2014年(平成26)末時点で日本は排他的経済水域でサンマ、スケソウダラ、マアジ、マイワシ、マサバ・ゴマサバ、スルメイカ、ズワイガニの7魚種についてTACを設定。大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)などは国際漁場でクロマグロなどについてTACを設定している。TAC制度には、自由競争での漁獲を認め、漁獲量がTACに達した時点で漁獲を停止する「オリンピック(早い者勝ち)方式」と、漁業者や漁船ごとに漁獲量を割り当てる「IQ(individual quota、個別割当)方式」がある。さらにIQ方式のうち、余った漁獲量を他の漁業者へ譲渡できる方式を「ITQ(individual transferable quota、譲渡可能個別割当)方式」とよぶ。早どり競争に陥って小形魚までとりつくしがちなオリンピック方式よりIQ方式のほうが水産資源の保護に役だつとされており、さらにITQ方式は漁業者の集約や収益向上につながる効果があるとされる。2014年末時点で、世界のおもな漁業国のうちアメリカ、ノルウェー、アイスランド、イギリス、スペイン、オーストラリア、ニュージーランドなどがTAC制度を導入し、このうちアメリカ、ノルウェー、アイスランド、オーストラリア、ニュージーランドなどがITQ方式を、イギリス、スペインなどがIQ方式をそれぞれ採用済み。先進国でオリンピック方式は日本だけである。このため日本政府は2014年秋から、マサバとゴマサバについて試験的にIQ方式導入を始めた。新潟県は2011年から佐渡島周辺でのホッコクアカエビ(アマエビ)漁にIQ方式を導入した。なお水産資源管理にはTACのような量的管理のほか、漁期・漁区・漁船数の制限、小形魚・未成魚の漁獲制限、産卵地での禁漁、網目の大きさ制限などの質的管理がある。
[矢野 武 2015年4月17日]