日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロマグロ」の意味・わかりやすい解説
クロマグロ
くろまぐろ / 黒鮪
pacific bluefin tuna
[学] Thunnus orientalis
硬骨魚綱スズキ目サバ科に属する海水魚。ホンマグロともよばれる。大西洋に生息するタイセイヨウクロマグロは近年別種とされており、一般的に「クロマグロ」という場合は「太平洋クロマグロ」をさす。タイセイヨウクロマグロと同様にマグロ類のなかではもっとも大形で、全長3メートル、体重400キログラムに達する。胸びれが比較的短く、眼径が小さい。体の背部は暗青色、腹部は銀白色を呈する。若魚では体側に十数条の淡色横帯があり、ヨコワとよばれる。体長約1メートル以下の若年魚はメジ、クロメジ、大形のものはシビと俗称されるが、シビの名はマグロの古語でもある。体の内部構造として、肝臓腹面に多数の脈管条が分布し、筋肉中の毛細血管網が発達していて、体温維持の機構を備えている。
クロマグロのおもな分布域は北太平洋の温帯域で、亜熱帯や亜寒帯の一部にかけても生息する。また南半球ニュージーランド周辺でもわずかな分布がみられる。分布の北縁は南千島からカナダ南部沿海が知られている。若年期に大きな渡洋回遊をする。日本近海から沿岸に分布回遊するマグロではクロマグロがもっとも多く、日本海にも生息する。おもな産卵場は台湾から沖縄近海、および日本海であり、産卵期は前者で4~7月、後者では7、8月。生まれた仔魚(しぎょ)は晩夏から初秋にかけて体長20~30センチメートルの若魚(ヨコワ)に成長して日本沿岸に来遊する。1~2歳魚になると太平洋を横断してカリフォルニア水域に回遊するものがあり、そこで2年ぐらい滞留して、ふたたび日本近海に戻ってくる。春になると北上し、秋から冬には南下する季節的な南北回遊を行い、3~5歳になって成熟すると産卵場に回帰する。寿命は長く、20歳以上とされている。
定置網、引縄、竿(さお)釣り、巻網(旋(まき)網)、延縄(はえなわ)など種々の漁法で漁獲される。肉は濃赤色で刺身やすし種(だね)として好適。「とろ」は腹側の脂肪が多い肉の部分で、冬季漁獲されるものはとくに賞味される。マグロ類中の最高級魚であり、価格も高く需要も多いので養殖が拡大してきた。おもに天然稚魚を大型生け簀(す)で2~3年飼育する。人工種苗による養殖も増えつつある。2013年の養殖生産量は9000トン程度と推定されている。
クロマグロは主要な産卵場や生育場が日本の周辺海域であり、漁獲の7割近くが日本の漁業によって行われている。また、漁獲物・養殖生産のほとんどが日本市場で消費されている。本種は国際資源として中西部太平洋まぐろ類委員会が管理するが、生態・利用の現状から、日本は資源の持続的利用に向けた調査や管理提案を率先して行ってきている。2014年(平成26)時点の資源状況は科学的データが整備されている過去61年間で最低水準に近いとされており、資源回復に向けて未成熟魚の漁獲を制限する管理措置が検討されている。
[上柳昭治・小倉未基 2015年1月20日]