水産資源管理(読み)すいさんしげんかんり

共同通信ニュース用語解説 「水産資源管理」の解説

水産資源管理

水産資源を枯渇させずに持続的に利用するため乱獲を防ぐ仕組み。2020年に関連法が施行される予定の水産改革では、地元の漁協漁業者漁業権を優先的に割り当てる漁業法の規定の廃止と並んで、資源管理の強化が柱となっている。管理の手法は漁船の隻数や操業日数を規制する「入り口規制」と、漁獲量を制限する「出口規制」に大別され、水産改革は出口規制の強化に重点を置く。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水産資源管理」の意味・わかりやすい解説

水産資源管理
すいさんしげんかんり

水産資源の有効かつ持続的な利用を目的とした漁業規制のこと。

概観

水産資源は自律更新性(再生可能)の資源であるため、漁業による持続的な利用が可能である。しかし、だれの所有でもない無主物である水産資源を共同利用される漁場において自由競争的に漁獲すると、親魚の過剰漁獲(加入乱獲)や若齢魚の過剰漁獲(成長乱獲)によって漁獲量が減少することがある。水産資源管理はこうした乱獲を引き起こす漁業内部に存在する問題について、規制を加えることによって解決を図ろうとするものである。なお、類語として漁業管理があるが、これは漁業の経済的達成度を高めることに重きを置いた漁業規制・漁業調整である。ただし、両者には同様の漁業規制が含まれており、また両者の目的が同時に達成されることもあるので、峻別(しゅんべつ)されずに使用される場合もある。

 水産資源管理の規制内容による区分には諸説あるが、日本においては投入量規制(Input Control)、産出量規制(Output Control)、技術的規制(Technical Control)に区分することが一般的となっている。投入量規制には、操業隻数・操業期間・操業日数・使用漁具数などの漁獲努力量の規制と、漁船規模や推進馬力数などの漁獲能力の規制があり、入口規制ともいわれる。産出量規制は漁獲量の制限であり出口規制ともいわれる。漁獲可能量TAC:Total Allowable Catch)による総量規制とそれを個別経営体に配分する個別漁獲割当て(IQ:Individual catch Quota)、譲渡可能個別漁獲割当て(ITQ:Individual Transferable catch Quota)、個別漁船漁獲割当て(IVQ:Individual Vessel catch Quota)などがある。技術的規制は、漁具・漁法の制限(網目制限・禁止漁具漁法)、操業の制限(禁漁期禁漁区・保護区)、漁獲物の制限(体長・性別・親魚)であり、質的規制ともいわれる。以上のほか、漁業者個々の過当競争の排除等の効果をねらいとした共同化や協業化、漁利のプール制等の漁業管理も存在する。現実の水産資源管理はこれらの漁業規制を組み合わせて実施される場合が多い。

[廣吉勝治・工藤貴史 2022年9月21日]

日本における資源管理

水産資源管理を管理主体によって区分すると、行政による公的管理、漁業者による自主管理、そして行政と漁業者が責任と役割を分担する共同管理(Co-Management)がある。日本の水産資源管理は、漁村を基礎単位とする伝統的な自主管理と、漁業法、水産資源保護法、都道府県漁業調整規則等による公的管理があり、さらに自主管理と公的管理を統合した管理形態として「資源管理型漁業」「資源回復計画」「資源管理指針・資源管理計画」などの共同管理が展開されてきた。このうち「資源管理型漁業」は、漁業所得の維持向上や操業の共同化・協業化等を目的とした活動であり、1980年代以降行政の支援や漁業協同組合(漁協)系統団体の運動目標を得て全国的に盛行するが、水産資源管理というよりは漁業管理としての性格が強い。

 日本では、歴史的に投入量規制と技術的規制を組み合わせて水産資源管理がなされてきたが、国連海洋法条約を批准した1996年(平成8)から産出量規制が加わり、実施されることとなった。国連海洋法条約では、沿岸国は排他的経済水域における生物資源の漁獲可能量を決定することを定めており、日本では「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」(いわゆるTAC法)を1996年に施行して対応した。TAC法は2018年(平成30)12月の漁業法改正によって同法に組み込まれることとなった。

[廣吉勝治・工藤貴史 2022年9月21日]

2018年漁業法下の資源管理

改正漁業法では、漁獲可能量およびこれに基づく漁獲割当てを水産資源管理の基本原則としており、農林水産大臣が資源管理基本方針に即して特定水産資源とその漁獲可能量を定めることとなっている。2022年(令和4)1月時点における特定水産資源は、サンマ、マアジ、マイワシ、スケトウダラ、スルメイカ、サバ類、ズワイガニ、クロマグロ、国際資源(メカジキ:南西太平洋海域、メバチ:東部太平洋条約海域、アカウオ類:北西大西洋条約海域、カラスガレイ:北西大西洋条約海域、キハダ:インド洋協定海域)、鯨類(イワシクジラ、ニタリクジラ、ミンククジラ)となっている。なお、水産庁では、日本の漁獲量のうち漁獲可能量を定めている特定水産資源の割合を8割まで拡大していく方針である。

 これらの特定水産資源は、資源評価に基づき、資源管理の目標を設定し、その目標を達成する漁獲シナリオに即して漁獲可能量が決定される。改正漁業法では資源管理の目標として「目標管理基準値」と「限界管理基準値」を定めることとなっている。前者は、最大持続生産量(MSY:Maximum Sustainable Yield。現在および合理的に予測される将来の自然的条件の下で持続的に採捕することが可能な水産資源の数量の最大値)を実現するために維持または回復させるべき目標となる値である。後者は、資源水準の低下によって最大持続生産量の実現が著しく困難になることを未然に防止するため、その値を下回った場合には資源水準の値を目標管理基準値にまで回復させるための計画を定めることとする値である。

 水産資源の生物量(バイオマス)が変動する要因は、漁獲による人為的要因だけでなく気候条件、栄養塩、一次生産などの自然要因がある。水産資源管理は漁獲規制によって人為的要因を改善するものであり、自然要因そのものをコントロールするわけでない。そのため、水産資源管理によって水産資源の生物量そのものをコントロールすることには限界があるといえる。

[廣吉勝治・工藤貴史 2022年9月21日]

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