サンマ(読み)さんま(英語表記)Pacific saury

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サンマ」の意味・わかりやすい解説

サンマ
さんま / 秋刀魚
Pacific saury
[学] Cololabis saira

硬骨魚綱ダツ目サンマ科に属する外洋表層性の海水魚。関西地方ではサイラサヨリ、三重県ではカドという。オホーツク海南部、東シナ海、太平洋の寒帯南部から亜熱帯に分布し、日本近海では千島列島から沖縄諸島付近まで、アメリカ大陸近海ではアラスカからバハ・カリフォルニアにかけて生息する。体は細長く、両あごはくちばし状で、下顎(かがく)は上顎よりも突出する。側線は腹縁近くを走る。背びれの起部は臀(しり)びれの起部より後から始まる。背びれと臀びれの後方に数個の小さなひれがある。下顎の先端は黄色。最大全長43センチメートル、体重350グラムになる。

[落合 明・尼岡邦夫]

生活史

体長20センチメートル以上で成熟し、400~3000粒の卵をはらむ。春または秋に暖流の北縁部で、浮遊物やホンダワラ類などの流れ藻に粘着卵を産み付ける。卵は球形に近い楕円(だえん)形で、一端に約20本の付属糸が、またこれより90度回転した部分に1本の長い紐(ひも)があって、これらで固形物に絡まる。

 受精後15℃で約17日、20℃では10日前後で孵化(ふか)する。孵化仔魚(しぎょ)は全長7.2ミリメートル。全長2.3センチメートルで各ひれが完成して稚魚となり、4センチメートル以上で遊泳力が加わる。5センチメートルぐらいから若魚となり、群れをつくり始める。成長は速く、春に生まれた群れは、1歳で24センチメートル、2歳で32センチメートル、秋に生まれた群れは1歳で17センチメートル、2歳で28センチメートル余りになる。寿命は2年である。胃がなく、腸が短い消化器系を有する。一生の間、コペポーダなどの橈脚(とうきゃく)類、オキアミなどの動物プランクトンを主食とし、ときに魚卵やカタクチイワシなどの小魚を食べるが、成長段階や季節、海域などによって食性は著しく異なる。日暮れから11時ごろまでは活発に餌(えさ)をとる。

 また、サンマはヒラマサシイラ、サメ類、クロマグロ、アカイカ、クジラ、海鳥などにとって重要な餌になる。

[落合 明・尼岡邦夫]

回遊

サンマは日本からアメリカ西岸にかけての広い海域に分布するが、北西太平洋群、中部太平洋群、北東太平洋群の3群に分けられている。集団遺伝学や寄生虫学などの研究から、北西太平洋群と中央太平洋群の間に交流があることが判明している。また北西太平洋群のなかでもいくつかの小集団が認められるが、サンマは産卵期が長く、1産卵期に数回産卵し、その時期や場所が少しずつずれているためと考えられる。

 日本の太平洋側では、黒潮の勢力が増大していく春から夏に、沿岸から沖合いにかけて餌(えさ)を求めて北上する。その間に一部の成魚は産卵する。7月末には東北沖合いから中部千島の近海に至る。一般には大型魚、中型魚、小型魚、若魚の順に北上回遊し、大型魚はもっとも北まで行く。8月に一部の群は南千島の水道を通って、オホーツク海から樺太(からふと)(サハリン)東岸に達する。水温が低下する8月末から、北海道の沿岸に来遊する。30センチメートル前後の大形魚は9、10月に東北地方海域へ、25~28センチメートルの中形魚は11~12月に茨城県近海、1~3月には熊野灘(なだ)や四国の沿岸や沖合いまで回遊する。この間に大形魚や中形魚は産卵する。サンマの回遊の南限域は北緯25~30度で、表面水温は18~22℃である。

 日本海のサンマは、春から夏にかけて対馬(つしま)暖流と寒流との境を産卵しながら北上する。山口県には4~6月、佐渡島から男鹿(おが)半島には5、6月、北海道沖合いへは6、7月に来遊し、8月中ごろに北方海域へ向かう。一部は宗谷海峡を通ってオホーツク海に入る。秋には、比較的沖合いの15~16℃の水温帯を通って南下し、10月以降に九州沿海に達し、3、4月まで九州南部で越冬する。南下回遊をする群れは太平洋のそれに比して数が著しく少ない。南下の途中でも産卵するが、北上回遊時のように産卵活動は活発でない。

[落合 明・尼岡邦夫]

漁業

サンマは重要な水産資源であり、多い年には50万トン以上も水揚げされたことがある。とくに北海道と東北地方海域では、日本のサンマ漁獲量の80%近くがとれる。ここでの主漁期は8~11月である。漁場は、10月中旬までは親潮前線の縁辺上に、それ以後は親潮と黒潮の混合水域に形成される。両潮の強弱、方向などの要因で、漁獲量は年によって大きく変動し、9年または36年の周期がある。親潮の中心が岸近くに南下し、漁場が沿岸に形成される年は、大形や中形がとれて豊漁となる。親潮の中心が沖を通る年は、漁場が沖合いに形成され、魚体は小さくて漁獲量も少ない。

 太平洋中部では1~7月、熊野灘や土佐(とさ)湾では12月から翌年3月に漁獲される。日本海の漁期は、南部で秋と春、中部で6、7月、北海道で7、8月である。

 1930年(昭和5)ごろはおもに流し網(刺網)で漁獲したが、1939年に、夜間サンマが光に集まる習性を利用したサンマ棒受網(ぼううけあみ)が開発された。この漁法は能率がよく、魚体も傷がつかないことから、1950年(昭和25)ごろから急速に普及した。棒受網は、集魚灯で魚群を集め、その下に敷いてあった網をすくい上げて捕獲するものであるが、近年はソナーや魚群探知機などを用いた魚群の探知や、網のなかに集めた魚を吸い上げて魚倉に送り込むフィッシュポンプなどを用いた効率化が進んでいる。北海道西岸域や佐渡島近海では、海面に浮かべた莚(むしろ)の中央部に穴をあけ、ここから手を入れて莚の下に集まったサンマを手づかみする漁法が古くからある。

[落合 明・尼岡邦夫]

食品

代表的な大衆魚であるが、いつごろから食用とされたかは不明である。江戸時代の百科事典である『和漢三才図会(ずえ)』には、サンマは魚中の下品であると記載されている。「目黒のさんま」で有名な落語も江戸時代のことで、下等なサンマと大名の対比がテーマになっている。

 脂質含量の多いのがサンマの特徴であるが、魚の大小、漁獲時期によって大きく変動する。小形のサンマは一般的に脂質が少ないが、大形になると変動が大きい。8月に北海道の沖合いでとれるサンマは10%前後の脂質しか含まないが、10月にとれるものは20%も脂質を含む。ちょうどそのころ房総沖にくるので、九十九里浜、鹿島灘(かしまなだ)のものが最高の味といわれている。産卵を済ませると脂質の量はふたたび減りだし、12月ごろには5%になり、まったくやせてしまう。和歌山県あたりでは、脂質分がたいへん少なく、生魚(なまざかな)としては味がよくないので、棒ずしなどに加工される。日本海側でとれるサンマも脂質が少なく、塩干物に加工されることが多い。サンマは塩焼き、みそ焼き、蒲(かば)焼き、酢の物、フライ、マリネ、バター焼きなどにする。加工品には生干しの塩さんま、みりん干し、薫製、缶詰では水煮、蒲焼き、トマト煮などがある。東北では、塩をして飯とともに漬け込んで発酵させたサンマのいずしをつくる所が多い。なお、サンマは脂(あぶら)がのって味がよいのは秋だが、軽く塩をして冷凍保存したものが一年中出回っている。

[河野友美・大滝 緑]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サンマ」の意味・わかりやすい解説

サンマ
Cololabis saira; Pacific saury

ダツ目サンマ科の海水魚。体は側扁して細長く,全長 40cm内外。歯は小さく,下顎がやや突き出ている。背鰭,尻鰭それぞれの後方に5~6個の離れ鰭がある。外洋の表層に群泳し,秋季産卵のため沿岸に回遊する。千島列島から九州にかけて分布する。塩焼などにして賞味される。

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