日本大百科全書(ニッポニカ) 「マアジ」の意味・わかりやすい解説
マアジ
まあじ / 真鰺
Japanese jack mackerel
[学] Trachurus japonicus
硬骨魚綱スズキ目アジ科アジ亜科マアジ属に属する海水魚。北海道南部以南の日本各地の沿岸、東シナ海、朝鮮半島の沿岸に分布する。マアジ属は背びれと臀(しり)びれの後ろに小離鰭(しょうりき)がないこと、稜鱗(りょうりん)(鋭い突起を備えた肥大した鱗(うろこ)。一般には「ぜんご」「ぜいご」ともいう)が側線の全体にわたって発達することなどで特徴づけられ、日本には本種しかいない。日本産アジ類のなかでもっとも普通の種類である。体はやや側扁(そくへん)した紡錘形。目には脂瞼(しけん)(目の周囲や表面を覆っている透明の膜)がよく発達し、開口部は縦の長楕円(ちょうだえん)形。上顎(じょうがく)の後端は目の前縁を越えて後方に伸びる。上下両顎の歯は微小で、1列に並ぶ。臀びれの前方に2本の遊離棘(きょく)がある。側線の前部の湾曲部は後部の直走部よりもわずかに短い。体の背縁に沿って走る付属側線は第2背びれの起部下近くまで伸びる。稜鱗は背腹によく広がって大きい。体の背側面は暗黒色、または淡黄褐色で、腹側面は銀白色。鰓孔(さいこう)の上部に1個の黒色斑(はん)がある。日本各地にいくつかの系群があり、春に北上し、秋に南下する季節的な回遊をする。産卵場は東北海域以南の日本各地の沿岸で行われ、産卵期は各海域で異なる。産卵活動は水温16~17℃でもっとも盛んであり、この水温帯の動きとともに産卵場は南から北へ移動する。一般に西日本では1~5月、東日本では5~7月に盛期がみられる。生殖腺(せん)が成熟する生物学的最小形は全長15センチメートル前後であるが、完熟状態のものは少なくとも全長20センチメートル以上にならないとみられない。1尾が産出する卵数は、全長20センチメートルで5万粒、30センチメートルで18万粒である。卵径は0.81~0.93ミリメートルで、1個の油球をもった分離浮性卵で、卵黄には大きい亀裂がある。産出された卵は水温22℃では約40時間で孵化(ふか)する。孵化仔魚(しぎょ)は全長2.1~2.5ミリメートル。1年で尾叉長(びさちょう)18センチメートル前後、2年で26センチメートル、3年で30センチメートル、4年で32センチメートル、5年で34センチメートルあまりに成長する。最大全長は40センチメートルに達し、大形のものはオオアジともよばれる。若魚や成魚はおもにオキアミ類、コペポーダ類、端脚(たんきゃく)類などの動物プランクトン類やカタクチイワシ、キビナゴなどの魚類、イカ類、小エビ類、多毛類などを食べる。日本沿岸では、背部が淡黄褐色系のキアジと、暗黒色系のクロアジの2型がある。キアジは沿岸の瀬で定着的な生活をし、体高がやや高く、体長は体高の4倍前後あり、よく肥満して脂肪分が多い。クロアジは沖合いを回遊し、体高が低くて、体長は体高の4.6倍前後で、脂肪含有量が低い。おもに大・中型巻網で漁獲され、ついで定置網、底引網、棒受(ぼううけ)網、釣りなどによる。マアジはやや淡泊で、くせがないので、刺身、たたき、てんぷら、干物などとして広く利用されるほか、養魚場や水族館では餌料(じりょう)として重要である。
[鈴木 清・尼岡邦夫 2023年11月17日]
漁業
マアジは第二次世界大戦後では資源の増大、東シナ海や黄海の巻網漁場の開発などにより漁獲量が急激に増加し、1960年(昭和35)には59万トンとなり、その後1966年まで毎年50万トン前後の漁獲があった。しかし、1967年以降漁獲量は徐々に減少し、1980年には14万トンまで低下した。その後1996年(平成8)には40万トン近くまで回復。しかし2005年(平成17)には20万トンを割り、2018年までは11万~17万トンで推移していたが、2019年(令和1)ついに10万台を切り、2021年には9万トンになった(農林水産省「漁業・養殖業生産統計」による)。
漁業的に重要とみられる濃密分布域は、東シナ海域(福岡県から沖縄県)、日本海西海域(福井県から山口県)、太平洋南海域(和歌山県から宮崎県)、太平洋中海域(千葉県から三重県)である。漁期はだいたい周年にわたるが、多く漁獲される時期は5~12月で、春と秋に盛漁期がある。
[鈴木 清・尼岡邦夫 2023年11月17日]