緩和ケア(読み)カンワケア(その他表記)palliative care

翻訳|palliative care

デジタル大辞泉 「緩和ケア」の意味・読み・例文・類語

かんわ‐ケア〔クワンワ‐〕【緩和ケア】

palliative care》完全な治癒の望めない患者に対し、生命の持続よりも、その身体的痛みや精神的苦痛を取り除くことに重点をおいた介護・看護。末期がん患者などに対して行われる。緩和医療
[補説]近ごろでは末期患者の心のケアだけでなく、癌などの告知で受けるショックや不安への対応などもケアの対象とされるようになってきている。

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共同通信ニュース用語解説 「緩和ケア」の解説

緩和ケア

病気の進行度に関係なく、人の苦痛を和らげて、生活の質を向上させるためのアプローチ世界保健機関(WHO)は、生命を脅かす全ての病気の患者や家族を緩和ケアの対象にするべきだとし、各国に体制整備を求めている。がんの痛みを和らげる方法としては痛み止めの薬が一般的で、痛みの強さに応じた適切な薬剤を選ぶこと、決められた時間に使い、常に痛みのない状態を保つことなどが重要とされる。

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精選版 日本国語大辞典 「緩和ケア」の意味・読み・例文・類語

かんわ‐ケアクヮンワ‥【緩和ケア】

  1. 〘 名詞 〙 ( ケアは[英語] care ) 生命の持続よりも、病人の苦痛を除くことに重点をおいた介護・看護。末期癌など、治る見込みのない病人に対して行なわれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「緩和ケア」の意味・わかりやすい解説

緩和ケア
かんわけあ
palliative care
palliative medicine
palliative treatment

生命を脅かす疾患を抱える人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)の向上を目的に行われる治療やケアの総称。緩和医療、パリアティブケアともよばれる。

 世界保健機関(WHO)は緩和ケアについて、「生命を脅かす疾患に起因する問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題に関して的確な評価を行い、治療やケアを行うことで、苦しみを予防し和らげることによってQOLを向上させるアプローチである」と定義している(2002)。すなわち緩和ケアは、疾患に伴う心と体のさまざまな苦痛を和らげるために、診断された時期から、疾患そのものの治療と並行して行われるものであり、「終末期の医療・ケア」とイコールではない。緩和ケアは終末期に限って行われるものという誤解があるが、早期から緩和ケアによる支援が行われることによって、苦痛や不安の軽減、QOLの向上、治療意欲の改善、さらには生命予後の改善を認めたという報告もなされており、緩和ケアについての正しい理解の普及が求められている。

[渡邊清高 2017年11月17日]

がん医療における緩和ケア

がん医療における緩和ケアは、がんに伴う心と体の苦痛を和らげ、QOLを向上させ、がん患者が自分らしい生活を送ることができるようにするためのケアである。患者本人に加え、家族を支える視点も重視される。

 がん患者は、がんそのものに伴う痛みや治療による副作用後遺症に加え、心理的な苦痛、社会的な不安(家庭、就学、就労、経済的な問題など)、スピリチュアルな問題(根源的な不安、人生に対する問いなど)といったさまざまな「つらさ」を抱えている。がんの治療や療養の経過においては、こうした痛みやつらさを早い時期にとらえ、積極的に緩和ケアを始めることが重要と考えられている。

(1)がん対策基本法における緩和ケア
 2016年(平成28)12月に改正されたがん対策基本法においては、緩和ケアについて、「がんその他の特定の疾病に罹患(りかん)した者に係る身体的若(も)しくは精神的な苦痛又は社会生活上の不安を緩和することによりその療養生活の質の維持向上を図ることを主たる目的とする治療、看護その他の行為をいう」(第15条)と定義されている。また、同法において、がん患者の療養生活の質の維持向上のために必要な施策として、「緩和ケアが診断の時から適切に提供されるようにすること」と明記されている(第17条)。このように、緩和ケアは、身体的・精神心理的・社会的苦痛等の「全人的な苦痛」への対応(全人的なケア)を診断時から行うことを通じて、患者とその家族のQOLの向上を目標としている。

 がん対策基本法を受けて策定された「がん対策推進基本計画」(第3期、2017年10月閣議決定)においては、「がんと診断された時からの緩和ケア」が重点課題として位置づけられており、近年では、さまざまな医療職種や専門家がチーム(緩和ケアチーム)になって、がん患者が体験する苦痛を伴う症状(吐き気・嘔吐(おうと)、痛み、倦怠(けんたい)感など)に対する積極的な治療やケア、患者家族の不安や心配ごと、社会経済的な問題に対する支援など、幅広く対応する体制が整備されつつある。

(2)痛みのコントロール
 がんの緩和ケアでは、痛みのコントロールがとくに重視される。がんによる痛みを抱えたままでは、患者のQOLや治療・療養への積極性は大きく損なわれるためである。

 痛みのコントロールでは、しばしば医療用麻薬モルヒネオキシコドンなど)が用いられる。麻薬中毒のイメージから、医療用麻薬の使用に不安を覚えたり、使用をためらう人もいるが、がんの痛みがある状態で医療用麻薬を使用すると、中毒にならない(依存が形成されない)ことが明らかにされている。吐き気や便秘、眠気といった医療用麻薬自体の副作用に対しても、対応できる使用法や対処法が開発され、安全に患者個々の痛みの状況に応じた薬剤を使用できるようになってきている。

[渡邊清高 2017年11月17日]

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知恵蔵 「緩和ケア」の解説

緩和ケア

苦痛をやわらげることを目的に行われる医療的ケア。ホスピスケアともいう。WHO(世界保健機構)は、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な、魂の)問題に関してきちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)を改善するためのアプローチ」(特定非営利活動法人日本ホスピス緩和ケア協会訳)と定義している。
対象とされる身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛を合わせて全人的苦痛といい、これらに対処するために、複数の専門職がチームをつくって互いに情報を共有し連携しながら、患者と家族の療養生活をサポートしていく。緩和ケアチームを構成する専門職として例えば、疼痛(とうつう)管理を行う緩和ケア医や、精神症状に対応する腫瘍(しゅよう)精神科医などの医師、緩和ケアを専門に学んだ認定看護師、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、薬剤師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、宗教者などがある。
始まりは、1967年にシシリー・ソンダースがイギリスのセント・クリストファー病院で末期の患者を対象に開設したホスピス病棟とされている。日本では、81年に静岡県の聖隷三方原病院にホスピス病床ができ、その後、全国に広まった。2008年4月の調査によれば、全国に緩和ケア病棟整備施設は181施設あり、合わせて3468床となっている(特定非営利活動法人日本ホスピス緩和ケア協会)。
本来はどのような疾病に対してもあてはまるケアだが、日本で診療報酬が認められているのは、がんとエイズのみ。緩和ケア病棟の入院料は定額制で、1日の自己負担額は3割負担の場合で、1万1340円となっている。(いずれも10年9月現在)
なお、がん対策基本法に基づいて07年に策定された「がん対策推進基本計画」の中に、治療の初期段階から緩和ケアを導入することや、在宅療養者にも十分な緩和ケアが実施できる体制を整備することなどが盛り込まれた。

(石川れい子  ライター / 2010年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

百科事典マイペディア 「緩和ケア」の意味・わかりやすい解説

緩和ケア【かんわケア】

(がん)患者の治療に際して,延命をはかるための治療のみならず,個人の痛み,不眠などの症状に対してきめ細かく対応することによって,快適さを保とうとする考え方。WHO(世界保健機関)の専門委員会報告では,治療目的の医療と緩和ケアを並行して行うことを提案している。その一つが1986年にまとめた〈がん疼痛治療法〉で,癌患者の最も大きな苦痛である痛みをコントロールするためのガイドラインを示している。日本では1990年,健康保険などの診療報酬に〈緩和ケア病棟入院料〉を設け,一部のホスピスを緩和ケア病棟として承認した。

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