〈看〉が手を眉上にかざして見ることから〈よくみる〉〈いつくしみみる〉を意味し,〈護〉は〈まもる〉を意味することから,〈看護〉とは〈いつくしみの心をもってみまもること〉ということができよう。英語のnursingはnurture(養育・愛着・保育)から派生したものである。
人は古来,外界の危害から身をまもり,傷ついたり病んだりしたときに互いにいたわり,助けあい,生の営みをつづけてきた。医療・看護の起源もこのいたわりあい,助けあいに求めることができ,共同体内部における相互扶助として行われてきたものといえる。母親がわが子を産み,養い育て,保護したことに始まり,それに伴う喜びや苦しみの経験をいかして,他の母親を助け,また傷つき病んだ者の傍らに居て手当てをし,さらにまた,避けることのできない死に直面した者に安らぎを与えようとする行為が看護の始まりといわれている。やがて母親の手から,ある部分は寺院や教会などの宗教団体の手にゆだねられていったのだが,看護婦という名称をもった専門職業への第一歩が踏み出されたのは最近100年くらいのことである。
看護の機能
看護とは,人が生まれ,その生を閉じるまでに経験される健康現象において,個人,家族,地域社会に関与して,その生命力や生活のリズムが損なわれないように見守り,かつそれを十分に発揮できるように支え,励ますことによって,自立への援助を意図した働きである。
この看護の働きは,その個人の飲食を助ける,排泄を助ける,休息・睡眠を助ける,身体の清潔を保つなどの身の回りの世話を通して展開される。また,採光,換気,温度,静寂などの生活環境を調整する活動を通して看護の働きは,より一層のこと発揮されている。さらに,与薬,検査,処置などの診療の介助にあたっては,安全,かつ安楽にその個人に適用するくふうを通して,看護の配慮がいかされる。また,患者が自分の気持ちや意志を伝えられるように助け,周囲の人々への信頼感をはぐくむことのできるように,また,みずからの価値を認めることのできるように支えることを通して看護の援助が展開される。
看護の方法と過程
これらの活動は,個人が相応の知識,体力,意志の力をそなえ,それを発揮する状況にある場合には,本来自力で行うことのできるものである。人の生命の維持や健康の増進もまた,人が身体的,心理的,社会的に不安定な事態におかれると安定しようとして本来的に内部で働く小刻みなバランスの持続の過程といえよう。この働きは一般には〈自然治癒力〉と呼ばれるものであるが,看護は,こうした人に本来そなわっている自律的な安定への動きを助長するような〈環境づくり〉や〈関係づくり〉によって,その個人を支え,みずから健康上の問題に取りくむことのできるように働きかけている。看護の介入は,その個人がより安全で安楽に,しかも1日も早く,より頻繁に自分の身の回りのことを自分自身でできるような方向を目ざして行われる。こうした自立への援助活動は,看護婦がもつ〈人の生命に対する尊厳と人の自立・成長の可能性に対する信頼〉とに支えられ,成り立っている。
具体的には,不安や苦痛など,その個人の生命力を消耗していることがらを早期に発見し,それを取り除くことによって,先に述べたような本来的な力を発揮することを動機づけている。その方法としては,ただ単に本人のできないことを代わって行うのではなく,その時々の本人の自立の度合やおかれている状況に見合った手助けのしかたが必要とされている。あるときは,本人のできないことを一時的に代わって行うことによって支え,あるときは本人が行うのを傍らで見守り,あるときは助言することによって,本人の自立への歩みを促し,見届けることが必要とされる。このような本人の状況に添った変幻自在の手助けのしかたにこそ看護婦のより専門的な判断や技術がいかされていくのである。
看護師の役割
看護師は患者の身近にいるため,患者が自分の状態や状況をどのように感じ,考えているかを直接的に知ることのできる立場にあるといってよい。その時々に患者がもつ懸念や不安,要求や期待などを具体的,継続的に見聞きできている立場から,看護師の第一義的関心は,〈患者がストレス状態におかれるのを一刻たりとも理由なく引きのばされないように守ること〉に注がれる。〈その時・その場〉に即した患者の必要性を満たし,より〈安楽な状態〉を小刻みにつくりだすことによって,患者がより自立に向かおうとするのを支え,励ます。看護師は,この患者の内的な動きを敏感に察知しながら,〈身体的支援〉〈相談〉〈指導〉などの要素が含まれた看護アプローチ,看護介入nursing interventionを行っている。〈身体的支援〉とは,その時,その場の患者の満足や安楽を図ることを重点とした直接的な身体的ケアを通して支援する〈働きかけ〉を指す。いわゆる身の回りの世話的な看護師の活動がこれに含まれる。〈相談〉とは,患者の訴えに耳を傾け,直面している問題をはっきりさせるのを助け,解決の方向づけをするといった,おもに言葉によるコミュニケーションを通して自助力を高めていく働きかけを指す。〈指導〉とは,患者が自立していく自分自身に喜びを感じ,助言や方向づけによって自立に向けて必要な手段を活用していくための働きかけを指す。これらは,患者のその時,その場の健康レベルや自立の度合に応じて,さまざまに組み合わされて看護師の援助行為となって患者・家族・地域社会に対して働きかけられている。
健康のレベルは,健康の保持・増進においては〈健康教育〉を通して人々の健康への関心を高め,態度の変容を働きかける。健康の危険においては,病気ではないかとの懸念や不安を軽減し,早い時機に相談行動や受診行動を起こせるよう働きかける。健康の回復においては,〈保健指導〉を通して社会とのつながりを考慮して1日も早く日常の生活にたち返れるように働きかける。さらにまた,避けることのできない死に直面した人々には,安らぎを与えるための援助を家族とともに行う。このように看護師は,個々人の生活状況に見合ったケアを提供できるように,病院,診療所,リハビリテーション・センターなどの施設のなかの看護サービスをはじめ,在宅療養者への訪問看護サービスをも行っている。
しかし看護の働きは,単に看護師のみで担うものではなく,さまざまな職種にある人々との協同によって,より効果をあげることができる。看護師は,看護ケアを通して観察できた患者の反応と適応の状態について,医師,ケースワーカー,栄養士などの保健医療チームメンバーと情報交換を行い,患者が関連の社会資源を十分に活用できるように連絡調整を図る役割を担っている。看護道徳国際律(1953)には看護師の基礎的使命として次の三つがうたわれている。(1)人命を守ること,(2)病苦から人を救うこと,(3)健康を増進させること。
執筆者:外口 玉子