老人性腟炎(読み)ろうじんせいちつえん(その他表記)Senile vaginitis

六訂版 家庭医学大全科 「老人性腟炎」の解説

老人性腟炎
ろうじんせいちつえん
Senile vaginitis
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 更年期閉経を境に、卵巣からのエストロゲン(女性ホルモン)の分泌は低下します。これに伴い、外陰、腟、子宮などの生殖器に萎縮(いしゅく)、退行性の変化がみられます。皮下のコラーゲンや脂肪の減少、水分保持力の喪失が起こり、外陰部の皮膚は菲薄化(ひはくか)(薄くまばらになる)し、乾燥します。また腟は短く狭くなり、表層細胞は減少し、腟壁は薄くなり、弾力性を失います。腟分泌物の量も減少します。

 腟内は温かく湿っており、本来、微生物の増殖に適していますが、腟カンジダ症で述べたように、常在菌のデーデルライン桿菌(かんきん)自浄作用を行っています。

 ところが、閉経期にエストロゲンが減少すると、腟内のグリコーゲン産生の低下に伴い、デーデルライン桿菌が減少して自浄作用が低下し、細菌感染が起こりやすくなります。このようにエストロゲンの欠乏に伴う腟炎を、老人性腟炎または萎縮性腟炎(いしゅくせいちつえん)と呼びます。

症状の現れ方

 細菌感染により、腟分泌物は黄色調でやや膿性で、悪臭を伴うこともあります。腟壁からの微少出血が起こりやすくなり、性器出血を認めることもあります。小陰唇(しょういんしん)陰核(いんかく)周囲の不快感、排尿困難や尿失禁、尿道カルンケルなどを合併することもあります。

 また、腟壁からの潤滑液の減少により、性交痛が起こります。性交痛には身体的、心理的両面の要素がみられ、これらが互いに原因と結果となって、次第に性生活を遠ざけてしまうことがあります。

検査と診断

 問診、症状、腟鏡による診察によって腟粘膜の炎症や萎縮を認めることで診断できます。腟粘膜の細胞診を行うこともあります。

 細菌や真菌感染の合併も確認します。区別すべき病気として、ページェット病パジェット病)や腟がんといった腫瘍性(しゅようせい)疾患、扁平苔癬(へんぺいたいせん)尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)といった炎症性の皮膚病があり、注意が必要です。

治療の方法

 原因の根本はエストロゲンの欠乏によるものであり、エストロゲンの補充が治療の第一選択になります。

 局所病変に対しては、エストリオール(エストリール、ホーリンV)腟錠が最もよく使われます。このほか、エストリオールの内服薬もあり、更年期障害、骨量減少なども伴う場合は、結合型エストロゲン(プレマリン)やエストラジオール(エストラーナ)を用いることもあります。性交痛に対しては潤滑ゼリー(リューブゼリー)の併用も効果的です。

 細菌感染を合併している場合は抗生剤を併用したり、外陰炎に対して副腎皮質ステロイド薬抗ヒスタミン薬の軟膏を併用したりすることもあります。

病気に気づいたらどうする

 エストロゲン欠乏は自然には治らないので、更年期以降に症状が現れたら、産婦人科を受診してください。

藤原 敏博

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「老人性腟炎」の解説

ろうじんせいちつえんいしゅくせいちつえん【老人性腟炎(萎縮性腟炎) Senile Colpitis】

[どんな病気か]
 更年期にはいると、卵巣(らんそう)の機能が低下し、やがて停止します。それにともなって、女性ホルモンの分泌(ぶんぴつ)も、低下あるいは停止しますが、これにより、腟粘膜(ちつねんまく)は萎縮し、腟の自浄作用も衰えるので、一般の細菌が感染しやすくなり、腟炎がおこります。
 このような老年期の女性におこる腟炎を老人性腟炎、または萎縮性腟炎といいます。
 また、更年期以前でも、悪性腫瘍(しゅよう)(卵巣(らんそう)がん(「卵巣がん」)、子宮(しきゅう)がん(「子宮がん」)、乳(にゅう)がん(「乳がん」)など)により両側の卵巣の摘出手術を受けた人も、同様に女性ホルモンの分泌が停止し、萎縮性腟炎をおこす結果となります。
[症状]
 淡黄色の膿性(のうせい)の帯下(たいげ)(おりもの)と、腟粘膜の点状の出血がおもな症状ですが、ときには、性行為による接触出血がみられたり、腟粘膜の萎縮による性交痛を感じることもあります。
[検査と診断]
 腟内分泌物の細菌培養や、腟細胞診(ちつさいぼうしん)などのほか、腟粘膜の萎縮と斑点状出血を認めることからも、老人性腟炎の診断ができます。ときには、女性ホルモン(卵胞(らんぽう)ホルモン)、脳下垂体前葉(のうかすいたいぜんよう)ホルモン(卵胞刺激ホルモン、黄体形成(おうたいけいせい)ホルモン)などの測定も必要となります。
[治療]
 女性ホルモンの腟錠(ちつじょう)、抗生物質の腟錠の併用のほかに、最近は女性ホルモンの補充療法などが積極的に行なわれていますが、使用方法によっては不正性器出血をみたり、使用してはいけないケース(乳がん、子宮体がん、卵巣がんなどの治療歴のある人)もあり、いずれにしても、専門医と相談のうえでの使用が必要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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