女性の卵巣機能の成熟期から老年期への移行期に相当し、老化の始まる時期ともいえる。閉経(最終月経)はこの間におこり、統計的にみると、だいたい40~55歳で、平均寿命の延びから一般に閉経期がすこし遅れる傾向があり、経産婦に遅く、未産婦に比較的早い傾向がみられる。日本産科婦人科学会では12か月間月経が来ない状態が続いたとき、その1年前を閉経とし、前後10年間を更年期と定義している。また臨床的には、閉経を中心にした数年を閉経前期・閉経後期、あるいはまとめて閉経周辺期とよぶこともある。
更年期における卵巣機能の衰退速度がやや急とはいっても、生体の機能はこれに微妙に適応するので、その変化を具体的に知ることはむずかしい。たとえば月経にしても、周期、期間、出血量が少しずつ、さまざまに変化しながら閉経となる。なお、排卵は閉経に先だってなくなるが、基礎体温表を記録しておけば確認できる。
更年期になると、まず卵巣機能の失調から更年期出血(月経異常)がみられる。女性ホルモン(エストラジオール、エストロン)および黄体ホルモン(プロゲステロン)の産生低下が目だち、視床下部‐下垂体‐卵巣系のフィードバック機構によって生殖腺(せん)刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンが急増され、体内の内分泌的環境に大きな変化がおこる。
また、こうした内分泌変化に伴い、家庭環境その他の変化など社会的・心理的ストレスも加わって身体的・精神的障害を引き起こすことがある。これを更年期障害という。
なお男性の場合にも、加齢による生殖腺機能の衰退に伴った生体の反応が考えられる。男性ホルモン(テストステロン)の産生低下により、思考力や集中力などの減退、不安、孤独感、不眠などの精神的失調が発現することもあり、50歳前後の男性の更年期も問題となることがある。
[新井正夫]
更年期にみられる心身の症候的異常をいい、更年期症候群ともよばれる。その程度には個人差が甚だしく、日常生活に支障のない軽いものから、寝込んでしまう重症のものまであり、比較的軽度のものを更年期失調とよんで区別することもある。
愁訴にみられる症状は、一般に精神神経系障害の発現率がもっとも高く、ついで血管運動神経系、運動器系、消化器系の各障害が多くみられる。これらは、月経前や月経中、つわりのころ、分娩(ぶんべん)後や流産後、両側の卵巣摘出後、老人などにもみられるものである。
更年期障害には二つの型があり、それぞれ原因が異なる。一つは自律神経性更年期障害で、老化に伴うホルモン分泌の変動から自律神経失調を招いたものをいい、大部分の更年期障害がこれである。他の一つは心因性更年期障害で、心身のストレスから自律神経症状が現れたものをいい、心身症の一部に含められる。
訴える症状は痛みやしびれなどさまざまであり、症状の現れ方が一定せず不定愁訴となることも多くみられる。天候や家庭の状況などにも影響されやすい。また、症状が全部現れるわけではなく、いくつかが組み合わされる。一般に、熱感(体の一部分がほてるもの)、腰痛、頭痛、肩こり、疲労感(疲れやすい、虚脱感、精力が衰えたような感じ)を訴えるものが多い。
治療は、自律神経性更年期障害に対しては自律神経のアンバランスを調整するのが本筋で、原因から考えて卵胞ホルモンの短期投与をはじめ、男性ホルモン、男女混合ホルモンなどの性ホルモンを主とし、ときに自律神経調整剤や精神安定剤などを併用する。心因性更年期障害にはホルモン調整療法は無効で、精神療法が主となり、ときに調整剤や安定剤が併用される。
更年期は女性にとってはごく自然な現象であり、適切に対応していくことが必要である。
なお、なかには器質的疾患もかなり含まれているので、一定の症状が持続する場合は診療を受けてみるのがよい。
[新井正夫]
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…更年期climactericとは性成熟期から老年期への移行期をいい,したがって男女ともに存在する。しかし,男性での移行はきわめて緩やかで,めだった変化や障害がほとんどないのに対し,女性では,排卵や月経の〈みだれ〉や停止としてはっきりと認識できるばかりでなく,多くは後述のように,自律神経系の失調などの障害を訴える。…
…一方,女性ホルモンの優位は女性の持続的体力の優位性をもたらすことになる。 しかし,この男女の性ホルモン比の差も,50歳前後の更年期になると縮まり,もとの幼小児期のレベルに両方が寄ってくる。ただ女のほうが,急速な卵巣機能の低下が起こるために,男よりも早くもとの男女性ホルモン比に戻ることになる。…
※「更年期」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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