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抗生物質 コウセイブッシツ

デジタル大辞泉の解説

こうせい‐ぶっしつ〔カウセイ‐〕【抗生物質】

カビ放線菌などの微生物によって作られ、他の微生物や生細胞の発育を阻害する有機物質。1941年、ペニシリンの治療効果が確認されて以来、数多くのものが発見され、医薬品などに用いられている。ストレプトマイシンカナマイシンテトラサイクリンエリスロマイシンなど。抗菌性物質。→抗生剤

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百科事典マイペディアの解説

抗生物質【こうせいぶっしつ】

微生物が産出し,微生物そのほか生活細胞の発育その他の諸機能を阻止する物質。1928年A.フレミングペニシリン発見に端を発し,現在まで約4000種の抗生物質が発見されており,そのうち約300種は医薬品として使用されている。
→関連項目アクチノマイシンエリスロマイシンオキシテトラサイクリン化学療法カンジダ菌交代症クロラムフェニコールクロルテトラサイクリンクロロマイセチン抗菌スペクトルコリスチン手術性病耐性菌炭疽丹毒腸炎ツツガムシ病テトラサイクリンとびひトリコマイシン猫ひっかき病脳脊髄膜炎敗血症発疹チフス鼻疽【ひょう】疽放線菌明治製菓[株]

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栄養・生化学辞典の解説

抗生物質

 微生物の二次代謝産物で,他の微生物の生育や活動を阻止する効果を示す物質の総称.

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妊娠・子育て用語辞典の解説

こうせいぶっしつ【抗生物質】

抗菌薬」のページをご覧ください。

出典|母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(愛育病院院長)、子育て編:多田裕(東邦大学医学部名誉教授) 妊娠・子育て用語辞典について | 情報

世界大百科事典 第2版の解説

こうせいぶっしつ【抗生物質 antibiotic】

〈微生物によってつくられ,微生物の発育を阻止する物質〉をantibioticと呼ぶことを,アメリカのラトガス大学教授S.A.ワクスマンが1941年に提唱した。日本では,これに〈抗生物質〉という語をあてている。1929年のA.フレミングによるペニシリンの発見,38年から41年にかけてのH.W.フローリーらによる〈ペニシリンの再発見〉以降,新しい抗生物質の探索が世界的に始まった。したがって,抗生物質という言葉も物質も比較的新しいものである。

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大辞林 第三版の解説

こうせいぶっしつ【抗生物質】

カビ・放線菌などの微生物によってつくられ、他の微生物や細胞の発育または機能を阻害する物質。ペニシリンなど。 〔本来は微生物由来のものをさすが、近年では合成されたものも抗生物質とよんでいる〕 → 抗生剤

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

抗生物質
こうせいぶっしつ
antibiotics

微生物その他の生活細胞の機能を阻止または抑制する作用,すなわち抗菌性をもつ物質。最初は S.ワクスマンにより「微生物が産出する化学物質で,他の微生物の発育や代謝を抑制するもの」と定義された (1942) が,現在では微生物に限らず,高等植物から得られたり,合成されたりした抗菌性の物質をさすようになった。医薬としては,単に感染症だけでなく,悪性腫瘍にも用いられるものがあり,また農薬としても用いられるが,耐性菌ができたり,アレルギーを生じるなど副作用の問題もあるので,その使用には十分な注意が必要である。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

抗生物質
こうせいぶっしつ
antibiotics

抗生物質の定義は初め「微生物の産生する抗菌性物質」という概念で理解されていたが、微生物の培養濾液(ろえき)から悪性腫瘍(しゅよう)細胞(癌(がん)細胞)の発育を阻止する物質が発見され、さらに高等植物や動物の組織から得られる物質で微生物の発育を抑制するものもこの範疇(はんちゅう)に入れて考えるようになり、抗生物質の定義も、「微生物およびその他の生物によってつくられる物質で、生物の生理活性に影響を与えるもの」と広く解釈されるようになった。しかし、現在、医薬品として用いられている抗生物質は、細菌、真菌、リケッチア、クラミジア、ウイルスなどの微生物のほか、原虫、悪性腫瘍細胞の発育を阻止あるいは死滅させるもののみをさしている。
 微生物相互の発育増殖については共生symbioseと抗生antibioseという現象が古くから知られていたが、1928年にイギリスのフレミングがブドウ球菌の溶菌について実験中に、たまたま培地に落ちたアオカビが溶菌をおこしていることを観察し、ペニシリンの発見となった。ストレプトマイシンの発見者で微生物学者であるワックスマンは、1941年に「微生物によってつくられる化学物質で、低濃度でほかの微生物の発育を抑制したり、破壊したりするもの」をantibioseからとってantibioticsと名づけようと提案し、45年発行の彼の著書『Antibiotics and Antagonism』(抗生物質と拮抗(きっこう)作用)によりこの用語が普及した。この訳語が抗生物質である。[幸保文治]

特色

抗生物質は、感染症などの病原寄生体および悪性腫瘍細胞を死滅させることにより治療効果を現す。したがって生体そのものに作用すると、副作用となって現れる。抗生物質の発見によって、不治の病といわれた結核による死亡率は激減し、また肺炎や化膿(かのう)性疾患の治療も完全に近くなり、さらに腸チフス、パラチフス、赤痢をはじめ腸内感染症もなんなく治療することができるようになった。それはペニシリンを例にとると、当初、生体になんら作用せず、病原菌に対してのみ作用するという医薬品として最高の特徴を有していたからである。
 抗生物質の効果はこのように顕著であるが、また選択毒性といって有効な微生物が決まっているという特徴がある。微生物のほうからみれば、感受性のあるものとないものがあるということである。すなわち選択的に作用することが抗生物質の特色であり、これらの感受性のあるものとないものをまとめて抗菌スペクトルがつくられている。あるものはグラム陽性菌にしか有効でなく、あるものはグラム陰性菌に主として有効であるといったことである。
 また、抗生物質には耐性菌の問題がある。抗生物質を連用していると、その抗生物質に対して微生物のほうが耐性を得てきて、効果がなくなることがある。感受性のある微生物でも、すでに耐性を獲得して効かない場合もある。[幸保文治]

研究史

抗生物質の発見はフレミング以前にもいくつかの報告があるが、人体に応用されたのはペニシリンが最初である。このペニシリンも1928年に発見されてから、なんら実用に供されることなく推移し、1938年にイギリスの薬理学者フローリーと化学者チェインがこのものの抽出分離に成功し、1941年にグラム陽性菌感染症(化膿性疾患や肺炎など)に対する治療効果が確認され、欧米において急速に研究が進展した。ペニシリンをいっそう有名にしたのは、1944年1月、時のイギリス首相チャーチルの肺炎を劇的に治療したとの外電であり(実際は誤報)、日本でも第二次世界大戦中、国をあげてペニシリンの開発に努力し、1944年(昭和19)中にいちおう臨床に用いられる製品を完成させ、碧素(へきそ)と命名した。そして、戦後、アメリカの指導によって工業的大量生産が行われるようになった。
 一方、1944年にワックスマンは、放線菌であるストレプトミセス属Streptomycesの1種からストレプトマイシンを発見し、これが結核菌の発育を抑制することを報告し、抗結核薬の初めとなった。1947年にはアメリカのファイザー社でバチルス属Bacillusの培養液からポリミキシンBが、日本でコリスチンが発見された。また同年、アメリカのパークデイビス社の研究所で放線菌の培養濾液からクロラムフェニコールが発見された。真菌に有効なファンギシジンも報告され、これはのちに単離されてナイスタチンと命名された。翌1948年にはアメリカのレダリーの研究所でクロルテトラサイクリン、日本でフラジオマイシンが発見された。1950年にはファイザー社でオキシテトラサイクリンが発見され、テトラサイクリン系の基礎となった。1951年にはバイオマイシン、1952年にはエリスロマイシンが発見され、1953年(昭和28)には日本でロイコマイシン(キタサマイシン)と、抗悪性腫瘍剤(制癌剤)として最初のザルコマイシンが発見された。そして1957年には日本でカナマイシンが発見され、結核のほかグラム陰性菌感染症にも使用されるようになった。当時、抗生物質の繁用により耐性菌が多く発現し、ショックとともに大きな問題となっていた。カナマイシンの耐性の機序(メカニズム)の研究から、アミノ糖(アミノグリコシド)系の新しい抗生物質がつくられるようになった。1962年にセファロスポリン(セフェム)系のセファロチンとセファロリジンが開発され、ペニシリン系、セファロスポリン系の合成研究が活発となり数多くのβ(ベータ)-ラクタム系抗生物質が誕生した。
 β-ラクタム系ではペニシリン系よりセフェム系の方が多く開発されている。
 セフェム系の経口剤セファレキシンの繁用により耐性菌や日和見(ひよりみ)感染が多くみられるようになり、これらに有効な第2世代、第3世代のセフェム系が開発された。しかし、第3世代のセフェム系はグラム陽性菌に対する効力が劣ることから、ふたたびグラム陽性菌に強く効くものが使用され、または新たに開発された。
 そして、院内感染のおもな原因としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)があらわれ、MRSAに有効な抗生物質の開発へと進展してきた。MRSAに対する抗生物質にはバンコマイシン、アミノ糖系のアルベカシンおよび糖タンパク系のテイコプラニンがあり、ムピロシンは鼻腔(びくう)内のMRSAの除去に軟膏剤として鼻腔に塗布する。バンコマイシンの繁用によりバンコマイシン耐性の腸球菌による感染症が問題となり、さらにこのものに有効な抗生物質・抗菌薬が求められており、新しいタイプの合成抗菌薬リネゾリド(ザイボックス)が、2001年(平成13)4月輸入承認された。作用機序は、従来の抗生物質とまったく異なっている。このように微生物の産生する抗生物質の研究から、しだいに化学的に合成される合成抗菌剤の研究へと移ってきた感がある。事実、キノロンカルボン酸系の抗菌剤が次々と開発されている。[幸保文治]

分類

抗生物質は化学構造上および適応から次のように分類されている。(1)β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系など)、(2)ホスホマイシン、(3)アミノ糖系、(4)クロラムフェニコール、(5)テトラサイクリン系、(6)マクロライド系、(7)リンコマイシン系、(8)その他主としてグラム陽性菌に有効な抗生物質、(9)リファマイシン系、(10)コリスチン系、(11)抗結核菌性抗生物質、(12)ポリエン・マクロライド系、(13)その他の抗真菌性抗生物質、(14)抗悪性腫瘍性抗生物質。[幸保文治]
β-ラクタム系
化学構造上、ペナム、セフェム、オキサセフェム、カルバセフェム、カルバペネム、ペネム、モノバクタムの7種に分類される。2000年(平成12)の時点で日本で市販されているのはこのうちペナム、セフェム、オキサセフェム、カルバペネム、ペネム、モノバクタムの6種である。
(1)ペナムはペニシリン系のことである。ベンジルペニシリンナトリウム(ペニシリンGナトリウム)はスタンダード・ペニシリンと称し、1ミリグラムが1667国際単位である。アオカビの培養液から得られる。これはそのままでは経口投与により分解してしまうので、注射用として使用された。そのため経口投与が可能なペニシリン製剤が求められ、フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV)やベンジルペニシリンベンザチンが開発された。これらはアオカビの培養液から直接に得られたので、天然ペニシリンと称した。現在も、ベンジルペニシリンカリウムが注射剤で、ベンジルペニシリンベンザチンが経口剤で、使用されている。
 ついでペニシリンの骨格である6-アミノペニシラミン酸を母体として化学的に合成したペニシリンが開発された。これは初め半合成ペニシリンといわれたが、現在は合成ペニシリンと称している。経口投与のみのものにフェネチシリン、プロピシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリンがあったが、現在はフェネチシリンのみとなった。注射、経口ともに使用されるものにはオキサシリン、クロキサシリン、注射のみで使用されるものにメチシリンがあったが、すべて販売中止となった。これらはグラム陽性菌のみに有効であったが、アミノベンチルペニシリン(アンピシリン)が開発され、グラム陽性菌・陰性菌ともに有効となり、広域性ペニシリン開発の基礎となった。同様に有効のものにアモキシリン、シクラシリンがある。アンピシリンは耐性菌には効かない。その血中濃度を高くし、副作用を少なくしたものにバカンピシリンとタランピシリン、レナンピシリンがある。そのもの自身には抗菌力はなく、消化管から吸収され、腸壁内のエステラーゼにより加水分解され、アンピシリンとなって作用する(プロドラッグ)。そのほか、グラム陰性菌にのみ有効なピブメリシナムがある。アンピシリン誘導体のヘタシリン、カルベニシリンのプロドラッグであるカリンダシリン、カルフェシリンはいずれも経口で用いられたが、販売中止された。
 緑膿菌(りょくのうきん)にも有効なペニシリンに、カルベニシリン、スルベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、メズロシリンがあり、いずれも注射で用いられたが、カルベニシリン、チカルシリン、メズロシリンは販売中止された。アスポキシシリンは有効菌種は少ないが、とくにグラム陽性菌に対し、抗菌力は大であり、注射で用いられる。
(2)セフェム系にはセファロスポリン系とセファマイシン系の2種がある。またその抗菌スペクトルから、第1世代、第2世代、第3世代に分類されている。
 第1世代は、グラム陽性・陰性両菌に幅広い抗菌域をもつが、セラチア、インドール陽性プロテウス、エンテロバクターなどに抗菌力が少なく、緑膿菌には効かないもので、注射用のセファロチン、セファゾリン、セフテゾール、セファピリン、経口剤のセファレキシン、セフロキサジン、セファクロル、セファトリジン、セファドロキシルがこれに属する。
 第二世代は、β-ラクタマーゼ(酵素の一種)に対する安定性の増大、すなわち耐性菌に有効であるとともに、とくにグラム陰性桿菌(かんきん)への強い抗菌力を示すもので、セフォチアム、セフロキシム、セファマイシン系のセフォキシム、セフメタゾールがあり、いずれも注射用として用いられる。
 第三世代は、β-ラクタマーゼに対する安定性とグラム陰性菌、セラチア、エンテロバクターなど日和見(ひよりみ)感染の原因菌に対して抗菌力が強い。セフチゾキシム、セフォタキシム、セフォペラゾン、セフメノキシム、セフォテタン、セフブペラゾン、セフピラミド、セフタジジムなどのほかオキサセフェム系のラタモキセフとフルモキセフなどがある。
 セフェピム、セファゾプラン、セフィキシム、セフォジジム、セフピロム、セフジニル、セフトリアキソン、セフミノックスは注射で、セフカペンピボキシル、セフテラムピボキシル、セフポトキシムプロキセチルは内服で用いられる。新しくは小児用内服薬として用いられるセフジトレンピボキシル、セフニジルがある。
 グラム陰性菌のみに有効なものにピブメリシナム、セフチブテン、セフォキシチンがあり、とくに緑膿菌のみに強い抗菌力を示すものにセフスロジンがある。モノバクタム系では、アズトレオナムとカルモナムがあり、グラム陰性菌のみに有効である。
 ペネム系ではファロペネムがあり、グラム陰性・陽性両方に有効で内服である。カルバペネム系にはメロペネム、イミペネム、パニペネムがあり、イミペネムはシラスタチンと、パニペネムはベタミプロンと配合した製剤が用いられている。モノバタム系にはアズトレオナムとカルモナムナトリウムの2種があり、主としてグラム陰性菌に有効である。β-ラクタマーゼ阻害薬のクラブラン酸とスルバクタムはアンピシリンやセフォペラゾンと配合して、耐性菌にも有効な製剤が使用されている。トシル酸スルタミシリン、アンピシリン・スルバクタム、アモキシシリン・クラブラン酸カリウムがその例であり、タゾバクタムナトリウムはピペラシリンナトリウムと配合した製剤がある。[幸保文治]
ホスホマイシン
β-ラクタム系とは化学構造がまったく異なるが、その作用機序が微生物の細胞壁の合成を阻害する点で類似しており、緑膿菌を含むグラム陰性菌およびグラム陽性菌による感染症に用いられる。[幸保文治]
アミノ糖系
適応から三つの群に分類される。第1群は主として結核菌に有効なもので、ストレプトマイシンとカナマイシンがある。第2群は主としてグラム陰性菌に作用するもので、カナマイシンの誘導体であるベカナマイシン、ジベカシン、アミカシン、リボスタマイシン、フラジオマイシン、パロモマイシンがあげられる。第3群はグラム陰性菌のうち、とくに緑膿菌に有効なもので、ゲンタマイシン、トブラマイシン、ミクロノマイシン、シソマイシン、アストロマイシン(「フォーチミシン」)、ネチルマイシン、イセパマイシンがあり、特殊なものとして淋(りん)菌に有効なスペクチノマイシン、MRSAに有効なアルベカシンがある。
 アミノ糖系抗生物質は消化管から吸収されないので、全身性の作用を必要とする場合は注射しか有効でない。経口的には腸内病原菌を死滅させるか、または白血病患者のように感染症をおこしやすい患者を無菌状態に保つため、一般腸内細菌を死滅または減少させる目的で使用される。[幸保文治]
クロラムフェニコールとテトラサイクリン系
総合して広域性抗生物質とも称される。グラム陽性および陰性の細菌のみならず、リケッチア、クラミジアにも有効であるからである。クロラムフェニコールは、再生不良性貧血など重篤な副作用を示すことから、現在はほとんど使用されなくなった。
 テトラサイクリン系ではオキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、デメチルクロルテトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリンがあり、持効性で血中濃度が高いものへと移行している。[幸保文治]
マクロライド系
その抗菌スペクトルは、主としてグラム陽性、マイコプラズマに作用して広域性に次いで広いので、中域性抗生物質ともいわれる。エリスロマイシン、キタサマイシン、スピラマイシン、ジョサマイシン、ミデカマイシン、ロキシスロマイシン、ロキタマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンがある。耐性菌が比較的少ない。同じ薬効群に、新しくケトライド系のアリスロマイシンがある。[幸保文治]
リンコマイシン系
リンコマイシンとクリンダマイシンがあげられる。主としてグラム陽性菌に有効である。[幸保文治]
その他の主としてグラム陽性菌に有効な抗生物質
バシトラシン、グラミシジンS、フシジン酸、バンコマイシンがあるが、バシトラシン、グラミシジンS、フシジン酸は軟膏(なんこう)・貼付(ちょうふ)剤として主として外用に用いられ、バンコマイシンは注射および内服で用いられ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に有効で、感染症腸炎を適用としているグリコペプチド系抗生物質である。また、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウムを適用菌種とするストレプトグラミン系抗生物質キヌプリスチン・ダルホプリスチン合剤がある。[幸保文治]
リファマイシン系
リファンピシンが1種あるのみで、結核を適応症としているが、グラム陽性菌・陰性菌ともに有効である。内服で使用する。[幸保文治]
コリスチン系
コリスチンとポリミキシンBがある。緑膿菌によく用いられたが、現在ではさらに有効なものが開発されたので、使用量は少なくなった。しかし、ポリミキシンBは腸内細菌を減少させるため内服で用いられ、また外用でもよく用いられる。[幸保文治]
抗結核菌性抗生物質
ストレプトマイシン、カナマイシンのほかに、リファンピシン、サイクロセリンが内服用で、カプレオマイシン、エンビオマイシンが注射で用いられる。サイクロセリンは、副作用もありあまり使用されていない。リファンピジンが主流となっている。[幸保文治]
ポリエン・マクロライド系
抗真菌性抗生物質で、ナイスタチン、アムホテリシンB、ピマリシンがあり、ナイスタチンは内用で使用され、ピマリシンは点眼液、眼軟膏として用いられる。注射、内用、外用で使用されるのがアムホテリシンBで、注射のできる唯一の抗真菌性抗生物質である。これらは消化管からは吸収されにくいといわれている。トリコマイシンは現在使用されていない。[幸保文治]
その他の抗真菌性抗生物質
主として白癬(はくせん)菌などによる糸状菌症に有効なもので、ピロールニトリン、シッカニンは外用で、グリセオフルビンは主として内用で用いられるが、外用もある。新しいものに、ミカファンギンナトリウム(「ファンガード」)がある。糸状菌の産生するポリペプチド構造を有する活性物質の誘導体より得られたもので、キャンディン系抗真菌剤といわれている。アスペルギルス属およびカンジダ属による真菌症に有効性が認められている。[幸保文治]
抗悪性腫瘍性抗生物質
マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、ペプロオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アクラルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ピラルビシン、ネオカルチノスタチン誘導体ジノスタチンスチラマーがあり、臨床によく使用されている。[幸保文治]

作用機序

(1)細胞壁の合成を阻害するもの 細胞膜の外側にはタンパク、脂質、多糖類からなる細胞壁があり、外部から菌体を保護している。β-ラクタム系やホスホマイシンはこの細胞壁の合成を阻害することにより細菌を死滅させる。この細胞壁は高等動物の細胞にはなく、したがってこの作用機序(メカニズム)をもつ抗生物質は生体にはまったく作用しない。
(2)細胞膜の透過性を変えるもの 細胞膜に働いてその透過性を増加させ、細胞質内物質を外へ出すことにより殺菌作用を現す。ポリミキシンB、ポリエン系抗真菌性抗生物質(アムホテリシンB、ナイスタチンなど)などがある。
(3)タンパクの合成を阻害するもの 細菌の増殖には細胞内においてタンパクの合成が必要であり、このタンパク合成の過程を阻害することによって殺菌作用を現す。テトラサイクリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、ストレプトマイシンなどがこの例である。
(4)核酸の合成を阻害するもの 抗悪性腫瘍剤としての抗生物質がこれである。細胞の増殖に必要な核酸の合成過程を阻害することによって細胞の死滅を図る。[幸保文治]

副作用

感染症に対する抗生物質の使用は劇的な効果を示したが、また、繁用されることにより、ショック、薬疹(やくしん)といった過敏症症状が多く現れるようになった。抗生物質の副作用は、その系統によって多少差異があるが、ここではそれぞれの代表的な副作用を記す。
 ペニシリン系、セフェム系では、発熱、発疹、じんま疹、ショック、下痢、悪心(おしん)、食欲不振、好酸球増多症、偽膜(ぎまく)性大腸炎、ビタミンK欠乏症、ビタミンB群欠乏症、腎(じん)障害、肝障害、菌交代現象がみられる。セフメタゾン、セフォペラゾン、ラタモキセフなどセフェム系の一部では、飲酒による顔面紅潮、心悸亢進(しんきこうしん)、めまい、頭痛、吐き気を催すことが報告されている。アミノ糖系では有名なストレプトマイシンによる難聴すなわち第8脳神経障害がみられる。そのほか腎障害、肝障害、発疹、悪心、嘔吐(おうと)、食欲不振、ショックもみられる。また、筋弛緩(しかん)作用を有する。テトラサイクリン系では消化器障害、歯牙(しが)への色素沈着、肝障害がみられる。リンコマイシン類は偽膜性大腸炎、消化器障害がみられ、クロラムフェニコールは血液障害、再生不良性貧血、顆粒球(かりゅうきゅう)減少、血小板減少がみられ、過敏症状、菌交代現象も多くみられた。ペプチド系、ポリエン系では腎障害、過敏症状が、アムホテリシンBではとくに悪心、嘔吐、食欲不振がみられる。抗悪性腫瘍剤としての抗生物質では白血球減少、血小板減少、出血、貧血、発疹、悪心、嘔吐、食欲不振、倦怠感(けんたいかん)、頭重などがみられ、ブレオマイシンでは脱毛や肺線維症といった不可逆的な副作用もみられる。
 一般的に抗生物質の乱用は、耐性菌を増長させるとともに、菌交代現象といった感染症の変化、MRSAなど抗生物質の効かない感染症の増加を招き、また生体そのものにも作用して、望ましくない副作用が現れる。[幸保文治]

生産

そもそも抗生物質は微生物の産生する化学物質であるが、その化学構造が決定されるや、いち早くその製法が化学合成に移ったクロラムフェニコールをはじめ、ペニシリン系やセファロスポリン系についてはなんら抗菌力をもたない6-アミノペニシラミン酸、7-アミノセファロスポリン酸を培養によって生産し、これをもとにして化学合成を行って、多くの新しい抗生物質が開発されてきた。同じくアミノ糖系のカナマイシンの耐性の理論の研究をもとにして、この一部を化学的に修飾することにより耐性菌にも有効な物質が得られるようになり、本来、微生物の産生物であった抗生物質は、ほとんどが化学的な操作により製造されるようになり、そして、従来多くの化合物を合成したり、多くの微生物の培養により抽出したりしてスクリーニング(選択)してきた抗生物質も、ファロベネムの例のごとくコンピュータ分子設計手法を応用して理論的に創製されるようになった。抗生物質医薬品の基準は、薬事法に基づき「日本抗生物質医薬品基準」(日抗基)により約50年間品質管理が行われてきた。しかし、抗生物質医薬品の製造技術が進んで純度も高くなり、GMP(医薬品の製造及び品質管理規則)などの製造工程管理も充実してきたので、日抗基・収載品目の日本薬局方への移行が決定し、2002年(平成14)12月、第十四改正日本薬局方の第一追補にすべて収載され、日抗基は廃止された(147品目)。第十五改正日本薬局方には141品目が収載されている。新たに承認された抗生物質薬品(製剤)は「日本薬局方外医薬品規格第四部(抗生物質医薬品)」に収載され、順次日本薬局方に移行される。そして、古くて使用されなくなった抗生物質医薬品は徐々に削除されている。現在は新抗生物質製剤の開発は少なくなっている。[幸保文治]

農薬その他としての用途

抗生物質の医薬品としての発展に伴って、植物の病気の防除に抗生物質を利用する動きがおこった。医薬品として開発されたストレプトマイシン、クロラムフェニコール、オキシテトラサイクリンなどが細菌を病原菌とする植物の病気に対して、また、グリセオフルビンがカビ(糸状菌、真菌)の防除用として利用された。
 その一方で、初めから植物の病気防除を目的とした新しい抗生物質の研究開発も行われた。イネのイモチ病は一種のカビでおこり、従来は防除として有機水銀が用いられていたが、有機水銀の残留性と慢性毒性そして環境汚染が問題となって使用不可となり、新農薬の開発が急務とされたことなどが、その背景にある。日本では1953年(昭和28)に研究が開始され、次々と農業用抗生物質が実用化された。主要作物の病害駆除に有効な新抗生物質を開発したのは、日本が初めてである。
 抗生物質は化学合成農薬に比べて(1)低濃度で有効、(2)保護効果より大きい治療効果、(3)植物体内へのすぐれた浸透性、(4)高い選択性、などが特徴としてあげられるが、欠点は連用により耐性菌が出やすいことである。
 いくつか例をあげると、イネのイモチ病にはブラストサイジンSやカスガマイシン、イネの紋枯(もんがれ)病にはバリダマイシンが使われており、またストレプトマイシン、オキシテトラサイクリンなどの医療用抗生剤も農薬用として登録されている。
 抗生物質のその他の用途として、1949年に子ブタやひなどりなどの飼料に加えると成長を促進する効果が発見されて以来、飼料添加物として世界的に広く利用されている。しかし、すべての家畜に有効なわけではなく、その薬効についても、実験的に効果が立証されているとはいえ、要因はまだ十分に確認されてはいない。
 家畜飼料に添加して用いられる抗菌剤は「動物用医薬品」と「飼料添加物」に明確に分類され、使用目的や安全性を確保するために、動物用医薬品は薬事法で、飼料添加物は「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」で規制される。
 病気の予防治療と成長促進を目的とした動物専用農薬には、チロシジン(細菌感染治療)、ハイグロマイシンB(腸内寄生虫の予防治療)などがある。
 食品衛生法には「全ての食品について、抗生物質又は化学的合成品たる抗菌性物質を含有してはならない」という規定があり、動物用医薬品のうち残留基準が設定されていない抗生物質、合成抗菌剤については、畜産物に含有してはならない。ニトロフラン類やクロラムフェニコールといった日本および諸外国で使用が禁止されている物質の違反が目だっている。
 現在、日本では飼料安全法に基づいてクロルテトラサイクリン、バシトラシン、デストマイシンAなど21種類の抗生物質が添加物公定書で飼料への混入が認められている。ペニシリンやストレプトマイシンは公定書から削除され使用できない。
 動物用医薬品等は畜産食品および水産食品の安定的な供給や、伝染病の防止に大きな役割を果たしているが、動物用と農業用をあわせた抗生物質および合成抗菌剤の使用量が医療用使用量の2倍以上であるとの報告もあり、食品への残留毒性をはじめとして、耐性菌出現の問題、環境汚染等が懸念される。[斎藤 彌]
『真下啓明他著『抗生物質――正しい使い方と副作用』(金原医学新書) ▽梅沢浜夫他著『抗生物質――医薬としての新しい認識』(1981・日本薬学会) ▽日本抗生物質学術協議会編『日本抗生物質医薬品基準解説』(1998・薬業時報社) ▽厚生省編『日本抗生物質医薬品基準』(2000・大蔵省印刷局) ▽厚生省編『日本薬局方外医薬品規格第四部(日本抗生物質医薬品)』(2000・大蔵省印刷局) ▽日本抗生物質学術協議会編『抗菌性物質医薬品ハンドブック2000』(2000・じほう)』

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について | 情報 凡例

世界大百科事典内の抗生物質の言及

【化学療法】より

…44年,結核菌を含めた広い範囲の細菌種に有効なストレプトマイシンが発見された。抗生物質antibioticsと呼ばれることになったこれら微生物由来の抗菌物質は,その後主として大きな製薬会社の手に移って開発がすすめられ,クロラムフェニコール,クロルテトラサイクリン,オキシテトラサイクリン,エリスロマイシンをはじめとして数多くの有効物質が発見されることになった。すぐれた発酵工業技術の伝統のある日本は,この分野でもアメリカとならんで世界の最先端の地位を築き,梅沢浜夫のカナマイシンをはじめとして各種の有用抗生物質を発見してきた。…

【日和見感染】より

…感染抵抗力が低下する理由としては,白血病,悪性リンパ腫,癌,糖尿病などの病気がある場合,免疫抑制剤,抗癌剤,放射線療法,大手術,体内への人工材料の挿入などの医療行為が行われる場合,およびその両者による場合がある。また長期にわたって大量の抗生物質を用いると,病原性の強い微生物を殺し,薬剤耐性があり,しかも病原性のきわめて弱い微生物の増殖を許すことになるので,日和見感染の重要な誘因になる。日和見感染はまた病院内で発生することが多い。…

【薬用植物】より


[薬用植物とその利用形態]
 薬用植物は下等植物から高等植物まで,小は細菌から大は樹木まで幅広くみられる。抗生物質の多くは土中の細菌類から単離されるため,細菌も薬用植物に含めるようになった。顕花植物,シダ植物,コケ植物,藻類,地衣類,菌類のすべてに薬用植物が知られてはいるが,それらの間ではコケ植物の利用は比較的少ないように思われる。…

※「抗生物質」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト世界大百科事典 第2版について | 情報

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