子宮に発生する癌で,かつては癌による女性の死亡のうち,胃癌,肺癌についで多いものであったが,その他の臓器癌による死亡が増えたため,相対的に順位は低下した。しかし,子宮癌は他の癌より治る率がかなり高いことを考えると,実際に子宮癌にかかる人は,女子では胃癌とあまり違わないほど多く,1年に1万数千人発生していると推定される。癌というと,非常に治りにくい,恐ろしい病気と考えられているが,子宮頸癌の場合は,全体の平均として2/3以上の人が治る。しかも,比較的容易に早期発見できる方法がすでに確立している。したがって,日常気をつけて検診を受けていれば,子宮癌で死ぬ人はほとんどなくすることもできる。女性に多い癌であるが,しかし恐れる病気ではないという認識がたいせつである。
子宮には頸部と体部があり,子宮頸部の先端は腟のいちばん奥の中央のところに突出しており,子宮腟部と呼ばれている。子宮腟部の中央には頸管が開口しており外子宮口と呼ばれている。子宮癌には子宮頸部に発生する(その多くは外子宮口付近に発生する)子宮頸癌cancer of the uterine cervix(略して頸癌)と,子宮体部に発生する子宮体癌cancer of the uterine body(略して体癌)とがある。頸癌と体癌はたんに発生した場所が異なるだけでなく,発生しやすい年齢や発生を助長している因子などで違いがあり,また診断,治療の方法がかなり異なるので,両者を区別している。日本では従来は子宮癌の95%が頸癌であったが,近年体癌が増加しており,子宮癌の10%を超えるようになってきた。
子宮癌の治りやすい第1の理由は,早期に発見しやすいことである。前記のように頸癌は外子宮口付近に発生するが,この部分は直接目で見たり,さわって診察できる場所であり,体癌の場合はやや困難ではあるがそれでも外部から接近可能の部位である。しかも,診断方法は比較的簡単で,大規模な診断器械を必要としない。診察は外来で短時間のうちに,しかもほとんど痛みもなくできる。したがって多数の人を集団的に健康診断することもでき,文字どおり顕微鏡的な小さな癌でも多数発見されている。
子宮癌の治りやすい第2の理由は,治療しやすい点である。子宮は子どもをつくるうえでは欠くべからざる器官であるが,その人個人の生命維持にとってはまったく必要のない器官である。したがって子宮の保存を考える必要がなく,十分に治療を加えることができる。癌を治療するおもな武器は手術と放射線であるが,子宮癌に対してはこの二大武器を使うことができる。たとえ手術ができないほど進行していても,放射線で治療すれば多くの患者を救うことができる。また手術と放射線を組み合わせた治療をすることもできる。以上のように,早期に発見しやすいし,また十分な治療がしやすいので,子宮癌はよく治るわけである。
頸癌では病気の進み具合の程度によってⅠ期からⅣ期まで分類されているが,このほかに0期と呼ばれているものがある。子宮頸部の上皮が悪性の腫瘍になると必ず上皮の下の組織に侵入する。このようになったものが癌であるが,0期では上皮の細胞は癌になっているが上皮下の組織に侵入していない。このような状態を上皮内癌または0期の癌と呼んでいる。癌になる一歩手前の状態であるからもちろん転移はなく,治療すると100%といってよいほど治癒する。しかも治療方法は簡単である。したがって0期のうちに見つけて治療することが頸癌治療の最良の方法であり,集団検診や定期的健診ではこの状態で見つかることが多い。
子宮癌ではじめて気がつく症状は,不正性器出血が最も多い。子宮癌がある程度進行すると,くずれやすい組織なので出血する。少量の出血であると,腟の中にたまってから排出されるので,黒ずんだおりものとして排出される。排便のときにいきむと血液が排出されて紙につき気づくことがある。性交のさいに子宮腟部にある癌がこすれて出血する。したがって性交のさいの,またはそのあとの出血で癌に気づくことが最も多い。逆に夫を失った人や高齢の人では,出血の現れるのが遅くなりがちである。たとえば高齢者では,昨日はじめて出血したということで診察を受けたときにはすでに頸癌Ⅲ期になっていた,というようなこともまれではない。出血の量や色などに子宮癌特有のものはない。月経の量が多かったり長びいたり,月に2~3回もみることがある。これは月経のさいに癌からの出血が多くなったり,また月経と月経との間に癌からの出血が起こる結果,月経の回数が増加しているように感ずるわけである。月経が閉止してから相当期間たってからの出血は,たとえ1滴の血がおりただけでも危険信号と考えたほうが安全である。出血がなくても,水のような,または黄色いおりもの,またはねばついたおりものが現れることもある。また下腹部の重苦しい感じや腰の痛みなどではじめて気づくこともある。
以上のような症状は子宮癌が相当進行するまで現れないことがある。さらに0期ではむしろ無症状のことが多い。この時期でも検診すれば早期発見することは困難ではない。このような理由で,定期的な健康診断の重要さが強調されているのである。1年に1度は必ず健康診断を受けることを勧めたい。医師会や保健所などが中心となって健康診断を行ういわゆる集団検診が全国的に行われている。その通知がきたら,良い機会であるから必ず受診するようにしたいものである。
子宮癌の診断方法は,問診,婦人科的内診,細胞診,コルポスコピーcolposcopy,組織診などからなっている。
(1)細胞診cytodiagnosis 組織の表面からはがれ落ちた細胞,または組織の表面をこすりとって採取した細胞を染色して顕微鏡で観察する診断法を細胞診またはスメア・テストsmear testという。癌の診断への応用はギリシア生れのパパニコローG.N.Papanicolaou(1883-1962)により1928年に確立され,各種の癌診断に欠かせぬものである。ことに子宮癌ではその臨床的価値はきわめて大きい。頸癌は外子宮口付近に発生するので,そのあたりを綿棒かへらでこすり,それをガラス板に塗り,染色して顕微鏡で見る。癌があると癌細胞が発見できる。この方法は受診者にはまったく痛みがなく,わずかの時間しか要せず,出血もほとんどない。しかも診断の正確度が高い。したがって多人数を検査する集団検診にはきわめて好都合で,集団検診では細胞診を主体とした検査をまず行い,異常細胞を発見した症例について組織診などの二次検診を行うのが通例である。細胞診の判定結果は(-)(±)(+)の3通りに分けることもあるが,婦人科ではクラスⅠ(正常細胞),Ⅱ(癌ではない異常細胞),Ⅲ(癌の疑い),Ⅳ(強く癌が疑われる),Ⅴ(癌細胞)の5段階に分けている(パパニコロー分類)。細胞診の判定結果でクラスⅢ,Ⅳ,Ⅴのいずれかの場合は次の組織診を行う(病院での診察では細胞診をはじめとして必要な癌の検査を同時に行うことも多い)。なお癌があるのに細胞診で癌と検出できない率(偽陰性率)は,材料の不適などいくつかの原因があるが,頸癌の場合は10%以下と考えられている。子宮癌は細胞診で癌細胞と判定されても,直ちに治療を行うことはしない。必ず組織診で癌と確定してから治療を始める。それは,細胞診で癌と診断されても,癌でない場合(偽陽性率)が,低率ではあるが,存在するからである。
(2)組織診biopsy 疑わしい部位から組織をとり,標本を作って顕微鏡検査をするのを組織診という。採取する組織は米粒大のもので,少し出血をするが縫合する必要はまずない。組織を採取するさい,コルポスコープという器械で局所を観察しながら採取する。
(3)円錐切除診conization 外来で採取する組織は小さいので,ごく初期の癌か0期の癌か区別しにくいことがある。このような場合,子宮腟部を頸管を中心として円錐状にきりとり,それについて詳細な組織検査をする。その結果,上皮内癌であれば子宮をとらないですむこともあり,ことにまだ子どもを欲しい人では,なるべく子宮を温存する。円錐切除診には数日間の入院を要する。
以上は頸癌の診断方法であるが,体癌の場合は体部から材料を採取して細胞診や組織診を行う。このさいは若干の痛みを伴うのが普通である。
前記のように手術治療も放射線治療もきわめて有効である。
(1)手術治療 頸癌はたとえI期でも子宮の外に癌が転移している可能性がある。したがって子宮の周囲の組織は骨盤壁にいたるまで十分に摘出し,骨盤内のリンパ節もすっかりとりさる。このようにかなり大きな手術であるので,かなり長時間を要し,また出血も多いので輸血を要する。しかし,麻酔方法が進歩しているので,患者は眠っているうちに治療が終わり,手術後の苦痛も少ない。手術のために命を失うことはまずない。しかし,手術にも難点はある。膀胱の周囲の組織もすっかりきりとられるので,手術後すぐには自分で尿を出しにくい。また頑固な便秘にもなりがちである。手術で摘出した組織の病理検査を行い,必要があれば念のために放射線治療を追加する。ただし0期の癌では,子宮をとるにしても子宮だけでよいので,輸血も必要とせず,排尿,排便の障害もなく,放射線治療を追加する必要もない。入院期間も短い。この点からみても,無症状のうちに定期的検診を受けることが重要である。
(2)放射線治療 頸癌の治療には,放射線治療がきわめて有効である。事実,欧米諸国では放射線治療を手術よりも主役としているところが多い。しかし日本では一般に,局所的にまた全身的に安全に手術しうる場合は手術を,そうでない場合は放射線治療を選択している。放射線治療では,子宮,腟内にラジウムなどを挿入する腟内照射と,X線を外部から照射する外部照射とを組み合わせて,手術で摘出する範囲を照射する。手術の場合と異なる副作用があるが,それによって治療を完遂しえないことはまずない。手術にせよ放射線治療にせよ,退院後は医師の指示どおりに,ときに通院することが必要である。
手術治療が主である。子宮を摘出し,骨盤内リンパ節も摘出する。手術後に放射線を照射することもあり,また手術不能の場合は放射線治療を行う。
執筆者:笠松 達弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
子宮に原発する癌で、女性では臓器癌のうち胃癌に次いで多い。発生部位によって子宮頸(けい)癌と子宮体癌に分けられるが、両者はまったく別の癌として扱われているほど、発生素因や組織学的構造、症候や進展状況、治療や予後などもすべて異なる。しかしまた、日本では子宮癌の80%以上が子宮頸癌であり、子宮癌といえば子宮頸癌をさす場合が多い。なお、両者とも治療に先だって進行の程度を国際規約(1961年、国際産婦人科学会癌委員会採択の規約)によって決められた臨床進行期分類に従ってかならず分類される。予後はいかなる治療が行われたにしても、治療が開始されたときの患者の臨床進行期分類に大きく左右され、その段階が進むほど不良となってくる。
[新井正夫]
子宮頸部の粘膜から発生し、とくに外子宮口付近、すなわち腟(ちつ)部を覆う多層の扁平(へんぺい)上皮と頸管部を覆う1層の円柱上皮との境界部が、発生上もっとも重要な部分とされる。40歳から50歳代に多いが、ごく初期の段階では集団検診などで30歳代に発見される率が高く、20歳代にもみられることがある。したがって子宮癌の定期検診は、30歳を過ぎれば受けるべきである。
子宮頸癌は、進行程度によって0(ゼロ)期からⅣ期までの5段階に分けられる。0期やⅠ期の初めころにはほとんど症状がなく、臨床前癌とよばれているほどである。初発症状としては、せいぜい性交後に少量の出血(接触出血)をみる程度である。しだいに癌の浸潤が進むと出血しやすくなり、性交後にたびたび出血するほか、排便や排尿時にも出血しやすくなる。また、汚れた「おりもの」がある。このようなときには、年齢を問わず、即刻診察を受ける必要がある。Ⅲ期では癌が骨盤壁に及んで神経を圧迫し、神経痛がおこる。また、下肢や下腹部にむくみ(浮腫(ふしゅ))がみられる。
[新井正夫]
次の三つを組み合わせて行う。
(1)細胞診 腟の内容や子宮口付近を擦過してガラス板に塗抹し、染色して顕微鏡で癌細胞の有無や進行の程度を判定する。早期発見に欠かせない検査法で、女性が自分で腟内容を採取してガラス板に塗り、検査所に送る方法もある。
(2)コルポスコープ診 コルポスコープ(腟拡大鏡)で子宮口周辺全般を観察し、とくに癌が発生しやすい部位を撮影したり模式図で記録するもので、コルポ診とも略称される。
(3)組織診 細胞診やコルポ診で異常所見や癌が疑われたときに行われ、特殊な切除器で疑いのある部位の組織の一部を採取し、組織標本をつくって顕微鏡で調べる。子宮癌の確定診断は組織診によって決定される。
[新井正夫]
白色人種に多く、肥満および糖尿の傾向のある人、高血圧や不妊の人などに多くて若い女性には少ないが、近年増えつつある。
月経に似た出血が長く続いたり不正出血がときどきみられ、とくに閉経期の月経不順や閉経後の出血は精密検査が必要である。診断には、子宮腔内の分泌物を吸引して細胞診を行うとともに、診査掻爬(そうは)による組織診を必要とする。
臨床進行期分類では子宮頸癌と同様に0期からⅣ期まで分類されるが、細部の点で異なり、Ⅰ期では子宮の大きさや病理組織像が問題にされる。治療としては、体癌の大部分が放射線感受性の低い腺(せん)癌であるため手術が優先される。単純全摘出術の適応例が多く、治癒率も一般に頸癌より良好である。近年はまた、ホルモン療法として合成黄体ホルモン(ゲスタゲン)の大量投与が有効とされている。
[新井正夫]
子宮がんは、子宮の入口付近のくびれた部分にできる子宮
発生率としては2対1くらいで頸がんのほうが多いのですが、近年、体がんの占める割合が増えつつあります。
●おもな症状
頸がん、体がんとも初期は無症状のことが多く、進行に伴い、不正性器出血、ピンクや茶褐色のおりものなどがみられます。頸がんでは、性交時の接触出血があることもあります。体がんでは、ほとんどの例で不正性器出血がみられています。
〔子宮頸がん〕
①子宮頸部細胞診(擦過細胞診)
▼
②腟鏡診(クスコ診)/腟拡大鏡診(コルポスコープ診)/腫瘍マーカー
▼
③超音波/CT/MR /PET-CT
〔子宮体がん〕
①子宮内膜細胞診
▼
②子宮内膜組織診/腫瘍マーカー
▼
③超音波/子宮鏡検査
▼
④CT/MR /PET-CT
子宮頸がんは内診と細胞診でだいたいわかる
子宮頸がんは、検診が普及した影響もあり、集団検診などで早期で発見される率が高まっています。一般に30歳以上が検診の対象になっていますが、20歳代でも必要性があるといわれています。
最初は、検診でも実施されている子宮頸部細胞診(
細胞診でがんが疑われたら、
腫瘍マーカー(→参照)は、頸がんにはSCCなどが使われています。その他、必要に応じて腹部超音波(→参照)や腹部CT(→参照)、MR(→参照)などを行います。
子宮体がんは組織診と画像診断が有効
子宮体がんでは、細いチューブやブラシを子宮の奥のほうに入れて子宮内膜細胞を採取し、病理検査を行います(子宮内膜細胞診)。細胞診でがんが疑われたら、少し大きめに組織を採取して調べます(子宮内膜組織診)。
腫瘍マーカーは、体がんの場合はCEA、CA125などが使われています。その他、がんの広がりや進展の具合を調べるには、経腟超音波(腟口から小さなプローブを挿入して行う)やMR、CTが有効です。内視鏡の一種である子宮鏡を用いることもあります。
体がんでも出血がみられないこともあるので、無症状でも45歳を過ぎたら検診を受けることがすすめられます。
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…第3が子宮の単純全摘術で,これは子宮だけを全部(卵巣や卵管は残して)取る方法である。子宮筋腫は体部筋腫がほとんどであるから,子宮全体(頸部までも)を取る必要は必ずしもないのであるが,子宮癌を発生しやすい中年以後の年齢に発見された場合に,子宮癌の発生しやすい子宮頸部をも予防的に取るという方法で,現在ではかなり多くの場合にこの手術方法が用いられている。最近ではエストロゲンに対して強い抑制作用を示すGnR‐analog製剤が用いられ,貧血の改善や腫瘍の縮小が期待される子宮全摘術の術前投与としても有用である。…
※「子宮癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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