肩関節周囲炎(読み)カタカンセツシュウイエン(その他表記)Periarthritis scapulohumeraris (Frozen shoulder)

デジタル大辞泉 「肩関節周囲炎」の意味・読み・例文・類語

かたかんせつしゅうい‐えん〔かたクワンセツシウヰ‐〕【肩関節周囲炎】

五十肩凍結肩)の医学的な正称。

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六訂版 家庭医学大全科 「肩関節周囲炎」の解説

肩関節周囲炎(五十肩)
けんかんせつしゅういえん(ごじゅうかた)
Periarthritis scapulohumeraris (Frozen shoulder)
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 中年以降(とくに50代に多い)に発生する、肩関節の痛み(疼痛(とうつう))と動きの制限(拘縮(こうしゅく))を伴う病気の総称です。肩関節とその周辺組織に炎症を来すため、炎症を起こしている部位、炎症の程度によりさまざまな症状を起こします。

 五十肩の定義についてはいろいろな議論がありましたが、現在では広義と狭義の2つのとらえ方が一般的です。広義の定義では肩関節周囲炎と同じですが、狭義では疼痛と拘縮を伴う肩関節(凍結肩(とうけつかた))のことをいいます。

原因は何か

 関節を構成する骨、軟骨、靱帯(じんたい)(けん)などが老化(変性)して肩関節の周囲組織に炎症が起きることが、主な原因と考えられています。この炎症が起こる部位は、肩関節の動きをよくする袋(肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう))、関節を包む袋(関節包)、肩の筋肉が上腕骨頭(じょうわんこつとう)に付くところ(腱板)、腕の筋肉が肩甲骨に付くところ(上腕二頭筋長頭腱(じょうわんにとうきんちょうとうけん))などがあります(図62)。肩峰下滑液包や関節包が癒着(ゆちゃく)すると、さらに肩の動きが悪くなります(拘縮または凍結肩)。

症状の現れ方

 肩あるいは肩から上腕への疼痛と関節の動きが悪くなることです。症状と時期によって急性期(疼痛が最も強く現れる)、慢性期(疼痛は軽快しているが運動制限(拘縮)が残っている)、回復期(関節拘縮が改善する)の3段階に分類されます。

 急性期では、炎症を起こした腱板や肩峰下滑液包の痛みが主ですが、周辺組織に炎症が広がる場合もあり、肩周辺のかなり広い範囲に疼痛を感じます。安静にしていても痛みは強く(安静時痛)、夜間に激しいのが特徴です。その痛みは肩だけでなく、時に肩から上腕にも放散します。

 夜間に痛みが強くなるのは、肩が冷えることや、寝ている時に上腕骨肩峰下滑動機構(けんぽうかかつどうきこう)に長時間圧力が加わることが原因と考えられています。このような場合、起き上がって座位で腕を下げておくと、痛みが軽減することもあります。

 また、日常生活で衣服の着脱、帯を結ぶ動作、入浴時(体や髪を洗う動作)、トイレや、腕(上肢(じょうし))を上に挙げようとする動きによって痛みが出たり、強くなったりします(運動時痛)。そのため、肩関節の動きはかなり制限されます。

 急性期が過ぎて慢性期になると、安静時痛は消失します。しかし、腕(上肢)を挙げていく途中で痛みを感じ、肩関節の動きが制限されています。とくに肩関節の内旋・外旋制限が残ることが多いです。

 回復期になると運動制限も徐々に改善して、運動時痛も消失します。

検査と診断

 肩関節に起こる痛みには、肩関節周囲炎のほかに、肩腱板損傷(けんけんばんそんしょう)肩石灰沈着性腱炎(けんせっかいちんちゃくせいけんえん)などがあります。

 これらは、X線撮影、関節造影検査、MRI、超音波検査などで区別(鑑別診断)します。X線像では肩関節周囲炎に特異的な異常所見はないので、前記した疾患を除外するために行われます。

治療の方法

 痛みが強い急性期には、三角巾・アームスリングなどで安静を図り(痛みを感じない肢位をとることが大切)、消炎鎮痛薬の内服、注射などが有効です。急性期を過ぎたら、温熱療法ホットパック、入浴など)や運動療法(拘縮予防や筋肉の強化)などの理学療法を行います。理学療法は炎症症状が治まってから行うのが原則です。

 これらの方法で改善しない場合は、局所麻酔薬入りの生理食塩水で関節包を広げるように注入を繰り返す透視下関節内パンピングや、手術をすすめることもあります。手術は麻酔下に関節鏡を挿入して癒着剥離(はくり)する方法(関節鏡視下関節受動術)などが行われています。

病気に気づいたらどうする

 自然に治ることもありますが、放置すると日常生活が不自由になるばかりでなく、関節が癒着して動かなくなることもあります。

 急性期は安静が原則ですが、人によっては痛みをこらえて動かそうとしてしまう場合があります。無理に動かすと肩周辺の炎症によりはれている組織(浮腫)は強い摩擦を受けて損傷され、ひどくなると腱板が損傷することもあります。このような状態を避けるためにも、整形外科への受診をすすめます。

池上 博泰


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「肩関節周囲炎」の解説

かたかんせつしゅういえんしじゅうかたごじゅうかた【肩関節周囲炎(四十肩/五十肩) Periarthritis Scapulo-humeralis】

[どんな病気か]
 一般には、四十肩、五十肩と呼ばれていますが、正式な病名は、肩関節周囲炎といいます。関節の周りにある組織の変化や、炎症などによって、肩に痛みが出る病気です。
 肩関節の動きをつかさどる筋肉のうち、たいせつな4つの筋肉(棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)、小円筋(しょうえんきん))が骨に付着する部分(腱(けん))を腱板(けんばん)といい、この腱板は、上腕骨(じょうわんこつ)の上の部分(結節部)についています。
 年齢とともに、この腱板の炎症や部分的な断裂、また、腱板の上にある袋(肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう))の炎症や癒着(ゆちゃく)がおこりやすくなり、こうしたことが肩の痛みや動きの制限をもたらします。
 また、腕の力こぶをつくる上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)の腱に炎症(上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんけんしょうえん))がおこり、これによって、肩の痛みや動きの制限が現われることもあります。
[症状]
 肩を動かすと痛みがおこります。腕を上げたり、背中にまわしたりするときにも痛みます。
 はじめは痛みが強く、夜間、とくに朝方に強くなります。そして、しだいに肩の動きが不自由になってきます。
 ただし、腱板に石灰が沈着する石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん)の場合には、ある日、急に何の前ぶれもなく肩に激痛がおこり、まったく腕を動かせなくなることもあります。
 この場合は、X線写真で石灰の沈着がはっきりわかり、診断できます。
 また、転んで肩を打った後や重いものを持ち上げたときに、急に肩が痛み、腕を上げることができなくなった場合には、腱板断裂の可能性があります。
 したがって、五十肩と思い込まずに、整形外科医を受診し、正しい診断をしてもらったほうがよいでしょう。
[治療]
 保存的治療が原則です。初期の痛みが強い時期は、消炎鎮痛薬(しょうえんちんつうやく)の内服と、関節内にステロイド薬(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬)やヒアルロン酸ナトリウムの注射を行ないます。
 これで、動かしたときの痛みはしだいに軽くなりますが、肩の動きが悪くなります。
 この時期には、ホットパックや超短波などを使った温熱療法と、肩の動く範囲を広くする運動療法が治療の中心となります。
 家庭でできる運動としては、入浴後に、前かがみの姿勢をとり、アイロンを持って腕を前後左右に振るという運動があります(図「四十肩、五十肩の運動療法」)。
 肩の動きが非常に悪く、なかなか改善しないときには、小さくなった関節を包んでいる袋(関節包(かんせつほう))に麻酔薬を注入して、少しずつ広げる、パンピング療法と呼ばれる方法が用いられることもあります。
 また、関節鏡を用いて、つっぱっている靱帯(じんたい)を切除する手術を行なうこともあります。
 しかし、たいていは根気よく治療と運動を行なうことにより、手術せずによくなります。

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世界大百科事典(旧版)内の肩関節周囲炎の言及

【五十肩】より

…肩に過度の運動や小さな外傷が加わり,上記の各組織に炎症を起こすことが本症発生の引金となる。この引金によって肩関節が反射性の攣縮状態に陥ったのが五十肩であり,それで肩関節周囲炎periarthritis scapulohumeralisとも呼ばれる。 急性期ではステロイドホルモンと局所麻酔剤の注射や抗炎鎮痛剤を投与する。…

※「肩関節周囲炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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