翻訳|iron
( 1 )英語 smoothing iron の省略形 iron の日本語形。
( 2 )ゴルフクラブの「アイアン」は、「アイロン」とその原語を同じくするが、杉村楚人冠(一八七二‐一九四五)の「山中説法」の「アイロンが火のしで、アイヤンがゴルフの道具である」という記述などを見ると、ゴルフの専門用語としては、早くからこの形が定着していたものと考えられる。
熱と圧力によって、布地のしわを伸ばし、折り目をつけ、衣服の形を整えるなど、和洋裁や洗濯の仕上げに用いる器具をいう。
[熊田泰治・深井晃子]
アイロンは、その名「鉄」の意のとおり、19世紀中ごろ、イギリスで取っ手をつけた鉄の厚板に石炭のおき火をのせて、衣服のしわを伸ばしたのが始まりといわれている。これよりも前、16世紀には当時流行したラフ(襞襟(ひだえり))を形づくるためのこてが用いられていた。日本では、古くから金属製の火桶(ひおけ)に木製の柄がついた火熨斗(ひのし)が使用され、江戸中期ごろからは笹鏝(ささごて)が用いられた。19世紀末ごろにはイギリスから西洋火熨斗(アイロン)が導入された。今日のような電気アイロンは、ニクロム線の開発によって熱源が急速に電気に変わった20世紀以降用いられるようになった。
[熊田泰治・深井晃子]
熱源により、ガス、電気に分けられる。ガスアイロンは内部にガスバーナーの装置のあるもので、おもに職業用に使われたが、火力の調節や使用の不便のため現在ではほとんど使用されていない。電気アイロンの発熱方式には、雲母(うんも)(マイカ)板にニクロム線を巻き付けた発熱体を底金に取り付け、熱を底面に伝えるマイカヒーター式と、ニクロム線をあらかじめコイル状に巻き、金属管内に収納し、酸化マグネシウムにより絶縁、封印した棒状の発熱体を底金の中に埋め込み、底面に熱を伝えるシーズヒーター式とがある。アイロンの種類は現行日本工業規格(JIS(ジス))によると、機能別に、ドライアイロンとスチームアイロン(蒸気)に分類される。重量はあまり問題にされず、発熱体や軽量金属材料の開発で、軽くて熱効率のよいものへ変わりつつある。ただし職業用としては、ワット数に加えて重量があるほど効果がよい。家庭用としては、400~700ワットの消費電力で、重量は1000~1300グラムのものが用いられている。家庭用アイロンは、ほとんど自動温度調節器付きの自動アイロンとなっており、内部にバイメタルによる電流の断続装置があり、温度を一定に保つことができ、ダイヤルを回し、バイメタルの接点距離を調節すれば温度調節ができる。近年、アイロンの底金にフッ素樹脂塗装を施したものが主流になってきた。アイロンかけの際、繊維との滑りをよくし、焦げ付きを防止するのに有効である。スチームアイロンには、タンク式(胴体内のタンクの水を電熱で沸騰させ、できた蒸気を底面の穴から噴射させる)と、滴下式(タンクの水を少しずつ底の発熱体の上に滴下させて蒸気にし、穴から噴射させる)とがある。滴下式のほうが蒸気の噴射口が多く、広く均一に蒸気が出るので能率よく仕上がり、広く使われている。使用する水が蒸留水でないと水あかがたまる欠点があるため、噴射口は手入れのしやすい構造になっている。いずれも霧吹きの必要がないので、羊毛製品の仕上げに有効である。なお、滴下式スチームアイロンには、水タンク部分をアイロン本体から取り外せるカセットタンク形式のものがある。これはカセットタンクで注排水が行えるので、使いやすい。
[熊田泰治・深井晃子]
アイロン仕上げの効果は、適度の湿度を含ませて熱と圧力を加えると、繊維には一定の形を相当期間保つ性質があることを利用したもので、温度、接触時間、水分、加圧力などの総合効果である。したがって、アイロンの適正温度を選び、適度に湿っている繊維に加圧すると、アイロンの効果は大きい。適正温度は繊維の種類によって異なるので、注意が必要である。しかし最近では、おもな繊維に対する適正温度が表示されており、また熱と水蒸気を併用するスチームアイロンは、仕上げの目的が簡単に得られて使いやすくなっている。アイロン台の上で、布地によっては当て布をあてながらアイロンをかけるが、この際、与えた湿気は完全に乾かさないと、型くずれやしわを生じやすいので、注意する必要がある。
なおアイロンにはこのほか、用途により、小型軽量の旅行用アイロン、アイロンと同一構造の和裁用電気ごて、毛髪用のアイロンなどもある。また、ズボンの折り目つけ用にはズボンプレッサーがある。
[熊田泰治・深井晃子]
英語ironのなまったもので,鉄の意。衣服類のしわ伸ばしや形なおしに用いる道具。火熨斗(ひのし)やこても用途は同じ。日本では古くから敷きのしや寝おしが行われ,火熨斗やこての使用は平安時代の《和名抄》にみられる。《大鏡》には侍女が火熨斗を用いて大臣の夜具を暖めたとあるが,衣服類のしわ伸ばしに利用されたかどうかはさだかでない。江戸時代になると洗濯の仕上げに用いられるようになったと思われ,《浮世風呂》には,下女が火熨斗がけの失敗を戒められたことが記されている。アイロンは江戸末期に輸入され,当時の浮世絵《横浜異人図絵》(一川芳員)には外人のアイロンがけが描かれている。明治中期には炭火アイロンが発達した。
ヨーロッパでは16世紀に流行したひだ襟の型づけのため鉄製のこてが考案され,その後改良が加えられて,火塊や熱した鉄を収容して熱源としたり,暖炉の上で加熱するアイロンがつくられた。1850年代には天井からガス・チューブでつながれたガスアイロンが考案された。1900年ころ,電気アイロンが登場し,メーカーは汗だくの重労働からの解放を訴えかけた。日本では15年に国産化され,27年ころ安価な製品の登場を契機に普及しはじめた。第2次大戦後は温度調節が可能な自動アイロンが繊維の多様化に伴って普及,58年にはスチームアイロンが売り出された。
水分と熱により高分子である繊維の分子間の結合を弱め,分子を動きやすくし,それに圧力を加えて変形させ,しわを伸ばしたり,折り目をつけたりすることがアイロンがけである。アイロン効果に及ぼす影響は水分,温度,時間,圧力(重さ),あて布の有無などがあげられる。親水性の繊維は水分を吸収して膨潤するので水分を含ませるのが効果的だが,疎水性の合成繊維ではあまり必要ない。温度は高いほど効果が大きいが,繊維の耐熱性を考慮しなければならない。あて布をすると約10℃下がる。濃色の物や毛製品に生じる〈てかり〉は,水分,熱,圧力により,繊維表面の凹凸が扁平化するためで,あて布をし,裏から短時間にかけると防げる。
執筆者:西村 和代
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