中年以降になって,特別の原因がないのに肩に痛みをおぼえ,同時に肩の動きも悪くなって腕をあげたりすることができなくなった状態を五十肩という。四十肩ともいう。疼痛が主体の急性期と運動制限が著しい慢性期に分けられる。前者が疼痛性筋痙縮期,後者が筋性拘縮期で凍結肩frozen shoulderと呼ばれる。
肩関節は肩甲骨の小さな関節窩(か)に球状の上腕骨頭が接続している。あらゆる方向の運動ができる反面,不安定で脱臼しやすい。不安定性を補強するために肩甲骨から肩峰というひさしが伸びて上腕骨頭の上をおおっている。しかし肩峰と上腕骨頭の間にある関節包,棘(きよく)上筋腱,肩峰下滑液包は,肩の運動のたびに肩峰と骨頭の間に挟まれるので変性や炎症を起こしやすい。また肩甲骨の関節窩の上縁に始まって,上腕骨頭の前面の深い溝の中を下に走っている上腕二頭筋腱も,肩の運動のたびに溝で摩擦を受けて変性と炎症を起こしやすい。そのうえ中年以上という加齢(老化)も手伝って関節が攣縮(れんしゆく)予備状態になっていることが五十肩の発生を促進している。肩に過度の運動や小さな外傷が加わり,上記の各組織に炎症を起こすことが本症発生の引金となる。この引金によって肩関節が反射性の攣縮状態に陥ったのが五十肩であり,それで肩関節周囲炎periarthritis scapulohumeralisとも呼ばれる。
急性期ではステロイドホルモンと局所麻酔剤の注射や抗炎鎮痛剤を投与する。疼痛が軽減した時点で理学療法を行う。多くは半年から1年で治癒に向かう。
執筆者:石井 清一
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肩(かた)関節周囲炎に相当するものをさし、肩関節の周囲組織の老人性変化を基盤とした病変によっておこる。中老の人に多いところから五十肩とか四十肩とよばれる。関節周囲の変化としては腱(けん)炎、腱鞘(けんしょう)炎、腱板損傷、滑液包炎、関節包炎などがある。急性に発症するものと慢性に症状が増悪するものがあるが、主症状は肩関節の疼痛(とうつう)と運動制限である。
上肢を動かすと肩関節の疼痛が強く、また夜間に疼痛のため睡眠が妨げられることもある。運動制限の程度はいろいろであるが、上肢があがらず、また上腕が回らない(外旋、内旋ができない)ので頭髪がとかせないとか、手が後ろに回らないので帯が結べない、ズボンの後ろのポケットに手が入らないなど、日常動作ができなくなる。上肢がほとんどあがらなくなることもある。このように運動障害が強いことから、凍結肩frozen shoulderともよばれる。
症状が初めは軽く、だんだんと重くなって運動制限が高度になっても、その後は徐々に症状が軽快していく。多くは6か月、遅くとも1年以内に症状は消失する。両側の肩関節に同時にくることはほとんどないが、治ってから他側の肩関節に発生することがある。
治療としては保存的療法が行われる。すなわち、局所の温熱がよく、鎮痛消炎剤の内服や局所麻酔剤などの注射が疼痛を除くために行われる。疼痛の強くない程度に肩関節の自働運動をすることが必要で、家庭では入浴と上肢の体操を十分に行うようにする。予防にも、上肢の運動を日ごろからよく行っておくことがよいと考えられ、また上肢の無理な急激な動作をしないように心がけることである。
[永井 隆]
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