胸部外科(読み)きょうぶげか(英語表記)thoracic surgery

改訂新版 世界大百科事典 「胸部外科」の意味・わかりやすい解説

胸部外科 (きょうぶげか)
thoracic surgery

肺・縦隔心臓など,胸部疾患手術的に治療を行う外科の一部門。胸部の外科は肺結核の外科的治療とともに発達したといっても過言ではない。腹部と異なり,胸郭に囲まれた内腔は,陰圧に保たれているため,胸を開くと大気圧のために,肺は萎縮して,呼吸が著しく障害される。このことが歴史的に,胸部の外科が腹部外科に比して遅れた最大の原因といえる。日本で開胸術の呼吸管理について,大論争が行われたのは1938年ころであり,現行のような手術時の呼吸管理が確立したのは,第2次大戦後である。また,抗生物質の使用とともに,それまで肺結核の治療として,人工気胸,胸郭成形術にとどまっていた外科治療が,肺切除へと爆発的進展を遂げた。一方,心電図の活用など,心臓の診断技術の進歩や,人工心肺の開発によって,心臓手術も加わり,現在では,胸部外科は肺・縦隔,心臓・大血管,および食道の手術を3本柱としている。現在,診療科名として,呼吸器外科,心臓血管外科が認められている。
外科
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「胸部外科」の意味・わかりやすい解説

胸部外科
きょうぶげか
thoracic surgery

心臓,大血管,肺,食道,縦隔などの疾患を対象とする外科をいう。 1930年代の初めに新しい外科技術が導入されるまでは,胸郭内の手術を行うことは珍しく,安全度も低いものであった。しかし,外科学,生理学生化学物理学などの研究成果により,現在では日常的なものとなっている。特に心臓外科は 1939年以降は劇的に進歩した。

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世界大百科事典(旧版)内の胸部外科の言及

【ザウエルブルフ】より

…デュッセルドルフ近くのバルメン(現,ブッパータール)に生まれ,ブレスラウ(現,ブロツワフ)大学でミクリチ・ラデツキーJohann von Mikulicz‐Radecki(1850‐1905)について外科学を修めた。胸腔内圧の差異について詳しく新知見を報告し,胸腔内の外科手術操作を可能にして胸部外科という新分野を開拓した。1910年チューリヒ大学の正教授に就任,18年ミュンヘン大学,27年ベルリン大学に転じた。…

【手術】より

…こうして,以前には想像もできなかったような大きな手術が,種々の分野で実施されるようになり,それに伴い外科も細分化の傾向が強まった。
[胸部外科の発達]
 第2次大戦前猛威をふるっていた肺結核に対して,栄養,大気,安静という消極的な治療法から人工気胸術,胸郭形成術がくふうされ,1934年にはドイツのE.F.ザウエルブルフが肺葉切除に成功し,今日の胸部外科の基礎が築かれた。
[心臓外科の誕生]
 心臓外科は,1896年W.レーンの損傷を受けた心臓壁の縫合の成功に端を発するが,1945‐46年ブラロックAlfred Blalock(1899‐1964)らによって進められたファロー四徴症に対する鎖骨下動脈,肺動脈間血管吻合(ふんごう)形成術などによって心臓外科は花開き,その後人工心肺装置の発展によって直視下開心術も可能になった。…

※「胸部外科」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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