腕神経叢麻痺(読み)わんしんけいそうまひ(英語表記)Brachial plexus palsy

六訂版 家庭医学大全科 「腕神経叢麻痺」の解説

腕神経叢麻痺
わんしんけいそうまひ
Brachial plexus palsy
(子どもの病気)

どんな病気か

 分娩時に腕の神経損傷を受け、麻痺が生じたものです。

原因は何か

 腕神経叢頸髄(けいずい)下部から胸髄(きょうずい)上部にかけての脊髄神経根で形成され、そこから腕神経が腕に向かって伸びています。分娩時に頸部側方に過剰に引き伸ばされることで損傷が起こります。損傷の受け方としては、神経が引き伸ばされたことによるものと、完全に断裂したものとがあります。発生頻度は比較的高く、0.2~0.5%に発生するとされています。

症状の現れ方

 損傷を受けた場所により、上位型(エルブの麻痺)、下位型(クルンプケの麻痺)、全型に分けられます。上位型では肩や(ひじ)を動かすことができず、腕全体がだらりとした感じになりますが、指を握ることはできます。下位型では肩や肘を動かすことはできますが、指を動かすことができなくなります。全型では肩、肘、指のいずれも動かすことはできません。また、横隔膜(おうかくまく)神経が近くにあるため、横隔膜の麻痺を伴うことがまれにあります。その場合はチアノーゼ(皮膚などが紫色になること)、呼吸数の増加、呼吸困難がみられます。

検査と診断

 MRI検査で神経根の断裂が証明されることがありますが、ほとんどの場合は、症状から診断されます。

治療と予後

 最初の1~2週間は腕の安静を保ちます。そのあと、関節拘縮(こうしゅく)(変形して硬くなる)を防ぐためにリハビリテーションを開始します。多くの場合は3~4カ月で完全に回復しますが、神経の完全断裂によるものでは回復を望めず、手術によって神経を修復することが必要になります。生後3カ月で手首を曲げられない場合、または生後6カ月で肘を曲げられない場合は手術を行うほうがよいとされています。いずれにせよ、整形外科による診断と経過観察が必要です。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「腕神経叢麻痺」の解説

わんしんけいそうまひ【腕神経叢まひ Brachial Plexus Palsy】

[どんな病気か]
 頸椎(けいつい)の下部と胸椎(きょうつい)の上部の脊髄(せきずい)から出る神経根(第5、6、7、8頸神経と第1胸神経)は、脊椎の前側方(くびの前の鎖骨(さこつ)の上のほう)で集まって束のようになっており、この部分を腕神経叢といいます。
 この束は、しだいに枝分かれしながら、肩、腕、指に向かう神経となっています。
 交通事故、とくにオートバイの転倒事故などで、くびが横のほうに強く曲げられたり、肩が引っ張られたりすると、この腕神経叢がちぎれたり、脊髄の出口で引き抜かれたり(神経根引(しんけいこんひ)き抜(ぬ)き損傷(そんしょう)、または節前損傷(せつぜんそんしょう)と呼ばれる)します。
 そのほか、機械に腕を巻き込まれたり、スポーツ事故でも、同じようなことがおこります。
 鎖骨や第1肋骨(ろっこつ)の骨折をともなうこともあります。
 損傷を受ける腕神経叢の広がりによって、
①全型
 腕全部がまひしている場合
②上位型
 肩と肘(ひじ)が動かなくなっている場合
③下位型
 手の指が動かなくなっている場合
に分類されています。
 重いリュックサックを長時間背負ったり、変な格好で寝ていたりすることによって、腕神経叢が引っ張られて、腕がまひすることもあります。
 しかし、こういう場合は、しだいに回復することが多いものです。
[検査と診断]
 腕全体の運動まひと知覚まひの分布を調べることによって、腕神経叢まひの診断と同時に、全型、上位型、下位型の診断ができます。
 まひの回復の望めない引き抜き損傷と、そうでない損傷とを区別することが重要です。
 引き抜き損傷を診断するためには、脊髄腔造影術(せきずいくうぞうえいじゅつ)と、その後のCT検査が有効なことが多いものです。
[治療]
 切断された神経を接着する手術は非常にむずかしく、ふつうは、行なわれることはありません。
 引き抜き損傷がおこっている場合は、自然にまひが回復することは、まずありません。
 引き抜き損傷でない場合は、ある程度の自然回復の可能性は十分ありますので、約1年半くらいは、動かなくなった関節が固まって(拘縮(こうしゅく))しまわないように、リハビリテーションを行ないながら、ようすをみます。
 手術 まひの回復の見込みがないとなった時点で、機能再建手術(いたんだ腕神経叢を直接治すのではなく、腕の筋肉や腱(けん)を移動することによって、できるだけ腕や指を使いやすくする手術)が行なわれます。
 上位型では、手指のまひはないため、肩や肘(ひじ)の機能再建手術を行なえば、腕の機能が大きく改善されることが期待できます。
 しかし、指が動かない下位型や全型では、機能再建手術をしても、大きな効果は望めません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腕神経叢麻痺」の意味・わかりやすい解説

腕神経叢麻痺
わんしんけいそうまひ

腕神経叢」のページをご覧ください。

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