自由からの逃走(読み)じゆうからのとうそう(その他表記)Escape from Freedom

日本大百科全書(ニッポニカ) 「自由からの逃走」の意味・わかりやすい解説

自由からの逃走
じゆうからのとうそう
Escape from Freedom

ドイツ生まれのユダヤ人、社会学者・精神分析学者E・フロムが亡命地アメリカで書いた代表作。1941年刊。ナチズム台頭の因を社会、経済的側面からだけではなく社会心理学的側面から分析する必要を論じて注目された。人間やある社会階層が政治、経済的危機状況に置かれたときにおこる「権威主義的性格」をマゾサド的側面から解明ファシズム運動を、一方ではヒトラー権威に従いその犠牲になることに喜びを感じ、他方では自分より劣った者たとえばユダヤ人を蔑視(べっし)・虐待し、欲求不満劣等感を解消しようとした心理や行動の現れとして描いている。個性の喪失画一化が進行している現代社会に対しても示唆に富む。

田中 浩]

『日高六郎訳『自由からの逃走』(1951・東京創元社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自由からの逃走」の意味・わかりやすい解説

自由からの逃走
じゆうからのとうそう
Escape from Freedom

新フロイト派の精神分析学者 E.フロム主著。 1941年刊。本書主題は「近代社会は,前近代的な社会の絆から個人を解放して一応の安定を与えたが,同時に個人的自我の実現,すなわち個人の知的,感情的,また感覚的な諸能力の表現という積極的な意味における自由は,まだ獲得できず,かえって不安をつくり上げた」ということである。本書の特筆さるべきは,第1に歴史の原動力として社会経済的条件ならびにイデオロギーと並んで,心理的な社会的性格の概念を新しく提出したこと,第2にサド=マゾヒズムとして説明される権威主義的パーソナリティの概念を使用して,ファシズムの温床たるドイツ下層中産階級に潜在する自由と平等を否定する性格構造を指摘したことである。

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世界大百科事典(旧版)内の自由からの逃走の言及

【権威主義】より

…クレデンダとは,ミランダに比して知性に訴える点に相違があり,権力が尊厳,服従,犠牲などの対象となり,神による授権,卓越した指導力の表現,なんらかの合意形成手段による多数意見に依拠するとの理由から,正統性が独占される状況である。またE.フロムはドイツの中産階級の社会的性格の研究をとおして,近代社会で生みだされた〈自由〉は消極的な〈……からの自由〉であって,積極的な〈……への自由〉ではないと説く(《自由からの逃走Escape from Freedom》1941)。近代的自由の一面には個人の孤独化と無力化があり,そこから逃避することによって,権威主義,破壊性,機械的画一性などの心的作用が現れるとする。…

※「自由からの逃走」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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