権威主義的性格(読み)けんいしゅぎてきせいかく(その他表記)authoritarian personality

最新 心理学事典 「権威主義的性格」の解説

けんいしゅぎてきせいかく
権威主義的性格
authoritarian personality

権威主義authoritarianismとは,上からの命令や指示を,善悪正邪の判断よりつねに優先させる考え方を指す。また,そのような認知傾向の強い性格を権威主義的性格とよぶ。権威主義が注目された大きなきっかけは,第2次世界大戦での枢軸国政治風土である。ドイツ,イタリア,日本は,いずれも全体主義国家であり,個人の幸福や思想よりも,国家の全体的利益が優先された。とくにドイツでは,ヒトラーHitler,A.のもとで,ホロコーストが実行され,戦争前のヨーロッパに約900万人いたユダヤ人のうち600万人が12年間で殺戮された。ホロコーストに携わったのは,ドイツ軍だけでなく,ドイツ国鉄職員や一般社会人が急速に反ユダヤ的な態度となり,社会全体がホロコーストを助長する方向に暴走していった。ユダヤ人殺害は,事務作業の一つとでもいうべき過程で粛々と行なわれ,戦争末期には,彼らの死体から回収した金歯などの金属頭髪が,兵器や毛布ロープ軍服の素材として用いられる経済システムが確立していた。

 戦争終結後,倫理と命令が拮抗する状況で人間はかくも容易に命令に服従するものかという問題関心からの社会心理学研究が,主としてアメリカの学界で進められた。その研究は,アッシュAsch,S.やミルグラムMilgram,S.などによる同調と服従の研究群と,アドルノAdorno,T.L.を中心とする研究者らによる権威主義的性格の研究群に結実した。

 アドルノらの権威主義的性格研究では,権威主義的性格の下位概念として,ファシズム的性格,教条主義的性格,因習主義的性格,反ユダヤ主義的性格,自民族中心主義的性格,形式主義的性格を導出し,権威主義的性格はそれらを統合する性格概念だと考えられた。当初,これら下位概念の中でもファシズムが権威主義的性格概念の中核であると考えられたが,その後,左翼的国家や左翼的団体に権威主義が存在することがしばしば顕著であることが確認されるなどしたために,現在では,教条主義的性格が中核概念であるとの理論修正が広く受け入れられるようになった。

 権威主義の研究は,前述のように戦争という具体的な事件を契機として行なわれたものであるが,現代社会でも形を変えて存在しつづけていると考えることができる。男尊女卑的な保守的な性役割観,会社組織における過度の上意下達傾向,社会の問題をマスコミや官僚など単一の問題につねに結びつけて論じる考え方などは,形を変えた権威主義と考えられる面が強い。

 性格の権威主義的傾向と,より低次の認知傾向との関連を調べた研究では,権威主義的性格が「場への依存性」が高い,認知の曖昧さへの耐性が低い,認知的複雑性が低い,などの研究結果が報告されている。そのような観点から,権威主義的傾向は,曖昧さの認知能力の欠如の結果,特定の教条やカリスマ的人物に価値判断を依存する傾向であると考えられている。ただし,これらの低次の個人差測定の技術的な評価が多義的である分,この見解を受け入れにくいとする立場もまた表明されている。 →同調 →服従
〔岡本 浩一〕

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