日本大百科全書(ニッポニカ) 「自留地」の意味・わかりやすい解説
自留地
じりゅうち
社会主義諸国での農業の公的担い手は国営および協同組合型の集団農場で(ただしポーランドと旧ユーゴスラビアとを除く)、土地、農用機械類、畜舎などは、国有ないし集団有の形で社会化されてきた。しかし、集団化の過程での農民の抵抗への譲歩として、またさらに集団農作業の報酬を補う源として、個人副業経営が認められてきた。この後の点は「農家労働力再生産の二重の源泉」といわれるもので、蓄積期の社会主義国家が集団農場からの価値の汲(く)み移しを必要として所得分配分が著しく低いままで推移したため、個々の農家が自家消費分を中心に副業に依存したことをさしている。個人副業の経営規模は国により地域により異なるが、一般には全耕地面積の5~10%を許しており、1戸当りでは0.5ヘクタール前後を上限とし、牛1頭などと家畜は頭数で規制されている。集団農場が公的存在とすれば、個人副業は私的存在である。
自留地とは、この個人副業経営のうち、とくに耕種部門が展開される耕地をさし、ジャガイモ、野菜、果樹、花などが栽培される。多くの場合、それは農家の屋敷内付属地(庭、裏庭)であるが、このほかに、公的圃場(ほじょう)の一部を個人副業用画地として家族単位で分割使用することがある(農家の集合住宅化が進んでいく場合もこうした画地は活用される)。この両者を組み合わせた自留地の総面積と家族規模との均等な対応は重視されるので、数年おきに家族数の変動に応じて、画地の割り替えを行うケースも多かった。中国、ハンガリーなどでも自留地農業は一時盛んで、一般に集団農場より土地生産性は著しく高かった。労働主体は集団農場の正規のメンバーが空き時間で耕すほか、年金生活の老人、未成年者などが主である。耕種作物は季節的ピークが集団農場のそれと重なることが多く、社会化圃場での作業との緊張関係がしばしば発生する。が、他面、集団農場から大機械、飼料の提供を受けるという面もあり、相互補完的でもある。
[中山弘正]
『中山弘正・上垣彰・栖原学・辻義昌著『現代ロシア経済論』(2001・岩波書店)』