若い芸術家の肖像(読み)わかいげいじゅつかのしょうぞう(英語表記)A Portrait of the Artist as a Young Man

日本大百科全書(ニッポニカ) 「若い芸術家の肖像」の意味・わかりやすい解説

若い芸術家の肖像
わかいげいじゅつかのしょうぞう
A Portrait of the Artist as a Young Man

イギリス小説家ジェームズ・ジョイスの処女長編小説。1916年刊。主人公スティーブン・ディーダラスのカトリック教会との決別と、芸術家としての天職発見とを主題とする自伝的なもの。これより前にも自伝的小説の試みがあり、一時着手して破棄した。その残りを編集したのが『スティーブン・ヒーロー』(1944)として出版されている。幼年時代の不分明な意識をおとぎ話文体童謡で始め、しだいに意識が成長してゆく過程を文体の変化としてとらえている。いわば、内面化された文体を創始したことで大きな意味をもっている。最後の芸術の神への語りかけは、アイルランド民族(レース)をそのまま人類(レース)に直結させようとする、果敢な彼自身の思いを歌い上げており、『ユリシーズ』への若々しい序章として読むこともできる。

[出淵 博]

『海老池俊治訳『若き芸術家の肖像』(『世界文学大系57』所収・1960・筑摩書房)』『丸谷才一訳『若い芸術家の肖像』(新潮文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「若い芸術家の肖像」の意味・わかりやすい解説

若い芸術家の肖像
わかいげいじゅつかのしょうぞう
A Portrait of the Artist as a Young Man

アイルランドの小説家 J.ジョイスの小説。 1916年刊。主人公スティーブン・ディーダラスの幼年時代から,カトリック信仰を捨て,芸術家となる決心を固めてダブリンを去るまでの,青春期を物語る。作者自身の自伝的作品であるが,断片的記憶とそれに伴う感情を忠実に復元して伝達しようとする文体は,きわめて複雑であり,続く大作ユリシーズ』の先駆をなしている。

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