内科学 第10版 「若年性特発性関節炎」の解説
若年性特発性関節炎(小児のリウマチ性疾患)
16歳未満の小児期に発症する原因不明の慢性関節炎を若年性特発性関節炎とよぶ.1つの疾患名ではなく,小児期の慢性関節炎を呈するいくつかの疾患を含む名称である.小児リウマチ性疾患の中では最も頻度が高く,持続する関節炎の結果,関節痛と運動制限に常に悩まされ,やがて関節拘縮をきたして著しい生活障害に至り,また成長が阻害される多くの疾患が含まれる. 国際的には7つの病型に分類される.全身型(2週間以上続く弛張熱,サーモンピンク色の皮疹,慢性関節炎が3徴),関節型(6カ月以内の炎症関節数で病型を分類.少関節型:4関節以下の関節炎,持続型と進展型とがある.多関節型:5関節以上に関節炎を生じ,リウマトイド因子陽性型と陰性型とがある),乾癬関連関節炎,付着部関連関節炎,分類不能型である(表10-19-1).
発症頻度は小児人口10万人対10~20人で,男女比は全身型がほぼ1:1,関節型が1:4である.合併症は,全身型ではマクロファージ活性化症候群により予後不良となり,少関節型では女児で抗核抗体陽性例に虹彩毛様体炎(前部ブドウ膜炎)をきたすことがある.
臨床症状・診断
1)全身型若年性特発性関節炎:
全身型は全身の炎症症状の1つに関節炎がある.弛張熱に始まり,発熱時に体幹部,鼠径部,腋窩部などにサーモンピンク色の皮疹が出現し,解熱とともに消退する.関節炎はほぼ3カ月以内に出現するが,関節炎のない例では診断が困難である.しばしば胸膜炎,肝脾腫,全身のリンパ節腫脹などを呈する.基本的には除外診断で,感染症,小児白血病・腫瘍性疾患,ほかのリウマチ性疾患(大動脈炎症候群,早期炎症性腸疾患など)を鑑別する.血液検査では白血球数(成熟好中球)は著増し,CRP,赤沈値などの炎症マーカーは高値で,抗核抗体やリウマトイド因子は陰性である.疾患特異マーカーにはヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase)-1,血清フェリチン値の上昇などがある.なお,フェリチン値の上昇はほかの検査値と合わせて検討すべきで,多くの場合マクロファージ活性化症候群への移行を示しており,緊急の対応を要する.
2)マクロファージ活性化症候群:
身型から経過中に約7%の例がマクロファージ活性化症候群へ移行する.約3日の経過で予後不良となる.臨床症状には現れにくく,ベッドサイドにおける検査値の著しい変化として出現する.この際には,①血小板数減少,白血球数減少,②CRPなどの急性相反応蛋白の正常化,③フィブリン分解産物(FDP/D-ダイマー)の上昇,④血清フェリチン高値,尿β2-ミクログロブリン高値,⑤AST/LDH高値,⑥総コレステロール低下,トリグリセリド上昇,⑦クレアチニン,ALT,アミラーゼなどの検査値が,この順序で速やかに変化する.原因は炎症性サイトカイン(IL-6,IL-1β,TNF-α,INF-γなど)の過剰症であり,血管内皮細胞の活性化と破綻,凝固線溶系変化の進展により播種性血管内凝固症候群から多臓器不全に至る.
3)関節型若年性特発性関節炎
関節型は,当初は数日以上持続する関節痛・関節腫脹で気づかれることが多い.炎症関節は腫脹,皮膚の発赤,熱感,疼痛,可動域制限があり,他覚的に圧痛,関節の屈曲・伸展により疼痛を訴える.低年齢児では関節の屈曲・伸展で,疼痛のため四肢を引く,逃げるなどの所見から疼痛を判断する.小児例は医師の側の認識不足から「成長痛」で済まされ,診断が遅れることも少なくない. 診断は全身約75カ所(四肢,顎関節,頸椎関節)の関節診察から始まる.VASスケールにより疼痛の度合いを判断する.血液検査ではリウマトイド因子,抗核抗体,抗CCP抗体の結果から病型分類し,CRP,赤沈値,MMP-3値から炎症活動性を判断する.画像検査では最近急速に関節エコー検査が普及し,炎症関節では関節液貯留,滑膜増生,血流増加を基本的項目として評価する.
治療
1)全身型若年性特発性関節炎:
治療の基本はステロイド(プレドニゾロン)である.ステロイドは抗炎症薬の代表的薬剤である.免疫抑制効果は大量に用いないと発揮されないので小児科領域では期待されていない.全身炎症が激しい場合にはメチルプレドニゾロン・パルス療法2クールを行い,後療法としてプレドニゾロンの内服を維持・漸減する.漸減はごく微量ずつ時間をかけて行う.漸減中に再燃する例や漸減が進まない例ではトシリズマブに移行する.
2)マクロファージ活性化症候群:
マクロファージの異常活性化を抑制するためにステロイド投与を行う.リポ化ステロイドが有用で,メチルプレドニゾロン・パルス療法も選択枝の1つである.凝固線溶系の活性化はFDP-E/D-ダイマーで監視し,ヘパリンによる抗凝固治療を行うことが肝要である.尿中β2-ミクログロブリン値は血中IFN-γの,またフェリチン値は血中TNF-αのマーカー蛋白である.TNF-αによるミトコンドリア透過性転換による全身細胞のアポトーシス/ネクローシス(apoptosis/necrosis)が進展し,AST/LDHが上昇しはじめたならばシクロスポリンの持続静注(1 mg/kg)を開始する.凝固線溶系の破綻,AST/LDH上昇が高度に進展した例では,サイトカインの除去を目的として3日間にわたる血漿交換療法を実施する.
3)少関節型若年性特発性関節炎:
非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)とCOX-2特異的阻害薬が第一選択薬である.欧米ではステロイド関節内注射も用いられるが,わが国では一般的でない.しかし,少関節型は必ずしも個々の関節炎が軽度であるとは限らず,多関節型に準じた治療を要する例もある.虹彩毛様体炎に対してはステロイド点眼とトロピカミドフェニレフリン塩酸塩点眼に加え,リポ化ステロイドの定期的静注が奏効する.しかし,経過は長期にわたる.
4)多関節型若年性特発性関節炎:
診断の確定とともにメトトレキサート(10 mg/m2/週)+少量プレドニゾロンを開始する.3カ月程度の治療で約70%の例で関節炎は消退し検査値の正常化を認める.しかし,30%の例では不十分あるいは再燃を起こし,生物学的製剤の適応となる.TNF-α阻害薬としてエタネルセプト,アダリムマブがメトトレキサートとともに用いられる.また,IL-6阻害薬としてトシリズマブは単独で用いられる(表10-19-1).[横田俊平]
■文献
Kahn P: Juvenile idiopathic arthritis: an update on pharmacotherapy. Bull NYU Hosp Joint Dis, 69: 264-276, 2011.
Yokota S, Imagawa T, et al: Efficacy and safety of tocilizumab in patients with systemic-onset juvenile idiopathic arthritis: a randomized, double-blind, placebo-controlled, withdrawal phase III trial. Lancet, 371: 998-1006, 2008.
Engel ME, Stander R, et al: Genetic susceptibility to acute rheumatic fever: a systemic review and meta-analysis of twin studies. PLoS ONE, 6: 1-6, 2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報