蛸・章魚・鮹(読み)たこ

精選版 日本国語大辞典 「蛸・章魚・鮹」の意味・読み・例文・類語

たこ【蛸・章魚・鮹】

[1] 〘名〙
① 頭足類八腕形目に属する軟体動物の総称。体は、胴・頭・腕(足)からなる。胴は一般に頭とみられている部分で、丸い袋状をなし外套膜でおおわれる。腕は八本で、頭部から生えており、いぼ状の吸盤を備える。頭は胴と腕の間にあって、一対の目と漏斗(ろうと)をもつ。イカと同様、墨袋から「すみ」をはき出して外敵の目をくらます。体色はふつう褐色を帯びるが、色素胞の収縮によって体色を変えることができる。マダコイイダコ・ミズダコ・テナガダコ・フネダコなど日本近海に約五〇種知られ、日本では水産上重要で、蛸壺などで漁獲し、酢だこ・煮物などにする。イタリア人以外、欧米では悪魔の魚といって食用にしない。古来、大ダコの伝説など説話や俗信が多い。《季・夏》 〔十巻本和名抄(934頃)〕
※浮世草子・世間胸算用(1692)四「表にひし垣したる内より鮹(タコ)二盃(はい)うって出る時」
② (頭髪が剃(そ)りあげられて①のようであるところから) 坊主をさげすんでいう語。
※雑俳・末摘花(1776‐1801)初「いろは茶屋たこがとれねばしけの内」
③ 女陰の特殊なものをいう。たこつぼ。
※雑俳・末摘花(1776‐1801)三「いもづらも蛸のくゎほうに生れつき」
④ オーバーコートやレインコートに付けて頭にかぶるフード。
※東倶知安行(1930)〈小林多喜二〉「子供の着るようなタコのついたマントを着ていた」
⑥ 蛸部屋(たこべや)のこと。また、それによって働かされる人。
※蟹工船(1929)〈小林多喜二〉一「鉄道敷設の土工部屋へ『蛸』に売られたことのあるものや」
⑦ 杭を打ったり、土や割栗石を突き固めたりするのに用いる胴突。直径三〇~四〇センチメートルのカシまたはケヤキ円筒に二~四本の把手(とって)をつけ、先端に金輪をはめたもの。
※雑俳・柳多留‐一六六(1838‐40)「たこの気遣りに打込んで抜けぬ杭」
[2] 狂言。各流。舞狂言。旅僧が海岸で休んでいると、蛸の精と名のる者が現われ回向(えこう)を頼んで消える。僧が土地の人から大蛸の祟(たた)りの話を聞いて回向していると、蛸の亡霊が昔の姿で現われて、最期の時のさまを語り成仏できることを喜んで消える。

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