蟹山伏(読み)カニヤマブシ

デジタル大辞泉 「蟹山伏」の意味・読み・例文・類語

かにやまぶし【蟹山伏】

狂言強力ごうりきを従えた山伏カニの精に会い、耳を挟まれた強力を助けようと懸命に祈るが、かえって山伏まで耳を挟まれる。

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精選版 日本国語大辞典 「蟹山伏」の意味・読み・例文・類語

かにやまぶし【蟹山伏】

  1. [ 1 ] 狂言。各流。強力(ごうりき)を引き連れた山伏が山中で蟹の精に出会い、強力が耳をはさまれたので、山伏はわが行力(ぎょうりき)を見せてやろうと自慢して祈ったが効果はなく、かえって自分も蟹に耳をはさまれ突き倒される。
  2. [ 2 ] 〘 名詞 〙 山伏をあざけっていう語。

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改訂新版 世界大百科事典 「蟹山伏」の意味・わかりやすい解説

蟹山伏 (かにやまぶし)

狂言の曲名。山伏狂言。修行を終えた山伏が強力(ごうりき)をしたがえて帰国の途中,蟹の精が飛び出してきたのに出会う。強力が金剛杖で打ちかかると,かえってはさみで耳をはさまれてしまう。山伏が行法で離してやろうとさまざまに祈るが,蟹の精は反対に強力の耳を強く締めつけ,ついには山伏の耳まではさんでしまう。蟹の精はころあいを見はからって2人を突き倒して逃げ去り,あとを山伏主従が追い込む。登場人物は山伏,強力,蟹の精の3人で,山伏がシテ大蔵,和泉両流にある。荒唐無稽な筋立てのうちに,行力自慢の山伏の無力さを風刺した主題は,多くの山伏狂言に共通している。黒頭(くろがしら)に賢徳(けんとく)の面をつけ,両手の親指人差指ではさみの形を示し,足を踏みとどろかせながら横跳びに出る蟹の精の演技と扮装がユーモラスで,童話的な狂言である。なお《天正狂言本》にも《蟹化物》の名で見えるが,蟹の精に出会うのは旅人2人で,山伏狂言ではない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蟹山伏」の意味・わかりやすい解説

蟹山伏
かにやまぶし

狂言の曲名。山伏狂言。大峰山(おおみねさん)、葛城(かつらぎ)山での修行を終えた山伏(シテ)が、供の強力(ごうりき)を連れて自慢たらたら鼻高々の帰路、異形(いぎょう)の者に出会う。おそるおそる尋ねると「二眼天にあり、一向地に着かず、大足二足小足八足、右行左行(うぎょうさぎょう)して遊び者の精にてあるぞとよ」と答えるので、蟹の精(賢徳(けんとく)の面を使用)だとわかる。強力が金剛杖(こんごうづえ)で襲いかかるが、たちまち耳を挟まれる。それを助けようと山伏が懸命に呪文(じゅもん)を唱え祈るが、かえって逆効果。ついには山伏まで耳を挟まれ、蟹の精は悲鳴をあげる2人を突き倒して入る。蟹の精が現れて謎(なぞ)かけをする話は各地の民話に残されており、それに材をとりながら、山伏狂言共通の法力自慢をぎゃふんといわせる話にまとめた作品。

[油谷光雄]

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