改訂新版 世界大百科事典 「血管拡張薬」の意味・わかりやすい解説
血管拡張薬 (けっかんかくちょうやく)
vasodilator
血管拡張剤ともいう。血管を拡張させる薬物。血管壁に対する直接作用により血管拡張を起こすものと,交感神経系の血管に対する支配を遮断して血管拡張をもたらすものに大別される。臨床的には,特定器官での血管拡張を目的として,たとえば冠血管の拡張作用による狭心症,心筋梗塞(こうそく)の治療や脳血管,筋肉内血管の血行障害改善などに使う場合と,末梢血管抵抗の減少による血圧降下作用を高血圧症の治療に使う場合とがある。代表的な薬物には次のようなものがある。(1)ニトログリセリン,硝酸イソリルビッド,亜硝酸アミルなど,硝酸ないし亜硝酸化合物は,血管平滑筋に直接作用して血管拡張,血流増加を促し,また心筋の酸素消費量を減らすので,古くから冠血管拡張薬として使われている。(2)血管平滑筋や心筋の収縮に必要なカルシウムイオンが細胞外から細胞内へ流入するのを抑える薬物として一群のカルシウム拮抗薬がある。これらも冠血管拡張薬ないし血圧降下薬として使われる。(3)ヒドララジン,ニトロプルシドナトリウムなども直接血管に作用して拡張させる薬物で,主として血圧降下薬として使われる。(4)レセルピン,グアネチジン,α-遮断薬,β-興奮薬など交感神経支配に影響を及ぼして血管拡張を起こすものは,血圧降下薬として,また末梢血管の痙攣(けいれん)に由来する障害の治療薬として利用される。
執筆者:粕谷 豊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報