ニトログリセリン(読み)にとろぐりせりん(英語表記)nitroglycerine

翻訳|nitroglycerine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニトログリセリン」の意味・わかりやすい解説

ニトログリセリン
にとろぐりせりん
nitroglycerine

グリセリン硝酸エステル。NGと略記される。1846年イタリアのソブレロによって初めて合成された。ソブレロ自身は、ニトログリセリンの爆発性があまりに激しいので使い物にならないと考えた。しかし、この強力な爆発威力に注目した人々によって鉱山で発破(はっぱ)用に使われていたが、たいへん敏感な液体で、岩の割れ目に流れ込んだりして予期しない爆発事故をおこした。また、凝固点が低いので冬には凍結し、それを溶かすときにも爆発事故をおこした。

 ニトログリセリンは、それまで使われてきた黒色火薬の7倍の爆破威力があったが、黒色火薬と違って、導火線で点火したのでは燃えるだけで確実に爆発させることはできなかった。スウェーデンノーベルは、ニトログリセリンを確実に爆発させるために雷管を発明(1864)して、ニトログリセリンおよびそれに続くダイナマイトの爆破薬としての用途を確立した。

 ニトログリセリンはそのもの単独では危険すぎたので、ノーベルはそれを安全にして使える珪藻土(けいそうど)ダイナマイトおよびゼラチンダイナマイトを発明して、ニトログリセリンの爆薬原料としての用途を確立した。また、ニトログリセリンを窒素量12%前後のニトロセルロースと混ぜて高性能のダブルベース無煙火薬バリスタイト)を発明した。このように、ニトログリセリンを実用化するためにノーベルの果たした役割は大きい。

吉田忠雄・伊達新吾]

性質

ニトログリセリンは無色透明の液体で甘味をもつ。水に難溶であるが有機溶媒に溶ける。窒素量12%前後のニトロセルロースを混合して膠化(こうか)し、ニトログリセリンの打撃や摩擦に対する感度を低下させて用いる。水酸化ナトリウム(カ性ソーダ)のアルコール溶液で分解し非爆発性となる。開放状態では少量のニトログリセリンは点火しただけでは爆発しないで燃えるだけである。密閉したり、大量であると爆発に移行する。ニトログリセリンの1滴を200℃付近の鉄板上に落とすと爆発するが、400℃付近では燃えるだけである。爆速は毎秒7500~8000メートルの高速爆速と、1500~2000メートルの低速爆速がある。

 現在ダイナマイト原料のニトログリセリンとしては、ニトログリコールとの混合物が用いられている。ニトログリコールはニトログリセリンの不凍剤として用いられるようになったが、膠化促進剤としての役割も認められている。しかし、蒸気圧が高くて毒性も強く、過去にダイナマイト製造工場ではニトログリコール中毒事故をおこしたことがあった。そのため、日本では、ニトログリセリンとニトログリコールの混合液中のニトログリコール混合割合は最大38%に抑えられている。なお、ニトログリコールを取り扱う工程では、十分に換気を行い、また、皮膚接触を避ける方策が講じられている。

[吉田忠雄・伊達新吾]

医薬用

狭心症の発作の予防に古くから用いられている。希釈された場合には爆発力はない。舌下錠として口腔(こうくう)粘膜から吸収させて適用する。刺すような味を呈する。本剤は揮発性で、綿花、塩化ビニルなどのプラスチックに吸着されると効果が低下するので、保管にはガラス容器を用い、密栓する。最近では軟膏(なんこう)、プラスター(貼付(ちょうふ)薬)ができ、塗布または貼付して狭心症の予防に用いられる。さらに注射液として血圧降下の目的で点滴静脈注射で用いられる。

[幸保文治]

『山川並雄著『産業火薬』(1982・日本産業火薬会)』『火薬学会編、田村昌三監修『エネルギー物質ハンドブック』第2版(2010・共立出版)』『日本火薬工業会資料編集部編『火薬学』初版(2012・日本火薬工業会)』


ニトログリセリン(データノート)
にとろぐりせりんでーたのーと

ニトログリセリン
  CH2ONO2
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  CHONO2
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  CH2ONO2

 分子式  C3H5N3O9
 分子量  227.1
 融点   13.2℃(爆発性)
 沸点   245±5℃
 比重   1.596(測定温度15℃)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニトログリセリン」の意味・わかりやすい解説

ニトログリセリン
nitroglycerin; glycerine trinitrate

三硝酸グリセリン (グリセリンの三硝酸エステル) 。無色油状液。比重 1.596 (15℃) 。結晶に安定形 (融点 13.2~13.5℃) と不安定形 (融点 1.9~2.2℃) がある。工業製品は8℃付近で凍結,14℃付近で融解する。爆速には,7500~8000 m/s の高爆速域と,起爆源が弱いかまたは薬径が小さい場合に見られる 1500~2000 m/s の低爆速域とがある。衝撃や摩擦により爆発しやすい。ダイナマイトや無煙火薬の基剤として使われる。また医薬には,おもに冠血管拡張剤として使われる。口腔粘膜からの吸収がよく,速効性なので,舌下錠として用いられるが,作用時間が短いため,近年テープにしみこませて皮膚から吸収させることも試みられている。平滑筋に直接作用し,末梢血管を拡張し,血流量を増大させる。動・静脈ともに細い血管よりも太い血管に作用し,特に冠循環の太い血管や側副血行路に持続的な拡張作用を示すので,冠不全の治療に使用される。副作用としては,大量の亜硝酸イオンがメトヘモグロビンを形成し,チアノーゼをきたすが,これはシアン中毒の解毒に応用されている。そのほか,血管拡張による頭痛,吐き気,嘔吐,眼内圧や髄液圧の上昇,血圧下降などがある。

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