血管細胞の機能

内科学 第10版 「血管細胞の機能」の解説

血管細胞の機能(心血管代謝と機能)

 血管の構造は,図5-2-17にシェーマ化したように,内側(血液の接する側)から順に,内皮細胞,基底膜,血管平滑筋細胞,外膜(筋性線維芽細胞myofibroblast)によって構成されている.ここではこれらの細胞の機能を,特に凝固線溶系,血小板系などの凝血系の制御,血管の収縮と弛緩(いわゆる血管トーヌス)の制御の面から述べる.
(1)血管の細胞構築とその機能
 図5-2-17のうち,内皮細胞は血管の最内層を覆っている1層の扁平な細胞である.この内皮細胞は臓器によって,あるいは動脈か,静脈か,さらには大血管か,微小循環系の毛細血管か,などによっても機能や形態に相当の違いがある.たとえば,脳の血管の場合には内皮細胞と内皮細胞の間のタイトジャンクション(閉鎖帯)が密で,神経細胞を傷害する物質の脳実質内への流入を防いでいる.いわゆる脳血管関門(blood-brain barrier:BBB)である(BBBはこのほかに脳血管の内皮細胞の生化学的特徴,たとえば内皮細胞によるP-glycoprotein(P-糖蛋白)の発現などをも含む概念である).一方,膵臓副腎などの内分泌器官の血管内皮細胞は細胞と細胞の間隙がルーズで,産生されたホルモンなどが血管内へ通過しやすいようになっている. また血管平滑筋細胞も臓器や動静脈の違い,サイズの違いによって構造や機能に違いがある.動脈は血管平滑筋細胞が静脈に比べ発達しており,また網膜などの毛細血管には平滑筋細胞がなく,かわりに周細胞pericyte)がその役割を果たしている.本項では,これらの血管壁細胞のうち,普遍的な機能について述べる.
 まず血管壁細胞のうち,最も重要なものは,血管内皮細胞である.内皮細胞は,長らく単なる血液のバリアの役目としてしか評価されてこなかったが,近年になり表5-2-2に示すような多彩な機能があることが判明してきた.すなわち血管内皮細胞は始終血液と接し,血液側の情報をキャッチしつつ,血管トーヌス,凝血系(凝固線溶系と血小板系),炎症(免疫),血管新生などの生体の重要なシステムを制御する多機能性の細胞であることが判明してきた.
(2)血管壁細胞による凝血系のコントロール
 血管壁細胞の機能のうち,最も重要な機能の1つは,凝血系(凝固線溶系と血小板系)の制御である.一言でいうと,血管壁細胞,特に内皮細胞は,抗血栓活性を発揮して,血管内で血液が凝固しないように作動している(図5-2-18A).すなわち血管内皮細胞と平滑筋細胞は,PGI2プロスタサイクリン)を,また内皮細胞は一酸化窒素(NO)を産生放出して,血小板の機能を抑制している.また血管内皮細胞は,トロンボモジュリン(TM)を発現して,凝固酵素トロンビンを抗凝固酵素へと変換している.すなわちトロンビンは内皮細胞上のTMと結合すると,血小板活性化能やフィブリン形成能,凝固因子第Ⅴ,Ⅷ因子活性化能が消失し,逆にプロテインC活性化能が1000倍以上も増強される.活性化プロテインC(APC)は活性化凝固第Ⅴa,Ⅷa因子を分解して,凝固カスケードにネガティブフィードバックをかける一方,APC受容体(EPCR)を介して,炎症性サイトカインの産生抑制など抗炎症にも作用する(図5-2-18B).また内皮細胞はヘパリン様分子を合成し,これにアンチトロンビンが結合しているので,即時的にトロンビンを阻害しうるようになっている.さらに内皮細胞は血液凝固外因系の阻害因子(tissue factor pathway inhibitor:TFPI)を産生し,その一部が内皮細胞のヘパリン様分子に結合して,組織因子,第Ⅹa,Ⅶa因子を阻害する.一方,内皮細胞は,プラスミノーゲン活性化因子であるplasminogen activator(tissue plasminogen activator:t-PAとウロキナーゼ)を産生放出して,線溶系を賦活化している.このように血管内皮細胞は血小板系/凝固系を抑制し,線溶を賦活して抗血栓性に働いている細胞である. 内皮細胞が傷害されて,このような機能が低下すると,凝血系は一気に活性化されて血栓が形成される. 一方,内皮細胞より下の細胞は,すべて血液外因系の開始因子である組織因子(tissue factor)を発現しており,万一血管が破綻すると,直ちに止血しうる仕組みができあがっている.
(3)血管壁細胞による血管トーヌスの制御
 血管内皮細胞は図5-2-19,表5-2-2に示したように,種々の血管弛緩性に作用する因子を産生,放出する.PGI2は血管平滑筋細胞のサイクリックAMPを介し,NOはサイクリックGMPを介して,それぞれ血管弛緩性に働いている.内皮由来過分極因子(endothelium-derived hyperpolarizing factor:EDHF)は血管平滑筋細胞を過分極させて血管を弛緩させる(本態に関しては論争があるが,現在のところ複数の因子があるといわれている).Na利尿ペプチドファミリーには主として心房で合成される心房性Na利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide:ANP)や,主として心室で合成される脳性Na利尿ペプチド(brain natriuretic peptide:BNP),そして主として内皮細胞で合成されるC型Na利尿ペプチド(C-type natriuretic peptide:CNP)があるが,いずれも,サイクリックGMPを介して,血管拡張性に作用する.
 NOは,アルギニンから,NO合成酵素(NO synthase:NOS)によって合成されるが,NOSには神経細胞型(n-NOS),サイトカイン,エンドトキシンなどによって誘導される型(inducible NOS)などがあるが,血管内皮細胞の場合にはendothelial NOS(e-NOS)である.e-NOSの発現はVEGF(vascular endothelial growth factor)やヒスタミン,ずり応力で増強される.
 一方,内皮細胞はエンドセリンを産生放出して,血管平滑筋細胞に作用し,血管を収縮させる(図5-2-19).血管周囲の結合組織型マスト細胞は,キマーゼを産生するが,この酵素はアンジオテンシンⅠをⅡに変換させ,血管収縮性に作用する.
(4)血管内皮細胞による炎症・免疫の制御
 血管内皮細胞は表5-2-2のような種々の分子を産生し,また受容体を発現しており,これらは炎症に深く関係する.生理的状態では炎症性サイトカイン(IL-1,IL-6,IL-8,TNF-αなど)やMHC-Ⅱなどの発現は弱いが,エンドトキシンなどで刺激されて,内皮細胞が活性化されると,発現が強まる.これらの分子の作用によって,血管内皮に白血球が粘着し,ローリングし,血管外に遊走してゆく.[丸山征郎]
■文献
丸山征郎編:Vascular Biologyナビゲーター,メディカルレビュー社,東京,2001.
特集Vascular Biology,医学のあゆみ,191(5),1999.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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