日本大百科全書(ニッポニカ) 「トロンビン」の意味・わかりやすい解説
トロンビン
とろんびん
thrombin
血液の凝固に関係するタンパク分解酵素(プロテアーゼ)の一つ。血液凝固の本質と目される反応、すなわち血液中の可溶性のフィブリノゲンを加水分解して不溶性のフィブリンへ変化させる反応を触媒する。血漿(けっしょう)中に前駆体プロトロンビンとして存在し、血管の損傷、出血時に活性化されてトロンビンとなる。ヒトのトロンビンの分子量は3万5000である。フィブリノゲンに対する基質特異性はきわめて高く、フィブリノゲン分子の六つのサブユニットのうちの二つのα(アルファ)鎖、二つのβ(ベータ)鎖のN末端側のアルギニンとグリシンの間の4か所のペプチド結合のみを加水分解する。トロンビンはカルシウム存在下に第ⅩⅢ因子とよばれるプロトランスグルタミナーゼを活性化し、活性第ⅩⅢ因子はフィブリンのモノマー(単量体)を交差結合させて凝固させる。
[降旗千恵]
『大熊稔・池田康夫・蔵本淳・島田和幸・日高弘義・丸山征郎・山崎博男編『血小板と血管細胞のシグナル伝達』(1997・金芳堂)』