翻訳|thrombin
血液の凝固に関係するタンパク分解酵素(プロテアーゼ)の一つ。血液凝固の本質と目される反応、すなわち血液中の可溶性のフィブリノゲンを加水分解して不溶性のフィブリンへ変化させる反応を触媒する。血漿(けっしょう)中に前駆体プロトロンビンとして存在し、血管の損傷、出血時に活性化されてトロンビンとなる。ヒトのトロンビンの分子量は3万5000である。フィブリノゲンに対する基質特異性はきわめて高く、フィブリノゲン分子の六つのサブユニットのうちの二つのα(アルファ)鎖、二つのβ(ベータ)鎖のN末端側のアルギニンとグリシンの間の4か所のペプチド結合のみを加水分解する。トロンビンはカルシウム存在下に第ⅩⅢ因子とよばれるプロトランスグルタミナーゼを活性化し、活性第ⅩⅢ因子はフィブリンのモノマー(単量体)を交差結合させて凝固させる。
[降旗千恵]
『大熊稔・池田康夫・蔵本淳・島田和幸・日高弘義・丸山征郎・山崎博男編『血小板と血管細胞のシグナル伝達』(1997・金芳堂)』
EC 3.4.21.5.血液凝固に関与するエンドペプチダーゼの一種.トロンビンはフィブリノーゲン分子中のαおよびβ鎖中に存在する-Arg-Gly-結合を特異的に加水分解し,4本のフィブリノペプチドとフィブリンモノマーを生成する反応を触媒する酵素である.血漿中では不活性な前駆物質プロトロンビンとして存在し,血管破たんによる一連の反応によって生成するトロンボプラスチン(血液凝固第Ⅲ因子)の作用によって,トロンビンが生成される.ウシの血漿から得たものは分子量3.4×104 のタンパク質であるが,グルコサミン,ヘキソース,およびシアル酸など約5% の糖を含む.活性発現にヒスチジン残基,アスパラギン酸,およびセリン残基が重要であるといわれている([別用語参照]血液凝固).トロンビンはまた特異的な受容体を介して情報を細胞内部に伝え,たとえば血小板の凝集を引き起こす.この受容体は膜7回貫通型のGタンパク質共役型のもので,トロンビンにより切断され,生じたN末端があたかもアゴニストのようにはたらく,PAR(protease activated receptor)の典型例である.[CAS 9002-04-4]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 内因系の血液凝固は,XII因子,XI因子,プレカリクレインが固相に吸着されて,固相上で活性化されることによって開始される。血液凝固の作用が開始されると,ひきつづいて各因子による連鎖反応が起こり,形成された複合体にII因子(プロトロンビン)が結合して活性化され,活性化II因子(トロンビン)がフィブリノーゲンに働きフィブリンに転換する。フィブリンは自然に重合を起こし,フィブリン網を形成し,血液はゲル化する。…
…各鎖ともにアミノ酸配列はすべて決定されている。長さ約46nmの棒状分子で,タンパク質分解酵素トロンビンの作用によりα鎖とβ鎖の一部分が切断遊離され,フィブリンモノマーになる。生じたフィブリンが重合して血液の凝固をひき起こす。…
※「トロンビン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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