改訂新版 世界大百科事典 「術後腸管麻痺」の意味・わかりやすい解説
術後腸管麻痺 (じゅつごちょうかんまひ)
postoperative paresis of the intestine
開腹手術の後に腸管の運動が減弱ないしは停止する状態。とくに腹腔内臓器に直接手が加えられる手術のときに著しい。腸管麻痺の原因は,全身麻酔や腰椎麻酔に用いた薬剤の影響である場合もあるが,主として開腹時の腸への直接の手術操作が機械的刺激(腸管の牽引,圧迫,切断,縫合など)となって腸管運動に関係する腸管壁の神経組織を障害するためと考えられている。また腸管壁の乾燥や湿潤など,湿度の過度の変化も神経組織の障害の原因となる。臨床症状として腹部の膨満を訴え,ガス排出(放屁)が停止し,腹部の聴診では腸雑音の聴取が不可能となる。麻痺が治癒してくると腸雑音が現れ,排ガスが起こるようになる。したがって,開腹術後の排ガスの有無は腸管麻痺の程度の指標となる。この術後腸管麻痺は一時的なものであるが,長期にわたって持続すると,吐き気,嘔吐などの症状をともない,いわゆる麻痺性イレウスの状態となる。一般に,術後腸管麻痺の回復には24~48時間かかるが,術後の鎮痛剤の多用も回復をおくらせる一因となる。積極的に腸の蠕動(ぜんどう)の回復を行いたい場合には,腹部メントール湿布,浣腸などによる刺激や,ワゴスチグミン注射などを行う。近年では,プロスタグランジンE1も腸蠕動の亢進に効果があるといわれている。
→イレウス
執筆者:北島 政樹
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