浣腸(読み)カンチョウ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「浣腸」の意味・わかりやすい解説

浣腸
かんちょう

医学的な目的で、管を肛門(こうもん)から通して、直腸および結腸に薬液などを注入する方法。世界各地で古くから行われていたといわれるが、日本の医師が浣腸法を用いるようになったのは西洋医学が伝えられた江戸時代後期からである。現在知られている浣腸は、催下(さいげ)(排便)浣腸、駆風(くふう)浣腸、緩和浣腸、興奮浣腸、鎮静浣腸、バリウム浣腸、滋養浣腸、保留浣腸である。

(1)催下(排便)浣腸 便秘した糞便(ふんべん)の排出、食中毒の際の腸内容物の一掃と検査、手術や分娩(ぶんべん)時の直腸内の清浄を目的として行う。注入薬液には、腸の蠕動(ぜんどう)を刺激し排便を促すものと、糞便を直接軟らかくするものとがあるが、区別は厳密でなく、両作用を兼ねるものが多い。グリセリン前者の代表で、せっけん液や食塩水などは両作用を兼ねる。

(2)駆風浣腸 腸内に貯留したガスの排出を促し、腹部の膨満を緩和させる。

(3)緩和浣腸 炎症をおこし、びらんしている腸粘膜に薬液を作用させ、炎症、びらんを緩和させる。

(4)興奮浣腸 ショックまたは虚脱状態にある患者を薬液注入により興奮させる。

(5)鎮静浣腸 神経の興奮を和らげ、鎮静させるために、麻酔剤や鎮静剤を注入する。小児の心電図撮影のときなどに用いられる。

(6)バリウム浣腸 X線診断のために造影剤を注入する。

 滋養浣腸は栄養補給を目的とし、保留浣腸は水分補給が目的であるが、他の栄養補給法や輸液法が進歩した現在では、ほとんど行われなくなった。また緩和浣腸、興奮浣腸、鎮静浣腸も、近年は坐薬(ざやく)を用いることが多くなっている。

[山根信子]

催下浣腸の方法

小児の便秘は、発熱、不機嫌などいろいろな症状をおこすので、一般家庭でも応急手当を兼ねて浣腸をするのは差し支えない。あまり頑固な便秘でなければ、市販のもので十分である。小児用、大人用の1回分の使用量が使い捨ての容器に入っているので、肛門挿入部の先端にオリーブ油などを塗って滑らかにし、静かに挿入してゆっくり注入する。患者は左側を下にして寝かせ、腹筋の緊張を緩めるように口で呼吸をさせる。注入が終わったらゆっくり抜き取り、肛門部を柔らかい紙か脱脂綿で軽く押さえ、5~6分がまんさせたほうが効果があがる。浣腸器を用いる場合は、市販のグリセリンを2倍に薄め、小児では40~50cc、大人では80~100ccを、グリセリン浣腸器にカテーテルを接続して注入する。せっけん液であれば、薬用せっけんか上質のせっけんを1~2%に溶かし、泡を取り除いて用いる。小児では250~500cc、大人では500~1000ccを浣腸缶に入れ、カテーテルを接続して注入する。グリセリン液、せっけん液のいずれの場合も、体温よりやや高め(41℃)に温めて用い、カテーテルの先端にはオリーブ油などを塗るとよい。病人、あるいは、直腸、肛門部に痛みや出血などのある場合は、かならず医師の指示を受けて行う。

[山根信子]

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改訂新版 世界大百科事典 「浣腸」の意味・わかりやすい解説

浣腸 (かんちょう)
enema

便秘による症状の軽減,腸内容物の排除,腸内のガスの除去などの目的で,肛門から直腸内に薬液,または大量の水分を圧力を加えて注入することをいう。便秘による症状には,便秘の程度にもよるが,食欲不振,腹部膨満,悪心,嘔吐腹痛,頭痛,発熱,倦怠感などがある。便秘のなかには,通過障害によるイレウス,結腸の腫瘍腸壁瘢痕(はんこん)など緊急に治療を要する場合もある。浣腸は一見,簡単な方法ではあるが,状態によっては悪化させることにもなりかねないので,むやみに行ってはならない。したがって便秘を防ぎ,排便の規則正しい習慣を身につけることが肝要となるが,そのためには排便のメカニズムをよく知る必要がある。排便は,正常時は腸内容物が直腸に達すると,直腸壁に分布している骨盤神経を介して興奮が脊髄および大腸に伝えられて便意がおき,反射的に直腸の蠕動(ぜんどう),肛門括約筋の弛緩がおき体外に排出される。大腸の運動は,ふだんはあまり強くはないが,食事をとると横行結腸からS状結腸にかけて強い蠕動がおこる。これを胃・大(結)腸反射という。このときに排便を我慢すると排便刺激がなくなり,これをくり返していると,直腸の排便反射が鈍くなり,便秘をおこしやすい。水分を十分にとる,植物性繊維が多く含まれる食品をとる,適度の運動をするなど,生活のリズムをととのえることがたいせつである。また,起床時に冷たい牛乳や水分をとって蠕動を促す,食後に排便を試みる習慣をもつなども効果的である。

 浣腸には,薬液を用いるものとして,グリセリン,薬用セッケン水,生理食塩水がある。物理的な刺激によるものとして,温水,こよりなどがあげられる。一般に用いられるものを簡単に説明すると,軽い便秘または小児の場合,イチジク浣腸液(商品名。主成分グリセリン)は市販もされており,取扱い方も簡単で便利である。それでも効果のない場合にはグリセリン浣腸が行われる。グリセリンを湯で2倍に薄め,体温程度にして大人では50~60ml(子どもは半分)の量を注入する。新生児などには,安全性を留意して薬液を用いず,こよりで肛門部を刺激する方法が用いられる。薬用セッケン浣腸は高圧浣腸ともいい,軽症のイレウスなどに際して行われるが,薬液の量も多く,また高い所から注入し,圧力がかかるので,医師の指示のもとで行う必要がある。いずれの場合も,直腸内の粘膜の保護のため,温度,濃度,注入の速度に十分留意し,患者の状態を観察しつつ,緊張や不安を与えないようにして行う必要がある。
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普及版 字通 「浣腸」の読み・字形・画数・意味

【浣腸】かんちよう(くわんちやう)

腸を洗う。〔史記、鵲伝〕上古の時、に兪(ゆふ)り。を治するに湯液灑(れいさい)を以てせず。~腸胃を浣し、五を漱滌(そうでき)し、して形を易(か)ふ。

字通「浣」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「浣腸」の意味・わかりやすい解説

浣腸【かんちょう】

肛門(こうもん)から直腸および大腸に液体を注入し,腸壁を刺激して蠕動(ぜんどう)を起こさせて排便を促す,あるいは薬剤注入を目的とするする治療法。前者にはグリセリン,薬用セッケン水,食塩水などが,後者には注腸麻酔のための抱水クロラール,直腸型潰瘍(かいよう)性大腸炎に対してのステロイドなどが用いられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「浣腸」の意味・わかりやすい解説

浣腸
かんちょう
enema

肛門から直腸内に直接,液体を注入する処置。おもに腸内容の排除と薬剤の注入を目的として行うもので,グリセリン浣腸,高圧浣腸,滋養浣腸,バリウム浣腸などがある。

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