アンデルセンの童話。1837年作。原題は『皇帝の新衣裳(いしょう)』。14世紀スペインのドン・マヌエルの『ルカノール伯』中の一挿話の翻案で、おしゃれ好きの王様が旅の裁縫師のペテンにかかるという大筋もそれによっているが、二つの点で原作を改めている。一つは、ペテン師たちが織っている布は姦通(かんつう)から生まれた者には見えないというのを、自分のついている地位にふさわしいだけの才能をもたない者には見えないとしたこと、もう一つは、王様は裸だと指摘するのが、もとは馬丁だったのを、いわば「天の声」である子供の口から叫ばせたこと。これによって、ただ奇異なだけの原作が社会批判を潜めた不朽の童話の名作となった。
[山室 静]
…敬愛するアンデルセンの童話から題材を借りた場合が多いが,いずれも的確な現実認識を裏付けに,独自の作品に完成させた。鋭い政治寓意劇《裸の王様》(1934),《影》(1940),《ドラゴン》(1943)などは,今も国内だけでなくヨーロッパ諸国でたびたび上演されている。シュワルツ台本による映画では,《ドン・キホーテ》(1957,チェルカーソフ主演)が群を抜いた傑作。…
…この作品は若いルカノール伯爵が養育係のパトロニオに人生万般について教えを乞い,パトロニオがさまざまな寓話をまじえながら道徳的訓戒を与えるという形式をとった51話からなる説話集であり,その13年後に書かれたボッカッチョの《デカメロン》とともに後のヨーロッパ文学に多くの素材を提供した。例えば,シェークスピアの《じゃじゃ馬ならし》はこの説話集の第35話に基づいているし,アンデルセンの《裸の王様》の原型も第32話に見いだされる。ほかに《騎士と従士の書》や《狩猟の書》などを書いた。…
※「裸の王様」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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