大学事典 「言葉狩り」の解説
言葉狩り
ことばがり
prohibition of unofficial languages
大学との関係では,公式の教育言語使用からの学生の逸脱を防止・禁止する措置を指す。イエズス会による「学校規則Ratio Studiorum」(1599年成立,1777年まですべてのイエズス会学校を規定)には,「低学年教員の一般規律」として生徒が,「ラテン語を話すことはいつも厳しく遵守しなければならない」「母語を用いることは許されない。これを守れない生徒には罰点が与えられる」(第18項)とある。中高等教育の場に関してはこうした規則はないとはいえ,これがいわゆる「罰札」の原点と考えられる。17世紀中途のハーヴァード・カレッジ(1636年創立)の「規則と指針」は,「公開の場での英語の訓練が課される場合以外では,俗語(vernacular tongue)の使用を禁止」しており,違反者は2回の警告ののち,成人(18歳)未満の場合は「むち打ち」,成人の場合は「監督官に召還され,公開の場で処罰が決定される」とある。
1833年のフランス,ブルターニュ地方の視学官の記録では,地元の言語ブレイス語を使わせないために相互監視システムが取られており,90年代にはフランス語で「サンボル」(印)と呼ばれ,1960年代まで用いられた。同様の事例は,世界各地の少数言語地域に見られ,沖縄でも1900年前後から60年代まで「罰札」(方言札)が使用された。
1885年設立の全ドイツ言語協会(Allgemeiner Deutscher Sprachverein)は,フランス語と英語の排除に取り組み,1930年代には,ナチスの「ドイツ精神Deutschtum」と文化的純化の思想に沿って,「外国語狩りFremdwortjagt」と称し,外来語をドイツ語的単語に系統的に置き換えた。高等教育機関における言語禁止の事例としては,ロシア革命に続く1920年の教育改革で,ソ連の大学がラテン語を追放したことが挙げられる。
著者: 原 聖
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報