証券取引所の再編(読み)しょうけんとりひきじょのさいへん(その他表記)merger of stock exchanges

知恵蔵 「証券取引所の再編」の解説

証券取引所の再編

世界各地で証券取引所経営統合の動きが相次いでいる。世界最大の米ニューヨーク証券取引所(NYSE)を運営するNYSEグループと欧州の複数の証券取引所を運営する「ユーロネクスト」は2007年4月に、合併し、「NYSEユーロネクスト」に生まれ変わった。ロンドン証券取引所(LSE)とミラノ証券取引所も07年10月に経営統合し、上場企業の時価総額で東京証券取引所を上回る世界第3位の規模となった。新興企業向けの米ナスダック市場を運営するナスダック・ストック・マーケットはLSEに買収をしかけたものの、失敗。買い集めたLSE株を手放し、スウェーデン本拠を置く北欧の取引所連合「OMX」との経営統合にかじを切り替えた。こうした合従連衡の背景にあるのが取引所間の競争激化。取引所は本来、国内の企業や投資家の注文をスムーズに処理する単純なビジネス。しかし、投資資金の国際化が広がり、巨額の資金を動かす投資家を呼び込むには、大量の売買注文を短時間に素早く処理するシステムを備えているかどうかがポイントとなった。巨額のシステム開発費の負担を減らし、資金調達の方法を広げるには再編・株式会社化の流れが避けられなくなった。出遅れていた東京証券取引所も、NYSEやLSEなどと矢継ぎ早に業務提携に踏み切り、シンガポール取引所への出資も決めた。また、将来の国内外の経営統合に柔軟に対応できるよう持ち株会社制に移行。07年11月に持ち株会社の「東京証券取引所グループ」が市場運営を担う会社と、上場審査や株取引が適切かどうかを判断する自主規制法人を傘下におく体制になった。09年までの株式上場を目指している。国内でも、ジャスダック証券取引所の7割超の株を保有する日本証券業協会が、東証マザーズや大証ヘラクレスなどを含めた国内新興市場の再編を検討している。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)


証券取引所の再編

2006年6月、ニューヨーク証券取引所と欧州のユーロネクスト証券取引所が合併し、月間取引高2兆ドルを超える世界最大の証券取引所が誕生した。 国際的な証券取引所の買収や合併はこれだけではない。もともとユーロネクストそのものが、パリ、アムステルダム、ブリュッセルの各証券取引所の合併によって誕生している。決裂に終わったものの、ドイツ証券取引所との合併協議に入ったこともあった。また、米国のナスダックはロンドン証券取引所に買収案を提示し拒否されたものの、筆頭株主になっている。 このような欧米証券取引所の再編の背景には、資本市場のグローバル化と共に証券市場間の競争が激化したことが挙げられる。米国ではSOX法施行に伴う規制強化を嫌う企業間で、欧州市場への上場を検討する例も出始めた。各国の取引所は、より緩い規制、有利な条件を競っている。また、取引所は電子証券取引ネットワーク(ECN:Electronic Communications Network)との競争にもさらされるようになった。この結果、規模が大きく流動性に富む市場を目指して国境を越えた再編が実現したのである。 証券取引所が閉ざされた存在であれば、統合や合併は困難であるが、近年、世界の主な取引所は会員組織から株式会社に転換している。このため、合併や買収が極めて容易になったことも、再編が進んだ大きな理由だろう。 日本でも、東京、大阪の両取引所は株式会社化され、大阪証券取引所は株式を公開している。欧州と米国を結ぶ証券取引所が出現した以上、24時間取引体制を構築するにはアジアにも拠点が必要になる。日本の証券取引所がその一翼を担うのか、あるいは他国の拠点にその地位を奪われ、規模の大きな地域取引所にとどまるのか。次の一手が注目される。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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