誘引剤(読み)ユウインザイ(英語表記)attractant

翻訳|attractant

デジタル大辞泉 「誘引剤」の意味・読み・例文・類語

ゆういん‐ざい〔イウイン‐〕【誘引剤】

害虫を誘い寄せる薬剤。餌の匂いのする化学物質フェロモンなどを用い、また殺虫剤と組み合わせて使用する。

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精選版 日本国語大辞典 「誘引剤」の意味・読み・例文・類語

ゆういん‐ざいイウイン‥【誘引剤】

  1. 〘 名詞 〙 害虫などを誘引する物質。これを用いて害虫を誘引して殺せば害虫の防除に利用できる。食酢と砂糖をまぜて蠅を集めるとか、炭酸ガスで蚊を集めるなどのほか、フェロモンを用いるものもある。

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改訂新版 世界大百科事典 「誘引剤」の意味・わかりやすい解説

誘引剤 (ゆういんざい)
attractant

有害昆虫,動物などの好む化学物質を用いて誘引して集め,防除したり,またそれらの発生を予察したりする薬剤。多くの昆虫の雌は,尾部の腺組織から特有の化学物質を分泌し,これが雄の昆虫を誘引して生殖が行われるのが普通で,この誘引物質性フェロモンと呼ばれている。鱗翅目昆虫(チョウ,ガの類)の性フェロモンの研究が盛んで,Butenandtらによるカイコガの性フェロモン,ボンビコールの単離および構造決定((EZ)-10,12-ヘキサデカジエン-1-オール)は,この分野の先駆的研究成果である。その後,多くの鱗翅目昆虫の性フェロモンが単離・同定された。これら性フェロモンの構造的特徴は,二重結合1~3個を含む,炭素数12~20個の直鎖アルコール,それらの酢酸エステル,アルデヒド体で,少数であるが,ケトン体,メチル側鎖の分枝したもの,エポキシ体,炭化水素も知られる。性フェロモンは同種昆虫の雌雄間の性的交信に関わる物質であり,種特異的であるが,この特性は性フェロモンの構造と,複数の性フェロモンの混合化によって発現することが明らかにされている。

 性フェロモンを利用して害虫を防除しようとする試みは1970年初めから行われ,最近では実際の害虫防除に実用化されている。すなわち,農業上重要な害虫の性フェロモンを誘引剤として用いることによって,害虫をトラップに集めてその発生を予察したり(発生予察),大量の発生害虫を集めて殺滅したり(大量誘殺),また性フェロモンを大量に畑に散布して,雌雄の昆虫の正常な交信をかく乱することによって生殖を妨害し,害虫の個体数を減少させる方法(交信かく乱)などが実用に移されつつある。この場合,昆虫の性フェロモンの化学的構造を明らかにし,さらに合成によって性フェロモン剤を製造することが必要である。

 1993年,日本植物防疫協会によってまとめられたフェロモントラップ斡旋品目のうち,日本で発生予察用として供給されているものは,水稲・野菜関係のニカメイチュウ,ハスモンヨトウコナガなどを含む6害虫,茶関係のチャノコカクモンハマキなど3害虫,果樹関係のモモシンクイガ,ナシヒメシンクイガ,リンゴコクカモンハマキなど7害虫,芝そのほかの8害虫,合計24害虫(鱗翅目害虫19種,鞘翅目害虫5種)用のトラップである。ハスモンヨトウの性ホルモンは2種のアセテート混合物(リトルア)である。



 昆虫自体が生産する性フェロモン物質とは異なり,天然物質あるいは合成薬剤で昆虫を誘引する作用を有する物質も誘引剤として使用されている。例えば,古くは地中海ミバエの誘引剤としてsiglure,trans-siglureが開発され,また日本では松柏類植物の樹脂からえられる揮発性のテレビン油,ピネンはマツノマダラカミキリの誘引剤として用いられ,また安息香酸とオイゲノールの混合物(商品名ホドロン)もマツノマダラカミキリのほか,カミキリムシなどの誘引剤として開発された。メチルオイゲノールは,ミカンの重要害虫ミカンコミバエを特異的に誘引するので,これと殺虫剤を混合した製剤も開発され,小笠原群島におけるミカンコミバエの防除に大きな成果をあげた。沖縄県,奄美大島に生息するウリミバエはウリに大きな被害をひき起こすが,これを誘引する物質として,キュウルアが有効であることが明らかになり,本剤と不妊防除法との併用により,防除が進められ成功を収めている。このほか,ウリミバエはダイズ,イーストなどのタンパク質加水分解物(商品名バイオアミン,フライトラップなど)に誘引されるので,これを殺虫剤に混ぜて誘殺する方法も考案されている。


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「誘引剤」の意味・わかりやすい解説

誘引剤
ゆういんざい

害虫をおびき寄せるために使う薬剤。虫を誘引する方法は、化学物質のほか、光や色や熱など物理的方法もある。誘引した害虫は、トラップや「とりもち」(粘着剤)などの方法でとらえて害虫駆除の手段とするほか、発生予察の目的で観察する場合もある。また、誘引剤と食毒性殺虫剤を調合して毒餌(どくじ)とし、毒殺による駆除に使う場合もある。実用化されている主要なものは、コガネムシ類やミカンコミバエなどに用いるオイゲノールやメチルオイゲノール、コガネムシ類に使うゲラニオール、ウリミバエを誘引するダイズや酵母の加水分解物、ナメクジを誘引毒殺するメタアルデヒド、ゴキブリを誘引するゴキブリの糞(ふん)から抽出精製した集合フェロモンなどがある。また、発生予察や防除の試験段階として、モモシンクイガ、チャマダラメイガ、リンゴノコカクモンハマキ、チャノコカクモンハマキ、ワタミゾウムシなどの処女雌の分泌物の研究から化学構造の判明した性フェロモンと同様の効果のある類縁合成化合物が、雄成虫の誘引に使用されている。

[村田道雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「誘引剤」の意味・わかりやすい解説

誘引剤
ゆういんざい
attractant

動物を誘引する薬剤。昆虫に対する誘引剤が最もよく研究されている。誘引は食物誘引,産卵誘引,性誘引に分けられる。食物誘引と産卵誘引は,ある昆虫が特定の食物あるいは産卵場所に誘引されるもので,両者が区別できないこともある。性誘引は異性が誘引されるもので,最近,性フェロモンの研究が進み,それが性誘引剤として実用化されるようになった。この3種の誘引対象のほかに,なぜ誘引されるか理由はわからないが,昆虫を強く誘引する化合物がある。ミバエ類に対する合成誘引剤で,たとえばミカンコミバエに対してメチルオイゲノールは強力な誘引剤である。 (→誘引物質 )

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