超音波を試料に当て、その反射または透過波を利用して像を見る顕微鏡。超音波もギガヘルツ級になると水中の波長が1マイクロメートル程度となり、光学顕微鏡と同程度の分解能が得られる。また、音波であることから試料の光学的な性質に左右されず、試料の表面像のほか表面下の構造も見ることができ、無染色で生体組織も観察できる。
超音波を顕微鏡に利用する考えは、1930年にソ連のソコロフにより提唱された。しかし、本格的な開発が始められたのは1973年に、アメリカ、スタンフォード大学のクェートらが、集束した超音波ビームを用いた走査型の顕微鏡を考案してから研究が盛んとなった。
走査型超音波顕微鏡には反射型と透過型のものがあり、分解能と侵透の深さに応じて、100メガから3ギガヘルツくらいの超音波が使用される。反射型は、音響レンズの上面に貼(は)り付けた圧電素子で超音波パルスの送受を行う。送信時と受信時のパルスを分離する必要があるが、試料に対する制限が少なく、物質の弾性的な差を表現しやすい利点がある。透過型は、2個の対向した音響レンズ間に試料を入れ、超音波の送受を各音響レンズに貼り付けた圧電素子で行うものである。製品化されているものは前者が多いが、いずれも超音波の試料への照射を容易にするために、試料と音響レンズ間を液体で満たしている。音響レンズにはサファイアの結晶などが使われる。形は上面を平坦(へいたん)に研磨したじょうご形で、下部に50~100マイクロメートルの凹(くぼ)みがつくられており、大きさは直径・高さとも1センチメートルに満たない。超音波はこの凹みを通って試料と超音波パルスを送受する。1ギガヘルツの超音波を送受する圧電素子の厚さは1マイクロメートル程度ときわめて薄い。
走査型の超音波顕微鏡で超音波パルスを照射してそのエコーまたは透過した信号を取り込みながら試料台をすこしずつ水平に動かし、信号の強弱を各位置に応じた箇所に描画する。この方式により水平方向の分解能は1マイクロメートル、深さ方向の分解能が2マイクロメートル程度のものが得られている。深さ方向の分解能が0.3マイクロメートルの超音波顕微鏡も干渉顕微鏡法を用いて実現されている。
光走査型超音波顕微鏡とよばれるものは、超音波を斜め下から試料全面を照射し、試料に生じる微細な変化をレーザー走査によりとらえるもので、光学像と音響像が同時に得られる。
[岩田倫典]
超音波を用いて物質の微細な部分を観察する装置。100MHzから3GHz程度の高周波が用いられ,光に匹敵する分解能が得られている。試料各点からの音響情報をとらえながら観察点を移動し二次元像を作る走査型顕微鏡の一種である。超音波顕微鏡は2種類に分けられる。一つは細く収束した超音波ビームを用いる方法であり,超音波を収束させるには光と同様にレンズを用いる。周波数が高いほど細いビームが得られる。電気信号は圧電振動子により超音波に変換される。超音波は音響レンズにより収束され,水を通して試料に入射する。試料からの反射波,または透過波は再び音響レンズによってとらえられ電気信号に変換される。試料を機械的に移動し観察点を変化させ,音響像をブラウン管上に表示する。像形成の原理から機械走査型超音波顕微鏡といわれる。他の方法には平面超音波が用いられる。試料を通過した超音波は内部の音響的性質に応じて表面の微小変形を引き起こす。この変形によって表面を照射しているレーザー光の反射角が変化する。レーザー光を移動し各点での反射角の変化を調べることにより音響像が得られる。前者と比較してレーザー走査型超音波顕微鏡といわれる。染色しないで生体組織の観察が可能なため,医学への応用が進められている。さらに光学顕微鏡では観察できない表面下の音響的性質が検出できるため,金属,セラミックス,集積回路などの性質の解明や非破壊検査への応用も有望視されている。
執筆者:永井 聰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
超音波の直進性を利用し,非破壊的に試料の内部構造(形状や弾性的性質の違い)を映像化する装置.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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