検査する対象を破壊せずに,使用上支障をきたすような変化を起こさせないで検査する方法。大別して,欠陥を検査する場合と材質を検査する場合がある。対象とするものには,金属材料,高分子材料,セラミックス材料,木材などの天然素材があるが,基本的な考え方はいずれの場合も同じである。ここでは金属への適用を例にして説明する。金属材料を使用して,機械や構造物などを製造するおもな方法には,鋳造によって部材を作る方法と,塑性加工によって板,棒,管などを作り,それを加工し溶接する方法などがある。これらの加工工程での品質を保証するには,(1)工程を管理して不良品を作らないようにする,(2)大量に生産しているときには少量を抜き取って破壊検査し,それによって同時に作られたものの品質を推定する,(3)製品そのものを非破壊検査し材質を確認する,という手法を組み合わせた検査が行われる。とくに多くの工程を必要とするものでは,中間製品の非破壊検査を行って不良品を工程の初期に発見して対策をとる。このように非破壊検査は製造工程の一環として,あるいは品質保証体系の一環として重要な位置を占めている。
非破壊検査の適用はそれだけ手間とコストがかかることであるから,方法の選択と検査の詳しさは,製品に要求される信頼性と製造方法の難しさ,扱っている材料の加工のしやすさなどを総合的に判断して決められる。たとえば,溶接は溶接部に欠陥を生じがちである。そのために溶接方法や条件を適切に選ぶが,溶接構造物の信頼性をとくに要求される場合には,すべての溶接部を放射線検査などによって,その健全性の確認を行うことになっている。機械や構造物は使用していくと一般に少しずつ変質する。とくに腐食,疲れあるいは応力腐食割れによって微小な割れが生じ,それらが成長していくことがある。これを知るには,定期的に検査を行い欠陥の有無や大きさを調べる。この場合の検査法は当然のことながら非破壊検査である。欠陥を発見したら,その程度に応じて補修したり,使用をとりやめたりする。
非破壊検査の方法には次のようなものがある。X線,γ線,中性子線,β線を検査体に照射し,その透過像をフィルムあるいは蛍光板に受け,その像から内部の欠陥を判定する放射線探傷,検査体に超音波を入射し,内部の欠陥からの反射を検出する超音波探傷,検査体を磁化し,磁束の乱れから表面欠陥を調べる磁気探傷,着色した液体または蛍光物質を検査体に塗って欠陥にしみ込ませる浸透探傷,欠陥が成長する際に発する超音波を検出して欠陥の位置などを知るアコースティック・エミッションなどがある。ほかに,渦電流探傷といって,交流の流れているコイルを金属に近づけた際にコイルに流れる電流の変化が金属内に欠陥があると違った様子を呈することを利用して調べる方法もある。
以上の各方法に共通して,非破壊検査にはいくつかの特性がある。どの方法によっても検出できる最小の欠陥寸法には限界があり,検出されないとしても必ずしも欠陥がないわけではない。また,欠陥の性状(たとえば,丸い空洞か薄い平面的な割れ目か)によって検出の難易が異なる。いずれの方法によっても欠陥そのものを観察するのではなく,間接的なもの(たとえば,フィルムに写った欠陥の像など)を見て,それから欠陥を判定することになるので,その判定には技術の蓄積が必要である。判定は多くの場合,人間が行うので,検査者による判定の相違などのあいまいさが残り,信頼性のある判定には熟練が必要となる。そのために方法を標準化し,標準となる既知の欠陥を含む標準検査体と目的の検査体とを同一条件で検査して,その比較により検査方法を校正する。また,エレクトロニクスの進歩をとり入れた自動化,コンピューターによるパターン認識の利用によって検査を安定にし,客観化する努力が続けられており,すでにかなりの成果をあげている。材質の非破壊検査にもほぼ上記の方法が適用されるが,これは材質が内部の組織と密接に関連していること,材料がある特定の組織をとったときに上記の検査に特定の応答を示すことを利用するものである。この場合も間接的な方法であるから,適用範囲は限られ,判定には技術の蓄積を必要とする。
執筆者:大久保 忠恒
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