デジタル大辞泉
「蹴」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
く・う【蹴】
※
書紀(720)神代上「
蹴散、此をば倶穢簸邏邏箇須
(クヱはららかす)と云ふ」
※書紀(720)皇極三年正月(岩崎本訓)「毱(まり)打(クウル)(〈別訓〉くゆる)侶(ともがら)に預(くはは)りて」
[
補注](1)
挙例の「書紀‐皇極三年正月」(岩崎本訓)に
連体形「クウル」があると
ころからワ行下二段活用とされているが、この例には疑問があること、他に活用形を特定できる未然・連用形以外の
用例がないことなどから、
断定はできない。
(2)のちに下一段活用の「ける(蹴)」となる語だが、
上代には既に下一段活用であり、その
語幹も
合拗音のクヱであったともいわれる。→
蹴(く)える。
(3)先の「書紀」の例の別訓「クユル」などの存在から後代にはヤ行にも活用することもあったとみられる。→
蹴る
ける【蹴】
※
落窪(10C後)二「只今の
太政大臣の尻はけるとも、此の殿の
牛飼にも触れてんや」
[
語誌](1)
文語文法において
唯一の下一段活用動詞とされるが、
平安時代の用例が少なく、不明な点も多い。
和文における
表記は「ける」が多いが、「観智院本名義抄」をはじめ、院政期鎌倉期において「クヱル」「化ル」等の表記もみられるところから、上代のワ行下二段活用「くう(蹴)」の未然・連用形「くゑ」が合拗音化して下一段活用の「く(ゑ)る」に変わり(その前に「くゑる」の語形を推定する考えもある)、さらにそれが直音化して「ける」になったものと推測される。
(2)江戸中期までは「けら」「
けり」等の用例がないところから、四段活用の「ける」が登場するのはそれ以降と考えられる。→
くう(蹴)・
くえる(蹴)
け・る【蹴】
〘他ラ五(四)〙 (下一段活用「ける(蹴)」が、江戸時代後期ごろから四段活用化したもの)
① 足で物をつきとばす。足で突いて前や後ろにとばす。
② (もと歌舞伎芝居の楽屋ことば) 役をことわる。
③ (②から転じて) ことわって受けつけない。はねつける。拒絶する。
※雑俳・蝉の下(1751)「
大名も蹴ったを咄
(はな)す太夫どく」
く・える くゑる【蹴】
※
梁塵秘抄(1179頃)二「馬の子や牛の子にくゑさせてん、
ふみわらせてん」 〔観智院本名義抄(1241)〕
[語誌]上代に「倶穢
(クヱ)はららかす(書紀‐神代上)」と「くゑ」の形が見られるが、「観智院本名義抄」には「躘 化ルマリ」「踊 化ル」「蹴 化ル」のような表記もみられる。したがってこのころには「くゑ・くゑ・くゑる…」のようなワ行下一段活用であったと認められる。→
蹴(く)う
く・ゆ【蹴】
〘他ヤ下二〙 「ける(蹴)」の一古形。
※書紀(720)皇極三年正月(岩崎本訓)「毬(まり)打(クユル)(〈別訓〉くうる)侶(ともがら)に預(くはは)りて」
[補注]ワ行下二段動詞「くう(蹴)」、ヤ行下二段動詞「こゆ(蹴)」などと関係ある語。→「
くゆ(越)」の語誌
こ・ゆ【蹴】
〘他ヤ下二〙 蹴(け)る。
※小川本願経四分律平安初期点(810頃)「脚の指をもちて地を蹴(コエ)て、足を壊りつ」
[補注]「こゆ(蹴)」を「こゆ(越)」に関係づける
考え方もある。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報