けり
〘助動〙 (活用は「けら・○・けり・ける・けれ・◯」。
用言の
連用形に付く。過去の
助動詞)
① 事実としては存在していたにもかかわらず、それまで気づかれていなかったことに気づくことを表わす。発見を表わす。…ていたのだな。…たのだな。
※
古事記(712)上・
歌謡「赤玉は 緒さへ光れど
白玉の 君が装
(よそひ)し 貴くあり祁理
(ケリ)」
※
源氏(10001‐14頃)乙女「式部卿宮、明けん年ぞ五十になり給ひける」
② すでに気づいていることであるが、なぜ起こっているのか分かっていないことについて、こういう条件があれば、そうなるのが
道理であるという
筋道を見いだして、納得することを表わす。さとりを表わす。それで…ていたのだな。そういう訳で…たのだな。
※
万葉(8C後)二・一一八「嘆きつつますらをのこの恋ふれこそ吾が結ふ髪の漬ちてぬれ計礼
(ケレ)」
③ すでに聞き手にもよく知られている
神話、伝説、真実、一般的
真理などをとりあげて、それが話手・
聞手の
共通の認識であることに注意を喚起し、再確認する意を表わす。ご存知のように…です。
※古事記(712)中・歌謡「この御酒
(みき)を醸
(か)みけむ人は その鼓 臼に立てて 歌ひつつ 醸み祁礼
(ケレ)かも 舞ひつつ 醸み祁礼
(ケレ)かも この御酒の 御酒の
あやに転楽
(うただの)し
ささ」
※源氏(1001‐14頃)
夕顔「御随人つい居て、かの白く咲けるをなむ夕顔と申し侍る。花の名は人めきて、かうあやしき
垣根になん咲き侍りけると申す」
④ 語りのなかで、新たに提示する出来事に確たる存在性があることを示す。
※竹取(9C末‐10C初)「いまは昔、竹取の翁といふもの有りけり」
※源氏(1001‐14頃)
桐壺「いづれの御時にか、女御更衣あまたさぶらひ給ひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり」
⑤ ある
物事が、成り立つ時間に関係のない属性・性質をもつことを表わす。背景や、原因理由などを示す文に用いられる。
※源氏(1001‐14頃)
末摘花「御けづり櫛などには、懸想だつ筋なく心やすきものの、さすがにの給ひ戯れなどして、使ひならし給へれば、召しなき時も、聞ゆべき事ある折はまうのぼりけり」
[
語誌](1)
語源は、「き(来)」に「あり」が結合したものとも、過去の助動詞「き」に「あり」が結合したものともいわれる。
(2)
未然形「けら」は、「けらずや」「けらく」の形で
上代だけに見られる。→
けらずや・
けらく。
(3)
連体形「ける」に助動詞「らし」が付いた「けるらし」の約という「けらし」がある。→
けらし。
(4)上代に限り、打消の助動詞に接続する場合「ずけり」の形をとった。また、
完了の助動詞「つ」の連用形に付いた「てけり」は、平安時代末期から「
てんげり」というようになった。
けり
〘名〙 (和歌、
俳句など、助動詞「けり」で終わるものが多いところから) 物事の終わり。
結末。決着。
※黒船前後(昭和一〇年版)(1935)〈服部之総〉志士と経済「これを以て、連島貿易の一件は、けりとなった」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「けり」の意味・読み・例文・類語
けり[助動]
[助動][(けら)|○|けり|ける|けれ|○]《動詞「く(来)」の連用形に動詞「あり」の付いた「きあり」の音変化から》動詞・助動詞の連用形に付く。
1 過去に起こった事柄が、現在にまで継続してきていることを表す。…てきた。
「昔より言ひけることの韓国の辛くもここに別れするかも」〈万・三六九五〉
2 過去に起こった事柄を他から伝え聞いたこととして回想的に表す。…たということだ。…たそうだ。
「坊の傍らに大きなる榎の木のありければ、人、榎の木の僧正とぞ言ひける」〈徒然・四五〉
3 初めてその事実に気がついたことを詠嘆的に表す。…たのだなあ。…たなあ。
「ふるさととなりにし奈良の都にも色はかはらず花は咲きけり」〈古今・春下〉
4 眼前の事実を述べる。…た。…ている。→き(助動)
「夜すでに明けければ、なぎさに赤旗少々ひらめいたり」〈平家・一一〉
[補説]過去の助動詞「き」に動詞「あり」の付いた「きあり」からとも。過去の助動詞「き」が直接経験をいうのに対し、「けり」は伝聞的過去をいうのが特徴。4は中世以後の用法。未然形の「けら」は、上代に「けらず」「けらく」の形で用いられた。完了の助動詞「つ」に「けり」の付いた「てけり」においては、院政期ごろから「てんげり」の形でも用いられた。
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