精選版 日本国語大辞典 「常用漢字」の意味・読み・例文・類語
じょうよう‐かんじ ジャウヨウ‥【常用漢字】
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1981年(昭和56)10月、内閣訓令・同告示として発表され、2010年(平成22)に改定された「常用漢字表」に収載されている2136字の漢字。常用漢字という名称は、かつて1942年(昭和17)に国語審議会が「標準漢字表」のなかの1134字に用い、さらにそれを修正して“常用漢字表”(1295字)と称したことがあるが、今日いう常用漢字とは上記の2136字をさす。1981年に告示されたものは1945字であったが、改定により現在の字数となった。
「常用漢字表」は「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すもの」として作成されたもので、科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぶものではなく、また固有名詞を対象としないとする。字種2136字を原則として字音によって五十音順に配列し、明朝体(みんちょうたい)活字のうちの一種によって字体を示し、それぞれの漢字の音訓、語例等を示す。現行通用字体が旧字体と著しく異なる字には、囲(圍)、体(體)のように括弧(かっこ)内に康煕(こうき)字典体の活字が添えてあり、なお「付表」として「いわゆる当て字や熟字訓など、主として一字一字の音訓として挙げにくいもの」を「明日(あす)・小豆(あずき)・海女(あま)」のようにして116語あげている。
以上のような事情から、その規定には若干の揺れが生じるが、常用漢字とは、「常用漢字表」に示された、一定の字体と音・訓とを伴った2136字の、現代日本語表記において基準となる漢字であるといってよい。常用とはいっても、固有名詞(人名・地名等)を対象としないから「智」「柴」などは含まず、「個々の事情に応じて適切な考慮を加える余地のあるものである」(「常用漢字表」前書き)が、一面、(1)学校教育ないし教科書の表記の面でも基準となり、(2)子につける名に用いる漢字の面でも基準となるなど、現代日本語表記中の漢字使用の基準となっている。
常用漢字は、1946年(昭和21)以降の「当用漢字」を集成総合し改定したものである。日本語表記における漢字の多用・乱用が国民の負担になっているという指摘は1860年代からあり、以後その節減・整理の方策は官民両面から出ていたが、第二次世界大戦後、国語審議会の建議に基づき、(1)当用漢字表(1850字)、(2)同音訓表、(3)同字体表(いずれも内閣告示)等によって、国語施策として実施された。しかし、これに対する批判もあり、1966年以降見直しを行い、音訓表の改定(1973年告示)等を経て、1972年から国語審議会は総合的に審議し、各界の要望もいれた結果として1981年に、95字を増し、字体・音訓等をあわせた「常用漢字表」を提示したものである。字種(字数)を若干増し、音訓にも若干の幅を認め、若干の当て字・熟字訓を認めたが、当用漢字施行時代に試みられた(1)表外漢字による漢語は「あいまい」「あいさつ」のように仮名書きにする、(2)表外字を同音の他の漢字に置き換える(綜合(そうごう)→総合、車輛(しゃりょう)→車両)、(3)「採鉱ヤ金学」のようなまぜ書きをする、(4)表外字を含む漢熟語を同じ意味の別の語にいいかえる(涜職(とくしょく)→汚職、灌木(かんぼく)→低木、梯形(ていけい)→台形)などの問題が残り、また、当用漢字字体はそのまま正字体として認めたため、(1)「芸」「体」「缶」のような本来別字である字体の問題、(2)省画法による簡易字体の問題(当用漢字で「涙」を正字としたので、常用漢字で追加した「戻」もその字体となった)、(3)表外字への影響(「檜」を「桧」とする類)などの問題が残った。
2010年の改定では、「曖」「昧」「挨」「拶」「冶」などを含む196字が追加され、「勺」「匁」など5字が削除された。また、読みの追加、変更、削除なども行われた。
[林 巨樹]
現代における漢字使用の標準。1981年3月に国語審議会が答申した〈常用漢字表〉が,同年10月1日内閣告示第1号で公布された。その前文に〈法令・公用文書・新聞・雑誌・放送等,一般の社会生活で用いる場合の,効率的で共通性の高い漢字を収め,分かりやすく通じやすい文章を書き表すための漢字使用の目安〉とある。常用漢字表には,1945字の字種と,その字体,音訓,語例などが含まれる。漢字使用の目安というが,その目安については特に注を設けて,〈この表を無視してほしいままに漢字を使用してもよいというのではなく,この表を努力目標として尊重することが期待される〉と述べる一方で,〈この表を基に,実情に応じて独自の漢字使用の取決めをそれぞれ作成するなど,分野によってこの表の扱い方に差を生ずることを妨げない〉とも述べている。常用漢字の前身である〈当用漢字〉が〈現代国語を書きあらわすために,日常使用する漢字の範囲〉と規定されて,漢字使用を制限する趣旨が強調されたのに対して,今度はゆるやかな標準として示された。当用漢字表が終戦直後の革新的情勢に対応するのに対して,常用漢字表は戦後30年続いた泰平的ムードに対応する。
実は,〈常用漢字表〉という同じ名称と,ほぼ同じ内容の漢字表は,大正以後,国語審議会またはその前身の臨時国語調査会によって2度にわたって作成されている。第1回は,1923年(大正12)5月に臨時国語調査会が日常使用の漢字1962字とその略字154字を指定し,31年(昭和6)5月には1858字に改定したものであるが,施行されるまでに至らなかった。当用漢字表が採用される前の45年に国語審議会で1295字の〈常用漢字表〉が作成されたが,総会では採択されなかったので,再検討の上,これに564字を加え,9字を削った1850字が改めて答申された。これが〈当用漢字表〉である。
46年11月16日内閣訓令第7号,内閣告示第32号で公布された〈当用漢字表〉は,1850字の字種だけを決めたものであるが,その後,48年2月に〈当用漢字音訓表〉,49年4月に〈当用漢字字体表〉がそれぞれ公示され,〈常用漢字表〉にほぼ相当する内容を持つに至った。以上3種の表をまとめて俗に〈当用漢字〉という。当用漢字は,明治以来の国字問題の一つの課題であった漢字制限が初めて実現したもので,事実,〈法令・公用文書や教育〉をはじめ〈新聞・雑誌・放送その他一般社会に採用され,相応の効果を挙げた〉(常用漢字表前文)といえる。内閣訓令はもともと法令・公用文書だけを規制するものであるが,それが教育に及んだことと,他に,子の名の漢字に法的な制限が加えられたこと(1951年に公布された〈人名用漢字別表〉では,1850字プラス92字しか子の名の漢字として使えなくなった),さらに,制限的な性格から仮名書きの部分がふえて読みにくくなったこと,1語が漢字と仮名のまぜ書きで視覚的なまとまりが悪くなったこと,また,別の語に言いかえなくてはならなくなったことなどのために批判が高まった。これを受けて,66年6月以降,国語審議会は当用漢字の改定を始め,72年6月〈当用漢字改定音訓表〉を答申したものが翌年6月に公布された。これを取り込んで,字種・字体についてもその目安を示したのが常用漢字表である。
常用漢字表は,教育をはじめ新聞,雑誌,放送などでも一斉に受け入れられた。教育では,高等学校で常用漢字のすべての音訓が読め,すべてが書けることが指示された(1981年文部省告示の〈学習指導要領〉)。新聞以下の各分野では,常用漢字以外の字種・音訓も若干個使う一方,常用漢字の一部は使わないことにしている。常用漢字表の公布と同時に,戸籍法施行規則の一部改正という形で人名に使える漢字が大幅にふえて166字となり(その後追加されて284字),さらに,字体についても許容字体表が示され,常用漢字表の195字の略字体に対する正字も使えることになった。(表参照)。
執筆者:柴田 武
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(秋津あらた ライター / 2009年)
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…これは1946年の〈当用漢字表〉を全面的に再検討して社会生活に適応した新しい漢字表を目指したもので,従来の当用漢字数1850字の中から芋,繭,朕など33字を抜き,猿,凸,凹,靴など83字を入れて1900字とした。 第13期国語審議会はさらに検討を加えて,1979年3月1926字の〈常用漢字表案〉を文部大臣に答申した。答申後,新表が〈一般の社会生活における漢字使用の目安〉としたことに対して目安はあいまいだとし,字種についても増やす意見や現状維持など各界からの反響があった。…
…〈ゐる(居)〉と〈いる(要)〉を〈いる〉に統一し,〈おほさか(大阪)〉と〈おほり(堀)〉を〈おおさか〉と〈おほり〉のように区別することになった点では正書法の理想に近づいたが,一方,同じ[oː]を〈おお(さか)〉,〈おう(さま)〉のように書き分ける点では,〈現代かなづかい〉も正書法の理想から遠い。どういう漢字で書くかについては,常用漢字表,同音訓表という目安があり,どの部分を漢字で書くかについては,〈改定送り仮名の付け方〉という目安があるが,1語1語の書き表し方については目安のつかない場合がある(例,十分/充分,付属/附属,祭/祭り/まつり)。現代の日本人の平均的表記意識は〈同じ語もいろいろに書ける,書かれる〉ということにある。…
※「常用漢字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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