改訂新版 世界大百科事典 「身体適性」の意味・わかりやすい解説
身体適性 (しんたいてきせい)
physical fitness
体力とほぼ同意語で,全身の筋力を使う仕事や運動に必要な能力を訓練などによってより容易に養成できる基礎的な素質を意味する。元来は重労働やはげしいスポーツに適する人を選抜するために考えられたものであるが,今では一般人の仕事や生活上に必要な基礎的な身体的能力をさす。定められた測定法があるわけではなく,日常生活やスポーツ活動などに要する身体的な特性を分析して,いくつかの要素項目に分けて測定していく。一般には,体格の特性,筋力,柔軟性,敏捷性,平衡能,持久性などについて別個に測定し,それらの結果から全体としての身体的な適性,その個人の特徴を指摘していく方法がとられる。もう一つの方法として,比較的はげしい運動をさせたときの心肺機能の応答から,その人の最大可能な身体作業能力を求めて身体適性の指標にすることもできる。この場合には,深く速くなった呼吸と心臓活動で筋肉群に送りこみ消費される酸素の量の最大値(最大酸素摂取量)を求める方法がよく使われる。さらに,もっと実際的に所定の運動を行わせて,その運動能力の速度や精度から適性をみることもできる。いずれにしても,こうして得られた身体適性の指標は性別,年齢別などで異なった分布をするものであり,職業や日常の運動経験,トレーニングの度合,地域的な栄養や経済状況などの生活適応のちがいを考慮にいれて評価していく必要がある。また,身体適性がすぐれているものがつねに生活上やスポーツ活動上に有利だとは限らず,あくまでその一面の能力的素質を示すにすぎない。とりわけ,現代の通常の職業活動にとっては,ある水準の身体適性があれば十分に遂行可能であり,スポーツ的な特性が中高年になって落ちても,職業生活にとっての水準はよく保たれていることが少なくない。要は,当の職業生活,当のスポーツなどそれぞれにとっての身体的適性を問題にしていく立場が望ましいことになる。
→体力測定
執筆者:小木 和孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報