体力測定(読み)たいりょくそくてい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「体力測定」の意味・わかりやすい解説

体力測定
たいりょくそくてい

個人や集団の体力の現状や変化状態、進歩の可能性などを数量的にとらえようとするものをいう。元来、体力とは、ある個人が行う仕事量などがどれだけ社会環境に適応しうるかにかかわるものである。つまり、体力があったというのは、長寿を全うし、その生涯における仕事量が大きかったということでもある。ある一時期に大きな仕事量をこなしたとしても、短命であればその仕事量の合計は限られているし、長寿を保った人に比較して体力があったとはいえない。また、長生きをしたとしても、その仕事量が少なければ、同様に体力があったとは評価しえないのである。このように、体力とは、本来人間のもてる能力にかかわる総合的な概念であり、数値化してとらえられるものではないといえる。しかし、現在では抗病能力などを測定することは不可能であることから、前述した体力の考え方を踏まえたうえで、身体的な行動能力を数値的にとらえることが試みられている。

小野三嗣

体力・運動能力調査

文部科学省では、文部省時代の1964年(昭和39)以来、スポーツテスト、小学校スポーツテスト、壮年体力テスト、小学校低・中学年運動能力テストを標準化して、国民の体力・運動能力の現状を明らかにしてきた。その体力・運動能力調査は、対象年齢区分やテスト項目が改められ、「新体力テスト」として、1999年(平成11)から統一された調査が行われている(2015年(平成27)10月からはスポーツ庁が担当)。

 調査対象の年齢区分およびテスト項目としては次のようになるが、各年齢層共通のものとして「握力」「上体起こし」「長座体前屈」の3項目が設定されている。

(1)6~11歳(小学生) 「反復横跳び」「20メートルのシャトルラン(往復持久走)」「50メートル走」「ソフトボール投げ」
(2)12~19歳(中学生から大学生) 「反復横跳び」「持久走」「20メートルのシャトルラン」「50メートル走」「立幅跳び」「ハンドボール投げ」(持久走とシャトルランは選択実施)
(3)20~64歳(成人) 「反復横跳び」「急歩」「20メートルのシャトルラン」「立幅跳び」(急歩とシャトルランは選択実施)
(4)65~79歳(高齢者) 「ADL(Activities of Daily Living、日常の生活動作能力についてのアンケート調査)」「開眼片足立ち」「10メートル障害物歩行」「6分間歩行」
 こうした体力テストの成績は、一般に児童期から青年期にかけて向上するが、20歳代後半から下降する傾向がみられる。しかし、各個人をみる場合には、生活のなかの運動習慣や食習慣などによって異なるということを考慮に入れておく必要がある。単に平均値に近づけたり、平均値より優れているからといって、すべてを判断することは誤りを招きやすい。

[小野三嗣]

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改訂新版 世界大百科事典 「体力測定」の意味・わかりやすい解説

体力測定 (たいりょくそくてい)
physical fitness measurement

体力とは人間が社会環境に適応して行動しうる能力をいい,身体的能力や行動能力だけに限定されない人間の質的・量的概念をもつ言葉である。これら体力の諸側面のうち量的に計量できるものをとりあげ,これらを計測し,量的に表示することを体力測定という。体力測定の項目には,(1)形態計測,(2)生理機能検査,(3)健康診断,(4)心理的検査などがあり,それぞれに各種の検査法がある。

 現在,体力判定のアプローチの方法には大きく二つがある。一つは,身体の行動能力の機能的側面を要素に分けて,それぞれの機能側面を計測し評価する,あるいは得点にして,総合力として評価する方法である。もう一つは,体内への酸素の体内摂取の効率から物質代謝速度を判定しようとするもので,有酸素作業能力による評価法である。

 前者の測定項目には次のものがある。(1)体格として身長,体重,各部位周長。体構成としての脂肪率あるいは除脂肪体重,(2)身体の柔軟性として前屈,上体反らし,各関節可動度,(3)筋力として握力,背筋力,(4)敏捷性としてサイドステップ,バービーテスト,(5)瞬発力として垂直跳び,立幅跳び,(6)平衡能力として急歩踏台昇降,自転車労作,トレッドミル走などがある。

 後者の有酸素作業能力の測定には持久性テスト項目が用いられており,毎分の体重当りの最大酸素摂取量(VO2 max,単位はcc/kg/min)として表示される。最近では,15分間走による距離からの算出やエルゴメーターなどの負荷量に対する心拍数応答から推定値を求めることも研究されている。

 体力測定は生活適応能力の分析可能な項目あるいは方法論的検討が重要であるし,測定実施による事故防止処置にも配慮が必要である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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