木や鉄で作った輪を,手にした棒切れでたたきながら地面を転がす遊び。単純な遊びであるから,各地に古くからあったと思われる。古代ギリシアでは輪回しは一般的には子どもにふさわしい遊びと考えられていた。この遊びを卒業すべき年の若者がまだ輪を回して楽しむようすを見たエロス神が,こらしめのためにサンダルで打ちかかるようすを描いた壺絵が残っている。他方,医師のヒッポクラテスが胆汁過多症の運動療法として輪回しを取りあげ,またプリエネのギュムナシオン(総合運動場)が若者の身体訓練用に輪回しの道具を備えており,輪回しは生理的効果を認められ老若を問わず行われた。ローマ人はギリシア人から輪回しを受け入れ,これが中世以降のヨーロッパの子どもに受け継がれていく。16世紀ごろの絵には,回すと音が出るように輪に金属片や鈴をつけたものもみえる。しかし,都市生活にとって往来での輪回しは種々の弊害をもたらし,そのために例えばオランダでは,ドルトレヒト市が15世紀に2度の禁止令を出している。
日本では,輪回しは〈わっぱまわし〉〈わめぐし〉などとも呼ばれる。江戸中期ころには〈たがまわし〉と呼ばれて行われていたことが《嬉遊笑覧》にみられ,細く割った竹の先を開き,桶のたがを押し転がすと説明されているように,桶や樽のたがを遊具にして,それを回した。明治後期ころには,これまでの竹に代わって,鉄製の輪が使用されるようになった。さらに昭和期には自転車の普及に伴って,そのリムが利用されるようになり,男児の代表的遊びとして盛んに行われてきた。
執筆者:寒川 恒夫+半澤 敏郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
竹または鉄などの輪をY字形の棒の先に当て、輪が倒れないように転がしながら進ませる遊び。古くは「たが回し」とよび、桶(おけ)や樽(たる)のたがを回して遊んだのが始めであった。明治末ごろには太い針金または鉄でつくった輪ができ、たが回しとはいわず、輪回しとよぶようになったものとみられる。江戸時代の俳人宝井其角(きかく)の句にも、「たが回したが(誰(た)が)まわし始めけん」とあり、『嬉遊(きゆう)笑覧』(1830)にも記事がみえるから、このころ盛んであったとみられる。ヨーロッパでも古代から行われていたといわれ、紀元前500年ごろのギリシアの壺(つぼ)に輪を回している子供の絵が描かれている。
[高野 修]
…フープ(輪)は古代ギリシアに端を発するが,アメリカ・インディアンやエスキモーも用いていた。日本でも桶や樽の箍(たが)を利用して,元禄時代に箍回し(輪回し)が大流行している。こうした特殊な機能をもった玩具が,各民族の中で個別に創造されていることは,人類文化の普遍性を物語るものであろう。…
※「輪回し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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