日本大百科全書(ニッポニカ) 「農産物規格」の意味・わかりやすい解説
農産物規格
のうさんぶつきかく
農産物において、流通の円滑化、取引の簡素化・公正化を図るため定められる品位、形量および包装などの規準をいう。代表的なものに日本農林規格(JAS(ジャス))があるが、この規格は農産物加工品に対するものが主であり、大部分の農産物には定められていない。現在、農産物規格には、国や国に準ずる機関によって定められる標準規格と、府県や生産者団体などが自主的に設定する自主規格とがあり、同じ呼称で格づけされていてもその規準はまちまちで一元化されていない。これは、農産物の種類や特性によって規格が設定されてきた背景および方法が地域や産地ごとで異なっているからであり、とくに野菜や果実などでは、品種・系統が多様で個体差が大きいこと、産地間競争が激しく製品差別化傾向が強いことなどから、各産地ごとで独自の自主規格が設けられることが多い。
一方、標準規格は、それが定められる背景となる法律や普及主体が農産物によって異なり、たとえば、野菜は野菜生産出荷安定法により野菜供給安定基金が、果実は農林水産省の委託により日本園芸農業協同組合連合会が、牛肉や豚肉は「畜産物の価格安定等に関する法律」により日本食肉格付協会が、それぞれ規格の設定や普及を行っている。標準規格設定の目的は、初めは、政府が価格支持等で市場に介入する際の目安を定めることにあったが、現在では規格取引の普及および一元化を図ることに重点が置かれている。一般に農産物規格には、野菜や果実のように、形状色沢、病虫害の有無などの品位規準と、重さ、大きさなどの大小規準との二つの規準によって、それぞれ「秀・優・良」「L・M・S」などの呼称で格づけされるものと、牛肉や豚肉などのように、外観、肉質、重量などが総合的に加味されて「上・中・並」といった呼称で格づけされるものとがある。近年、農産物の生産・流通の大量化・大型化に伴い規格取引が一般化し、またそのなかで標準規格による取引や自主規格を標準規格に近づける傾向も強まっている。しかし、規格設定の規準として外観に重点が置かれやすいこと、規格の数が多いこと、規格の差が価格に十分反映しないことなど、問題も多い。
[小田滋晃]