(読み)とても

精選版 日本国語大辞典 「迚」の意味・読み・例文・類語

とて‐も【迚】

〘副〙 (「とてもかくても」の略)
[一] 条件的に、どうしてもこうしてもある結果になる意を表わす。
① いかようにしても。とうてい。何にしても。どっちみち。どうせ。結局。しょせん。
(イ) (打消を伴って) あれこれしても実現しない気持を表わす。
平家(13C前)三「日本国に、平家の庄園ならぬ所やある。とてものがれざらむ物ゆへに」
※田舎教師(1909)〈田山花袋〉一一「とても東京に居ても勉強などは出来ない」
(ロ) 結局は否定的・消極的な結果になる気持を表わす。諦めや投げやりの感じを伴いやすい。
※延慶本平家(1309‐10)五本「下へ落しても死むず。とても死(しな)ば敵の陣の前にてこそ死め」
俳諧師(1908)〈高浜虚子〉四五「もうああ狂って来ては迚(トテ)駄目だらうね」
(ハ) 決意を伴っていう。どうあろうと。
太平記(14C後)五「や殿矢田殿、我はとても手負たれば此にて打死せんずるぞ」
(ニ) 否定的・消極的ではなく肯定的な内容を導く。
※歌謡・閑吟集(1518)「とてもおりゃらば、よひよりもおりゃらで、鳥がなく、そはばいく程あぢきなや」
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六「とてもねがふなアアら大きなことをねエエがヱ」
事柄が成立する前にさかのぼって考える気持を表わす。どうせもともと。
※三道(1423)「又、女物狂の風体、是は、とても物狂なれば、何とも風体を巧みて、音曲細やかに、立振舞に相応して、人体幽玄ならば」
③ あとの句に重みをかけていう。どうせ…だから(なら)いっそ。「の」を伴うことがある。
風姿花伝(1400‐02頃)二「さりながら、とても物狂に(ことよ)せて、時によりて、何とも花やかに、出立つべし」
[二] 状態・程度を強調する語。たいへん。たいそう。はなはだ。
※澄江堂雑記‐「とても」(1924)〈芥川龍之介〉「『とても安い』とか『とても寒い』と云ふ『とても』の東京の言葉になり出したのは数年以前のことである。勿論『とても』と云ふ言葉は東京にも全然なかった訳ではない。が従来用法は『とてもかなはない』とか『とても纏まらない』とか云ふやうに必ず否定を伴ってゐる」
[語誌](1)(二)については、挙例のように芥川龍之介が随筆の中で触れており、大正期の中ごろから多用されるようになったらしい。
(2)元来「とても」は「とてもかくても」を略したもので、(一)の意味では否定表現を伴うことも肯定表現を伴うこともあった。しかし、明治以後は否定表現を伴う用法が多くなった。
(3)(二)の用法が発生したことについて、新村出は「琅玕記‐とても補考」で、発生理由はいくつか考えられるが、「とても面白くて堪へられない」の「堪へられない」が略されてできた形ではないかと推測している。これは「僕の知ってゐる家はとても汚くっていけません」(永井荷風腕くらべ‐一五」)のように「とても」は打消の「ん」と呼応しているのだが、「とても汚い」とも受け取られやすいところから次第に(二)の用法が出てきたとするものである。
(4)(一)①(ロ)に挙げた「俳諧師」の例のように肯定形ではあるが否定的な意味を持つ「駄目」「むづかしい」などを修飾する用法は明治期にも見られ、これが多用されていくうちに、一般に肯定形と結びつくことの不自然さが薄れて(二)の用法が出てきたとも考えられる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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