日本大百科全書(ニッポニカ) 「退職給付会計」の意味・わかりやすい解説
退職給付会計
たいしょくきゅうふかいけい
従業員の退職金や企業年金に関連する費用や負債を計算するための会計。退職給付とは、従業員が一定の期間にわたり労働を提供したことの対価として、退職以後に支給される退職一時金や企業年金のことである。
退職給付制度には、(1)将来の支給額が前もって定められており、支給のための原資の運用リスクは企業が負う確定給付型と、(2)企業が拠出する掛金額だけが決められており、運用リスクは従業員が負う確定拠出型の二つのタイプがある。このうち退職給付会計が対象とするのは確定給付型の制度のみである。
かつての日本では、退職給付の支給方法(一時金か年金か)や積立て方法(内部引当てか外部積立てか)によって異なる会計処理が行われていたため、企業ごとに退職給付制度の抱える運用リスクの違いを比較しづらい状況であった。そこで財務諸表の透明性と比較可能性を高める目的で、1998年(平成10)に「退職給付に係る会計基準」が設定された。この基準では、退職給付は、その支給方法や積立て方法の違いにかかわらず、退職前の期間に提供された労働の対価として支給するものであるという観点から、同一の会計処理が要求される。つまり、退職給付全般に関連する各期の負担を退職給付費用として損益計算書に計上するとともに、それに対応する期末の負債を退職給付引当金として貸借対照表に計上することになった。
退職給付会計の特徴は、第一に見積り計算ということである。従業員が退職時に支給されると見込まれる退職給付の総額を、将来の昇給率、退職率、死亡率などを考慮して見積もる必要がある。第二の特徴は現在価値計算ということである。退職給付見込額のうち各期の発生額は将来の退職時点を基準としているから、これを一定の割引率と退職までの期間により現在価値に割り引いて退職給付債務を算定しなければならない。
[濱本道正]
『泉本小夜子著『退職給付会計の知識』(日経文庫)』