損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書、株主資本等変動計算書のこと。財務とは、お金の動きに係る情報を意味するので、財務諸表で提供される情報は貨幣的に評価される取引を基礎としたものが前提となる。したがって、企業により行われる定性的情報に関する報告書は財務諸表の範疇(はんちゅう)には入らない。ちなみに、財務諸表のことを決算書とよんだりすることがある。
財務諸表は、その作成単位により、法人格を有する個々の企業が作成する個別財務諸表と、いくつかの企業によるグループ単位でその親会社が作成する連結財務諸表がある。また、作成するタイミングに基づいて、一会計年度末において作成される、いわゆる年次の財務諸表、当該年度内の3か月ごとに作成される四半期財務諸表、半年ごとに作成される中間財務諸表がある。
財務諸表の作成義務は、会社法、金融商品取引法、建設業法等の業種別の規則に基づき取締役等に課されているが、それら法規に規則がない場合は、企業会計基準委員会により公表されている各種企業会計基準をはじめとする「一般に公正妥当と認められた会計基準」に基づき作成されるものとされている。なお、会社法では、財務諸表のことを計算書類や連結計算書類とよぶ。
ただし、投資意思決定のための会計基準に関しては、現在では、財務諸表の作成ルールに関して、国際的に統一化していこうとする動きがあり、そのための基準として、日本も含む先進諸国の委員で構成される国際会計基準審議会(IASB)により、国際財務報告基準(IFRS)が公表されている。日本も、当該基準に対するコンバージェンス(収斂(しゅうれん))の作業が先の企業会計基準委員会により進められており、実質的にそのような方向性が顕著となっているため、財務諸表の作成基準としてはIFRSが注目されるようになってきている。しかし、会社法、金融商品取引法、税務会計が協調関係をもってトライアングル体制をとる日本においては、財務諸表の作成に関する基準は相互に影響をもつため単純ではない。
財務諸表には、株主等から資金提供を受けその運用を任されている経営者の受託責任の解除のために、特定期間の経営成績や財政状態等を株主等に報告する役割や、投資の意思決定を行う投資家に対する情報提供としての役割などがある。
そのことから、株主は、財務諸表により知らされる投資企業の実態の是非により株主総会で経営者の経営のあり方を追及し、場合によってはその責任を問うことになる。また、投資意思決定に関連しては、財務諸表のデータを分析してその趨勢(すうせい)を把握することなどで今後も継続して投資を行うか、引き上げてしまうかなどの投資判断を行う。財務諸表分析のカテゴリーとしては、企業の収益性を分析する収益性分析、財務的安全性をみる安全性分析、将来の成長性をデータの趨勢から分析する成長性分析などがある。
また、税務会計の観点からは、確定決算主義の考え方に基づき当該財務諸表により計算された利益額を課税所得計算の基礎として用いている。
そのほか、広く課税などで利害関係を有する国や地方公共団体、消費者や地域住民など社会の当該企業のステイクホルダー(利害関係者)全般に対する情報提供にも役だっている。その点からは、財務的な情報以外の情報(定性的情報を含む)の有用性も論じられており、たとえば、環境会計に関する情報提供やCSR(企業の社会的責任)報告書などは企業活動を評価する情報としても使われ始めている。
現在、金融商品取引法により有価証券報告書を提出しなければならない上場企業の財務諸表等の開示書類は、インターネット上のシステムであるEDINET(エディネット)(「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」)で閲覧することができる。また、各企業のホームページ上のIR(インベスター・リレーションズ)や財務情報などのコーナーでダウンロードすることもでき、その入手は飛躍的に容易になっている。
[近田典行]
『鈴木基史・羽岡秀晃編著『ケースで学ぶ企業財務分析』(2006・中央経済社)』▽『菊谷正人編著『IFRS・IAS徹底解説――計算例と仕訳例でわかる国際会計基準』(2009・税務経理協会)』▽『田中弘・岡村勝義・西川登・奥山茂・戸田龍介著『通説で学ぶ財務諸表論』(2009・税務経理協会)』▽『乙政正太著『財務諸表分析』(2009・同文舘出版)』
企業の経営活動を貨幣価値によって記録計算し,一定期間の企業努力とその成果(経営成績),期間末で企業が所有する資産,負っている負債および企業の資本の在高(財政状態)などを明らかにするための報告書をいう。
大蔵大臣の諮問機関である企業会計審議会によって,一般に公正妥当なものとして認められる会計原則(企業会計原則)が公表されているが,それによれば,財務諸表には,(1)損益計算書,(2)貸借対照表,(3)財務諸表付属明細表,(4)利益処分計算書が含まれている。損益計算書は経営成績,貸借対照表は財政状態,財務諸表付属明細表は損益計算書および貸借対照表における重要な項目の内訳明細あるいは変化の状態,利益処分計算書は株主総会の決議によって当該期間の利益の処分の結果を表示するものである。
証券取引法の財務諸表規則(証取規則)は企業会計原則にのっとったものであるが,その規定によれば,発行価額または売出価額の総額が1億円以上の有価証券を募集または売り出すさいには大蔵大臣への届出が必要であるが,この届出のさい,その発行者は特別な利害関係のない公認会計士または監査法人の監査証明をうけた財務諸表を含めた有価証券届出書を提出しなければならない。また,証券取引所に上場されている有価証券を発行している会社,流通状況が上場されている有価証券に準ずるものとして政令で定める有価証券を発行している会社,上記の有価証券届出書の提出会社は事業年度ごとに,特別な利害関係のない公認会計士または監査法人の監査証明をうけた財務諸表を含めた有価証券報告書を提出しなければならない。この有価証券届出書および同報告書の中に含められる財務書類は,大蔵省令〈財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則(財務諸表規則)〉および〈財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則取扱要領(財務諸表規則取扱要領)〉にしたがって作成されなければならない。財務諸表規則の諸規定は,ほぼ〈企業会計原則〉と一致し,さらに,規定のない部分については〈企業会計原則〉に準拠することが想定されている。そのため,財務諸表規則でいう財務諸表は,貸借対照表,損益計算書,剰余金計算書,利益金処分計算書または欠損金処理計算書および付属明細表とされている。
これに対して,商法は,株式会社および有限会社以外の商人については貸借対照表の作成を義務づけているのみであるが,株式会社および有限会社については,貸借対照表,損益計算書,営業報告書,利益処分または損失処理案の作成を取締役に義務づけ,それを監査役(商法特例法による大会社すなわち資本の額が5億円以上または負債の合計金額が200億円以上の会社には,監査役のほか会計監査人)をして監査せしめることとしている。これら計算書類は法務省令〈株式会社の貸借対照表,損益計算書,営業報告書及び附属明細書に関する規則(商法計算書類規則)〉に準拠しなければならない。これらは,〈企業会計原則〉での財務諸表と営業報告書を除けば同じとみてよい。ただし,利益処分案は株主総会に提出される資料であり,あくまでも案であるが,〈企業会計原則〉および財務諸表規則での利益(金)処分計算書は株主総会での決定に基づいて作成される事後的な財務諸表である。
執筆者:井上 良二
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(小山明宏 学習院大学教授 / 2007年)
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…企業は,財務諸表によって利害関係者に対して,企業の財務状態および経営成績に関する情報を提供するが,企業の収益性・安定性・将来性を正確にとらえる目的で財務諸表の数値を基に,これらについて分析を行うことを財務分析あるいは財務諸表分析という。今日最も一般的な企業の形態である株式会社は商法によって計算書類(財務諸表)の作成が義務づけられており,商法の計算に関する規定に従って財務諸表が作成される。…
…企業の各会計期間における努力を費用によって表現し,成果を収益によって表示し,両者の差額をもって純成果(当期純利益)を表現する報告書であり,現代会計において最も重要な財務諸表の一つである。この場合,収益は,現金あるいは現金同等物(受取手形や売掛金など),すなわち貨幣性資産の取得に裏づけられたもの(これを実現収益という)にかぎり,この実現収益獲得のために費やされた費用のみを努力と認めることに注意しなければならない。…
…一定時点における企業の財政状態あるいは財産状態を表示する財務諸表の一つである。そこでの財政状態は,企業に投入された資金の使途(資産)と源泉(負債および資本),あるいは企業による資金投下の回収・未回収状態(資産)と投下資金の源泉(負債および資本)との表示を意味するものと解されている。…
※「財務諸表」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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