日本大百科全書(ニッポニカ) 「逆ユートピア」の意味・わかりやすい解説
逆ユートピア
ぎゃくゆーとぴあ
dystopia
ユートピアが「ここにないところ」という原意から「理想社会」をさすのに対して、逆ユートピアは、その反対語(anti-utopiaということばも存在する)であり、否定的に描かれたユートピアを意味する。ディストピアともいう。トマス・モアの『ユートピア』(1516)やウィリアム・モリスの『ユートピアだより』(1890)がバラ色の「理想社会」を描くのに対して、逆ユートピアの先駆とされるサミュエル・バトラーの『エレホン』(1872)では、機械が意識を有し、人間を奴隷にしてしまう。
このように、とくに近代の産業革命以後の機械文明の発達に対して、その否定的、反人間的な側面を強調して描き出された「未来社会」像のことを逆ユートピアという。オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』(1932)やジョージ・オーウェルの『一九八四年』(1949)で描かれた世界は、現代文明に対する逆ユートピアの典型であり、楽観的な技術至上主義への反省を促すものである。
[田中義久]
『ハックスリー著、松村達雄訳『すばらしい新世界』(講談社文庫)』▽『オーウェル著、新庄哲夫訳『一九八四年』(ハヤカワ文庫)』