能の曲目。二番目物。五流現行曲。出典は『平家物語』。『申楽談儀(さるがくだんぎ)』に世阿弥(ぜあみ)が「修羅(しゅら)かかりにはよき能」とし、井阿弥(せいあみ)の作を世阿弥が改作したと語っている。平家滅亡を悼み、僧(ワキ、ワキツレ)が阿波(あわ)の鳴門(なると)の磯辺(いそべ)で読経していると、老いた漁師(前シテ)と姥(うば)(ツレ。現在の演出では若い女の扮装(ふんそう)のまま前後場ともに演ずる便法が普通)の乗る釣り舟が漕(こ)ぎ寄せて経を聴聞(ちょうもん)する。僧は平家一門の最後のありさまを問い、2人は平通盛の戦死と小宰相(こざいしょう)の局(つぼね)の入水(じゅすい)を語り、海に消える。通盛夫婦を弔う僧の前に、武装の通盛(後シテ)と小宰相の局(本来の演出では後ツレ)の幽霊が現れ、愛を引き裂く戦(いくさ)の無情を語り、戦死の模様と修羅道の苦しみを訴えるが、成仏して終わる。修羅能の原点とされる能で、暗い海から僧の読経に慕い寄る前段、悲恋の情緒に彩られた後段、ともに優れた作品である。
[増田正造]
…鎌倉時代の代表的寺社芸能〈延年〉に原型とみられるものがあり,現行能の《舎利》《第六天》《大会(だいえ)》などは,それに比較的忠実な末流ということができる。世阿弥の執心物,ことに,鬼畜物ではあるが《鵺(ぬえ)》あたりに人間修羅の出現する兆しがあり,直接には,井阿弥(いあみ)の原作を世阿弥が改作した《通盛(みちもり)》に,武者がその執心ゆえに修羅道に落ちて苦しむというパターンが始まる。世阿弥のいう〈修羅〉は,古態の修羅と人間修羅とがやや不統一に概念づけられており,《風姿花伝》〈修羅〉にいう〈よくすれども,面白き所稀(まれ)なり〉とは前者,〈但し,源平などの名のある人の事を,花鳥風月に作り寄せて〉とは後者である。…
※「通盛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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