遊走腎(読み)ユウソウジン(その他表記)Nephroptosis

デジタル大辞泉 「遊走腎」の意味・読み・例文・類語

ゆうそう‐じん〔イウソウ‐〕【遊走腎】

腎臓立位のとき正常位置から下方に移動する状態腰部不快感や痛みを伴うことがある。

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精選版 日本国語大辞典 「遊走腎」の意味・読み・例文・類語

ゆうそう‐じんイウソウ‥【遊走腎】

  1. 〘 名詞 〙 腎臓が一定位置からゆるんで下垂症を起こし動きやすくなっている状態。腰部の不快感ないし痛み、血尿などの症状を呈する。女性に多く、やせた人に多い。腎下垂症とも。

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六訂版 家庭医学大全科 「遊走腎」の解説

遊走腎
ゆうそうじん
Nephroptosis
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 臥位(がい)(寝た姿勢)での腎臓の高さに比べ、立位で2椎体(ついたい)(約10㎝)以上腎臓の位置が下垂(かすい)する状態を指します。本症は内臓下垂の部分症状と考えられています(図4)。

原因は何か

①先天的要因 腎臓は腎線維被膜(じんせんいひまく)に包まれ、その外側に腎周囲脂肪からなる脂肪被膜があり、さらに外部を腎筋膜(Gerota筋膜)という膜がおおっています。この病気は、これら腎臓を支えている周囲の組織が弱いために生じます。

②後天的要因 腹筋の弛緩、腹圧低下に加えて、腎周囲脂肪組織の低下があげられます。いずれにしても、立位では肝臓など重量に富む臓器の荷重負荷がかかるなどの要因から、右腎は左腎と比較して下垂しやすくなっています。

症状の現れ方

 臥位・座位などによりおさまる腰痛、側腹部痛、腰背部痛を訴えることが多く、その多くは鈍痛で、立位歩行や荷重などで、症状が悪化します。

 血尿は、腹痛と並んで遊走腎でよくみられる症状で、通常は目に見えない顕微鏡的血尿が主体です。肉眼的血尿がみられることもありますが、血尿により貧血を生じることはありません。また立位で背中を反る体位をとった時に、軽微な蛋白尿(たんぱくにょう)を認めることもあります。

 尿路症状として頻尿(ひんにょう)、残尿感、排尿痛などの膀胱刺激症状を訴える人もいますが、遊走腎による特異的症状とはいえません。そのほか食欲不振、吐き気、下痢、便秘、胃部膨満感(ぼうまんかん)などを訴えることもあります。

検査と診断

 臥位と座位における腎臓の触診と、静脈性尿路造影での臥位と座位での腎臓の位置の比較が診断の中心となります。

 静脈性尿路造影では、立位負荷をかけた時の腎臓の下垂の程度に加えて、腎臓の回転、捻転、偏位および腎盂(じんう)腎杯(じんぱい)の形態変化などを観察します。

治療の方法

 遊走腎は症状がない場合はそのまま経過観察し、上記のような症状がある場合でも、原則的に保存的治療を優先すべきです。重い病気ではなく、腎不全にはならないことを理解することが重要です。

 保存的治療としては、やせている人は腎周囲の脂肪を増加させ、腎臓の支持・補強を行うため体重を増加させます。

 また、理学療法として腹筋・背筋力強化のための運動療法を行うとともに、コルセット腹帯などを用いて腹壁の緊張を保持します。

 遊走腎に対する単独の手術として腎固定術が行われることは、極めて少数です。

病気に気づいたらどうする

 泌尿器科を受診し、専門医からこの病気について説明を受け、治療法に関して相談をしてください。

来栖 厚


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改訂新版 世界大百科事典 「遊走腎」の意味・わかりやすい解説

遊走腎 (ゆうそうじん)
movable kidney

腎臓は正常でも呼吸運動とともに数cm上下に移動するが,この範囲をこえて大きく移動する場合をいう。とくに下方に移動していることが多く,これを腎下垂症nephroptosisと呼び,本症とほぼ同義語に用いられている。腎臓は,腎動脈や腎静脈および腎臓周囲の脂肪組織によって,腰背部の後腹膜腔に固定されている。先天的にこの腎血管が異常に長い場合や,腎臓周囲の脂肪組織の発育不全があると,本症が起こると考えられている。後天的には,やせすぎなどが原因となることもある。20歳以上の女性に多い。症状は腰背部や腹部の鈍痛,胃腸症状,不安,ヒステリー様症状など多様であるが,これらがすべて本症によって起こるとはかぎらない。同時に胃や腸など他の内臓下垂症を伴っていることが多いからである。治療は腹帯の着用や全身の体力増強などの保存的療法を行うが,軽度なものでは治療の必要はない。症状の強いものや下垂が著しくて腎臓が骨盤内に入るような場合は,手術によって腎臓を正常な位置に固定する。
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百科事典マイペディア 「遊走腎」の意味・わかりやすい解説

遊走腎【ゆうそうじん】

腎臓は健康な状態でも,立位においては横たわった状態よりも4〜5cm下がるが,10cm以上下がる状態を腎下垂という。腎下垂と共に前後左右に動いてしまうものを遊走腎という。胃下垂,結腸下垂など,他の内臓下垂も合併することが多い。尿管の屈曲や腎動静脈の伸展に伴って,尿流通障害,腎盂炎,腰痛などが起こる。腹帯やコルセットによる腎臓の正常位置固定によって予防するが,動く範囲が大きいもの,症状が強いものは手術によって腎臓の固定をはかることもある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「遊走腎」の意味・わかりやすい解説

遊走腎
ゆうそうじん

腎臓は呼吸、体位により生理的に2~5センチメートルの範囲内で上下に移動するが、この範囲を超えて移動する場合をいう。一般に右腎に著明で、20~40歳の体形的にやせた女性に多く、内臓下垂症の一種とされている。腎または腰部の鈍痛時に仙痛、頻尿、排尿痛などの膀胱(ぼうこう)症状、悪心(おしん)などの消化器症状、種々の神経症状を訴え、血尿、膿尿(のうにょう)などがみられることもある。腎臓の触診と臥位(がい)と立位の排泄(はいせつ)性腎盂(じんう)撮影で診断することができ、症状が軽いものは腹帯や肥満療法で軽快することが多いが、症状が著明なものや合併症を伴うものは腎固定術を行うことがある。

[土田正義]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「遊走腎」の意味・わかりやすい解説

遊走腎
ゆうそうじん
wandering kidney

臥位から立位をとると腎臓は若干下降するし,また呼吸運動に伴って,吸気では下降,呼気では上昇する。この下降が正常の範囲をこえて著しいものを遊走腎または腎下垂という。腎臓の周囲を包んでクッションの役割をしている脂肪組織が少いためとされている。特にやせ型の女性に多く,内臓下垂の部分現象ともみられる。腰痛や不定の胃腸症状がおもな症状で,腎出血の原因となることもある。無症状のことも少くない。症状のあるもののみを遊走腎症といって,区別することもある。

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